こんばんは、スピニンのおごられボーイ・拓です。


 今日あったことをブログで書いてみたのですが、思ったより長くなり、たぶん40000文字超えてしまい、一度に公開できないみたいなので、2つに投稿分けさせていただきます💦

 お手数ですが、あー暇だなー、というポカンとした時間にぽろぽろ読んでみてください。

 よろしくお願いいたします🤩














 鍵を開けて部屋に入り、テレビをつけると、巨人対広島のナイター中継をしているところだった。バッターボックスには坂本。ここまでの好調をこのまま維持すれば三冠王も見えてくる、と解説者が興奮気味に語っていた。
 ぼくは背中一面にじっとりとかいた汗のせいで、Tシャツを脱ぐのに一苦労していた。ようやく引きちぎるように脱ぎ終えると、そのまま洗濯カゴにスマッシュ。ジーパンとパンツも脱ぎ捨て解放されると一目散にシャワールームに飛び込み、蛇口をひねった。


 晩ごはんはいつもの定食屋に行こう。昼あたりからすでに決めていた。
 今夜はいつもより帰りが遅くなることがわかっていた。それからスーパーマーケットに買い物に行き、料理をしていたのではかなり時間が遅くなってしまう。それにただでさえ最近は”自分のためだけに自分で料理をする”ことに対しての意欲が失せていたから、この提案はチーム・松尾にすんなりと可決された。
 

 鮭と白身魚のフライ定食 750円税込


 だいたいいつもこれだ。迷ったらこれだ。たまにハンバーグ定食になるときもあるが、だいたいこれだ。
 汗びっしょりの体で行くのも気分が乗らないと、シャワーを浴びてから定食屋に行くことにしたのである。
 しかし、家に着いたのは、定食屋が閉まる40分前。歩いて1分のところにあるとはいえ、あまり猶予は残されていなかった。


 バスタオルで濡れた髪を乱雑に拭きながら、なんの面白みもない白Tシャツと憲章さんからもらった七分丈のズボンを履いて、ドライヤーをon。後ろのほうはまだだいぶ濡れていたが、誰も気にしやしないと、

 サイフ、ケータイ、山田詠美の小説

 を持って、下駄を履いた。外に出ると、扇風機が壊れた室内よりも37倍は気持ちのいい風が吹いていた。


 定食屋の扉を開くと、満席で、おかみさんにすみませんと謝られた。想定外のハプニングに見舞われ、次の一手を決めあぐねていると、手前のテーブル席にいたお姉さんが「わたしたちもう出ますから、どうぞ」と言ってくれた。同席していたワイルドに日焼けしたおじさまも笑顔で応えてくれた。


 助かったーー!


 礼を言いながら見送ると、「奥の席にどうぞ」と空いた4人掛けのテーブル席の奥に詰める形で案内された。そのときぼくの心にはとても爽やかな草原が広がっていた。もしお客さんが入ってきたら、喜んで相席を受け入れよう。それでまさしさんばりにその方々と仲良く話したりしちゃったりして「spin1.5」の宣伝しちゃおう、と意気込んでいた。
 ただ、その時点で閉店まであと25分くらいになっていた。だから、おそらくもう来ないだろう。そう思った......次の瞬間、


 カランカランッ


 と扉が開いた。目を向けると、出前から帰ってきた店員の姿。に、続いて男が一人、入店してきた。


 年齢は50歳前後だろうか、不健康な感じで色が白く、太っていて、メガネで、髪の毛はだいぶ薄くなっていてボサボサで、口元はだらしなく緩んだまま、手にコンビニの袋を持っていた。


 店員は、こちらにどうぞ、とぼくの斜め向かいの席を指した。相席だ。おじさんはちらりとぼくの方を見た。少し遠慮気味に見えたので、どうぞ、と笑顔で対応した。心に草原が広がっていたから。おじさんは店員に、ポークソテー、と注文してから、ゆっくりと席に座った。テーブルの上に置かれたコンビニの袋からは、あまり健全とは言えない類の週刊誌の表紙がのぞいていた。


 ぼくは山田詠美の本を読みながら鮭と白身魚のフライ定食を待っていた。
 おじさんはメニューを手にしたまま、見ているのかいないのか、身じろぎひとつせずにじっとしていた。

 するとふいに、


「すいません! ビールと餃子ください!!」


 と大きな声で注文をした。店内にいた他の客に緊張が走ったのは言うまでもない。みな、やはり気にはなっていたのだ。
 店員がやってきて、おそるおそる「すみません、うち、餃子はやってないんですよ......」と伝えた。いったいなんのためにメニューを持っていたのだろう? おじさんは「ああ、じゃあ、ビールだけ追加で」と言った。
 

 ぼくは山田詠美の小説を読み続けた。中身はちっとも頭に入ってこなくなった。正直に告白しよう。誰か来たら相席をするぞ! と決めた時点では、可愛い綺麗な女性がやってくるイメージでものごとを進めていたのだ。なんかちょっといい雰囲気、みたいな感じで妄想していたのだ。バチが当たったのだろうか? いったいこれはどういうことなのだろう? ぼくはこんな展開を望んでいたわけでは決してないのだ。
 本を開いたままちらりとおじさんを見ると、おじさんを何を見ているのだろう? 虚空を見つめたままわずかにゆらゆらと揺れていた。

 ビールが運ばれてきた。と同時にコップに注ぎ、口に運ぶ。と同時に、口元からなかなかの量のビールをこぼれ落ちていった。おじさんの服にかかり、テーブルにも滴り落ちた。隣の席の老夫婦が不安の色をどうにも隠しきれていなかった。おじさんは別に慌てた様子もなく、備え付けのティシューを5枚引き抜いてテーブルを拭いた。5枚も要らないんじゃないかとぼくは思った。それから再び、ぼくは本を読むフリに戻った。


 ようやく鮭と白身魚のフライ定食がやってきた。待ちわびていた。時間はあと15分ほど、おじさんもいるし、さっさと食べて帰ろうとさっそく箸を動かし始めた。


 むしゃむしゃむしゃ......


「ここは何時までなの?」とおじさんがまたふいに大きな声を出した。
「●時までです」と店員さん。


 むしゃむしゃむしゃ......



 少しして、おじさんの元へポークソテー定食が運ばれてきた。照りのあるタレに包まれた厚切りの豚肉。非常に、うまそうだった。おじさん、いいオーダーしたじゃないかとチラリと見ると、おじさんもまたさっそく箸に手を伸ばしていた。
 おじさんは厚切りの一切れを掴んだ。そして躊躇なく、丸ごと口の中へ放り込んだ。それを一口でいくのかとぼくは驚愕した。いくら厚切りとはいえ、6切れほどしかないオカズのうちの一切れを一口で!? なんと大胆な。そしておじさんはお米を頬張っていく。そのペースでご飯とオカズの分量合うかなと不安がよぎったが、それはぼくの定食ではないのだ。好きに食べればいい。そう思いなおし、フライにタルタルソースをつけた。