なぜ交代カードを一枚残しておきながらGKをシュミット・ダニエルに替えなかったのか…。

それに関しては後述するとして…

PK戦になり、日本は負けるべくして負けた。

 

先に述べておきますが、私は強烈な森保監督批判論者ではないし、日本代表の潜在能力を高く評価しており、今回の躍進は大会前から期待していました。

 

そのうえで…なんとも残念な結果。

 

試合の解説に関しては皆さんもいろんなメディアやコンテンツで既に見識をお持ちでしょうが、私個人として敗因を挙げるとしたら、フォーメーションを4-2-3-1にしなかったことと、冒頭で述べたように試合終了前にキーパーをシュミット・ダニエル選手に替えなかったことの2点だと捉えています。

 

フォーメーションに関しては松井大輔さんなど他のサッカー解説者もすでに同じ意見を述べているのを目にしましたが、私は当初からクロアチアに対してはディフェンスは4枚にして両サイドハーフをサイドの高い位置に張らせてピッチを広く使って日本がボールを支配して試合を進めるべきだと思っていました。

 

試合は3バック(実質5バック)でスタートしましたが、森保監督は相手の出方を見ながら相手があまり攻撃的にこないのであれば、長友を下げて右SB富安の形で4バックの形をとり、堂安を左SHの位置に変更する「4-2-3-1」の形を執れる可変戦術型のフォーメーションを採用してスタートしたのだと思っていました。

 

相手は予想どうり攻撃に怖さはなく、日本は今まで積み上げたポゼッションサッカー(ボールを保持し主導権を握る)で充分いい戦いができる雰囲気がありました。

ただ実際は前半はクロアチアにボールを保持されてお互いに決め手を欠き、いわば「退屈な」展開になりました。

 

なぜそうなったのか。一つはクロアチアはそもそもどちらかといえば相手にボールを持たせて試合を運ぶスタイルであったのに、ボールを持たされてしまったから、組織的な守備でボールを奪って中盤が流動的に動き攻撃を仕掛けるという自分たちのサッカーができなかったため。

 

これは予選リーグのボール支配率にも表れているが、そもそものサッカースタイルというのはそれぞれの国のサッカー文化による面も多くて、クロアチアという国は他の多くのヨーロッパ諸国と同じように、スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、オランダといったサッカー強国と対峙するにあたり、ボールを保持された中でいかに戦えるかというサッカースタイルを創りあげてきたはず。

その中で、ポーランドやセルビアなど対格差を活かして空中戦を挑む戦略も執れず、相手にある程度支配されながらも、その反骨心と団結力ある国民性で組織として相手に立ち向かう、といったサッカーが根付いたのだと思う。

 

逆に日本はここ20年で完全にアジアをリードする立場になり、技術的に圧倒的に優位な立場となりポゼッションで支配できるサッカーが自然と身に付いたと考えている。

だからこそ、ハリルホジッチ監督時代の「失われた4年間」を経てポゼッションサッカーに回帰したチームづくりをしているのだと納得していた。

 

ただワールドカップでドイツやスペイン相手に今までの日本サッカーが通用するはずもなく、それを3バックからのハイプレス、カウンターサッカーという付け焼刃のような戦術で勝ち抜いてきた戦術の柔軟性には驚かされた。

いや、戦術の柔軟性というよりは、急な戦術に対応できる選手の柔軟性、献身性に驚かされたというほうが正しいか。

 

そこでクロアチア戦。

結果、お互いにやりたいサッカーができない試合になったような気がします。

実際に120分も戦った中で、セットプレーとミドルシュート以外はお互いあまりにも決定機が少なかった。

 

戦力的には、日本の方が比較的ターンオーバーに成功していることもあり、クロアチア相手には真っ向勝負で挑んでも勝てるのではないかと考えていました。

ただ森保監督はそれを選ばず、今大会での成功体験をもとに、「前半はしっかり守って後半勝負」という戦術に固執しすぎたような気がします。

 

