先日、4月から走っていたプロジェクト、「創業X」の公演がついに幕を開けました。

一回だけの公演でしたが、大成功に終わりました。

 

「創業X」は株式会社ワールドエッグスさんの企画で、依頼されてきた社長の人生を舞台化するというものです。

 

去年は株式会社イオレの吉田社長(現在は会長)で夢に向かって走ることをテーマに

作りました。

 

さて今年はどんな社長に出会えるのか、と楽しみにしながら詳細を聞いた。

 

今回は派遣会社、「ホットスタッフ」の社長の話を舞台化してほしいとの依頼。

 

ただ一つ問題は本人には内緒でサプライズイベントとしてやりたいとのこと。

なのでインタビューは不可。代わりに役員さんたちがインタビューに答えてくださるとのこと。

 

それはそれで楽しそうと思ったので快諾し、いざ「創業X」始動!

 

しかしインタビューの2日前、この話を依頼してくれたホットスタッフ側の役員

古川剛(ごう)さんが突然、逝ってしまった。

どうなることかと思いながらのインタビューだった。

 

当日。本社に向かうと、

威風堂々とした役員さんたちが6人。

僕は緊張して手が震えながらのインタビューだった。

そんな僕を気にしてか、役員さんたちは気さくに笑い話をしてくださった。

 

だが古川さんの話はインタビューで出ることはなかった。

 

一度目のインタビューは、僕が空回りしたおかげで、あまりいい成果は得られなかった。

日を改めて、2回目のインタビューに挑戦。

前回シドロモドロになってしまった自分に反省しながら、聞きたいことを車内で整理する。

間をとりもってくださっている現地のイベント会社さんに、古川さんのことを訪ねてみた。

 

いや、今は微妙な時期だから、言わないほうがいい。

 

わかりました。古川さんは舞台には出ない方向で作ります。

 

望まれないものを作るのはよくないと僕も思うので承諾し、

もう一度ホットスタッフ本社へ。

ドアを開けると、役員さんたちの戦国武将のようなオーラに再び圧倒される。

 

何でアイスブレイクできるか、この人たちの真理を聞きたいと思い、インタビューなのに自分のことを少し話してみた。

 

リーマンショックの時、僕アメリカにいたんです。その時働いてたラーメン屋さんが、リーマンブラザーズの本社の前だったんです。

それで、リーマンショック後、2週間もたたないうちにビルがなくなったんですけど、僕の働いてたラーメン屋にはショックは起こりませんでした。

 

ちーん・・

 

逆に重苦しい空気になる。

だがあえて間を空けて話し、ゆっくりとしたムードで話を聞いた。

最後の5分に「古川」というワードが出てきた。

 

そしてなんとなく空気が緩み始めた。

 

ああ、そうだったなあ・・。そんなことがあったなあ・・。

 

皆役員さんたちは昔を懐かしむ表情になっていたところで時間切れに。

 

今回は前回より打ち解けて話せた感じがした。

だが、帰って録音したインタビューを聴きながら整理してみると、

やはり物語が上手くまとまっていないと感じる。

 

何かが足りない・・

 

物語をつなげていく役目のキャラクターを「古川さん」に設定したらどうか・・。

そう考えはじめ、もう一度インタビューを依頼。

僕の中ではもう古川さんは舞台の中枢人物になることが決まっていた。

 

三度目の正直で役員の一人、水田さんに古川さんのことを聴くことに。

水田さんは古川さんと一番仲が良かった存在で、前回のインタビューで「古川」のワードを出してくれた人物だった。

 

古川さんの行動やいでたち、いろいろなことを聞いた。

社長に食ってかかる。胸倉のつかみ合いをする。とにかく破天荒な人物だったようだが、実はやさしくて思いやりのある人だと感じた。

一番のキーワードは社長が古川さんの葬儀の弔辞で、

 

弟よ・・

 

と言ったことであった。

 

ここからキーワードつなぎ合わせながら物語を創造することに。

 

野球、プロ、負けず嫌い、武将、ゴルフ、借金、金を稼ぐ、役員、一蓮托生、社長、支店長、武骨、負けず嫌い、競艇、ギャンブル、リーマンショック、震災、派遣会社、

他力本願、やりたいやつはやればいい。

 

 

何のために・・。

 

この日から

逢ったこともない人を創造することが、どんなに大変か思い知らされる日々が始まる。

毎晩、自分の中の社長像を目を瞑って想像し、この時、社長はどう感じたかを考える。

というか憑依した状態で描く作業だった。

 

描けないときはイタコさんのように何かが降りてくるのを祈っていた・・。

 

それから数日後、ワールドエッグス側からメールがきた。

竹内力さんが出演オファーを受けてくださることになった。

竹内さんが読むであろうセリフを作り上げる。

おそらく低めの声で言うであろうから、ここは思い切って「です。ます」調で書いてみる。

自分の描いた言葉を芸能人が言ってくださる日が来るなんて・・。

なんと素晴らしいことか・・。

 

8月、なんとか台本が出来上がるが、肝心なテーマがまだみつからない。

そんな中キャスティングが始まり、続々と過去にスピニンに出演してくれた猛者たちが集まる。

 

作曲、音響、照明、舞監さんも徐々に決まっていき、打ち合わせに入る。

創業Xは通常の舞台公演ではないため、上演時間が1時間半と短い。

そしてこの時間で社長の半生を描かなくてはならないという、超スピーディな展開を余儀なくされる。

 

作曲の市川ロ数さんとの打合せで30曲近い曲を依頼。

 

え・・こんなにあるんすか・・。

 

ははは・・。

 

と照れ笑いするしかない。

 

音響さんとは、シーンの背景について考えながらの作成だった。

借金を背負う、悪夢、リーマンショックの3つの効果音。

どれも聞いたこともない音だけど、忍び寄る黒い影のようなイメージで低音を聞かせていただくことに。

 

ほんの数秒で主人公を地獄の底に叩き込めるのも音楽。

 

少ない時間を効果的に使うには音の力は偉大・・。

 

10月、ついにリハーサルが始まる。

今回は膨大なダンスシーンの数々に、リハーサル開始2日目にしてけが人が続出。

 

社長役の松井も、股関節をひどく痛めてしまい、リハーサルが不可能になってしまう

 

派遣会社って大変なんだなあ。とつくづく実感・・・

 

10月に入り、出来上がったシーンをつなげてみると、目を覆いたくなるほどいびつな形になっていた。

毎晩、台本を読みつつ改編を重ねて眠れない日々が続いた。

 

ゴウ君・・君は僕たちに何を求めているんだい・・

台本の終わりに何気なく書いていた文字が目に入った。

 

Mean to be ・・

 

運命。。

 

あ・・なるほど。いろいろとやっていく中で忘れていた言葉。

これがテーマだと気が付いた。

野望に燃えて金を稼ぎまくって、走りまくった先に何があるのか・・。

 

借金を抱えたのも運命。部下と大喧嘩したのも運命。笑ったことも。泣いたことも。

あの日、甲子園を目指していた球児が、野球と別れ、違う道を歩き始めたことも運命。

 

運命に従って最後は、人のために走る物語だった。

 

この言葉はなんとなく台本の一番下に残しておくことにする。

 

感のいい役者なら気が付くはず。

 

そう思い最終稿を皆に配る。

 

11月が終わるころ、照明さんがやってきて全体像を見て照明を作ることに。

まだまだ問題は山ずみだった。

 

スピニンの公演のもう一つの肝は明かり。

照明さんには、創業時は60年代のソウルジャズ系の色味、

最盛期にはバブルのような派手な色味。

と時代によって、色味を変化してもらうようにした。

 

古川役の榎本は悩んでいた。

スピニンの制作もやりながら、寝ずにリハに参加する日々で、顔色も悪かった。

 

彼の作る「古川像」を尊重してやりたい気もしたが、ここは頑としてNOを言いまくった。

 

結果、彼は何をどうしていいかわからなくなってしまい迷い始めた。

 

12月に入り、いよいよリハーサルも大詰めに。

 

今回の芝居は熱量ではない。

 

繊細さが必要だ。

 

と伝え、怒鳴る場所を極力抑えさせた。だが大劇場なので、ある程度大きな声でしゃべらなければいけない。

 

僕の言っていることは矛盾していると、とらえられたと思う。

 

最後の週のリハーサルの日に、皆に問いかけてみた。

 

台本の最後に書いてあるMeant to be・・の意味わかる人いる?

 

松井が得意げに

 

To be continue

 

って意味でしょ。「つづく」です。

 

お前は、俺の気持ちは何もわかっとらんだろう。

 

あきれてものが言えず、コンセプトについて話すタイミングを逃した。

 

そして最終リハが終わり小屋入り。

水田役の大西が髪型も水田さんに寄せ、照れ笑いしながら楽屋入り。

楽屋は和やかになった。

 

だがゲネプロでは明らかに皆が浮足だっていた。

 

思ったより広い。

着替えが間に合わない。

肝心なセリフを間違えた・・

役員さんたちが観に来てる・・。

 

ただ蓮根は、今回輝いていた。

舞台上でも、舞台を降りても精一杯輝こうとしている姿には脱帽。

 

ゲネプロ終了後、

古川役の鉄平に僕はまだこの期に及んで「古川像」を伝えた。

 

そして当日の朝。

満を持して竹内力さんが合流。

セリフを読み上げた瞬間、4カ月前に想定したいたことが、よみがえった。

 

味のある強く低い声を「です。ます。」調で伝える。

 

全てのピースがハマり本番へ。

 

本番は思いもよらない力を皆が発揮した公演となった。

全員が、前日のゲネプロとは全く別人だった。

 

公演が終わり、長い長い道のりの「創業X」が幕を閉じた。

 

社長(現会長)の言葉で、

 

また古川に逢えた気がした。ありがとう。

 

という言葉をいただいた。

 

この物語に関わった全ての人々に感謝した。

 

ああ・・僕はこのために作品を作ったんだと思うと感慨深かった。

 

帰り際の新幹線のホームで松井がふと缶ビールを僕に手渡し、何も言わずに去っていった。

 

今飲んだらこれ一杯で泥酔しちゃうよ・・。

 

と思いながら彼の気持ちに感謝した。

 

新感線の帰り道、ぬるくなった缶ビールを眺めながら考えた。

 

古川に逢えた気がした。

 

この言葉をもらうために、ここまでみんな頑張ってきたんだな・・。

 

 

 

 

 

 

前説中の大西まさし。

噛みませんでした。やるなあ。

 

竹内力さんはさすがだった。

 

帰り際に素敵な舞台だった。と言い残して帰っていった。