幸いにも守備的な戦いの中で先取点が奪え、優位に戦いを進められましたが、日本は最後まで迫力のある攻撃を仕掛けられず、敗退してしまいました。

 

「1対1でいいよ!最悪PK戦で勝てるかもしれないし」

と思って戦っていたのなら大きな間違いだと言いたい。

クロアチアは前回大会の決勝トーナメントで3度も延長戦を勝ち抜いているんです。しかも2回はPK戦を勝ち上がっている。

その成功体験はチームに植え付けられており、「PK戦になったら勝てるぞ!」というメンタリティではクロアチアの方が上だったと思う。

 

しかもしかも、大きな問題点。ヨーロッパのゴールキーパーの方が明らかにレベルが高いこと。

権田選手が2度に渡ってヨーロッパへ移籍しても最終的には全く試合にも出れず、失意のままにJリーグに戻ってきたことでも明らかであろう。

 

権田選手は大会を通じて好セーブを見せたが、セービング力に関しては世界と遜色はないと思う。横のポジショニングは素晴らしい。ただし縦のポジショニングが最悪レベルで、プレーエリアが狭すぎてクロスに対する飛び出しの判断も酷すぎた。

 

ゴールキーパー経験者として、日本代表に求めるGKの理想像は別のコラムでお話したいと思いますが、兎にも角にも今回のPK合戦…。

 

PK戦は運だから仕方ないと言う人もいるが、そんな単純なものではない。

究極のメンタルが求められる神経戦だ。

基本的にはキッカーが優位で、キッカーは「決めなければいけない」とされる。

キッカーはその押しつぶされそうなプレッシャーの中いかに平静を保てるか、そこが勝負だ。

 

一方でキーパーはその平静を保とうとするキッカーにプレッシャーを与えたり、駆け引きをして「心理戦」に持ち込むことが要求される。

 

PK戦でのGKの動きに注目してみてほしい。あるGKはキッカーが準備している時にボールの前に立ち邪魔をするように圧をかけ、あるGKはわざと左サイドを大きく空けてから細かくポジションを移し、キッカーと駆け引きをする。(韓国対ブラジルの韓国GK)

また予選リーグで2度PKを止めたポーランドのGKシュチェスニーは一瞬のフェイントでキッカーの裏をかいて見事にセーブしてみせた。しかもよく見ると2本ともフェイントの入れ方が違う。

 

日本のGKはどうだろう。WC前の貴重な強化試合であるエクアドル戦。

ダニエル・シュミット選手は世界レベルのストライカー、エネル・バレンシア選手(今大会も予選リーグで3得点)に対し、「俺のほうが優位だぞ」と言わんばかりの不敵な笑みを浮かべ、蹴る前に身体を大きく使ってゴールを狭く見せ、ずっと動き続けることで相手の集中力を削ぐ。

そのあとは「読み」と「判断」で、もちろん駆け引きだけでPKを止められるものではないが、GKにできることはそれだけあるということ。

 

結果的にシュミットは見事にPKをセーブしたが、その試合に限らず、所属のベルギー1部シントトロイデンでもPKの時はそのように動いて駆け引きをしている。

 

権田選手はどうだろう?

WCに限らず、今までの代表戦でも駆け引きしている様子は見られない。

確かにじっと集中力を高めるキーパーもいる。

クロアチアのGKもそういうタイプのようだ。

ただ、クロアチアのGKはキッカーが足を振り上げるギリギリまで動かず、驚くべき瞬発力で日本のPKを止めまくった。

権田選手は残念ながら、上体を使ってフェイントをいれるわけでもなく、ただ単純に早く動きすぎて逆を突かれる。

大会前から権田選手はPK戦では期待できない面を見せており、そのままの結果になっただけである。

 

森保監督は交代カードを一枚残したまま試合終了を迎えた。

終了間際にダニエル・シュミット選手に交代するという作戦を持っているのかと期待したがカードは切られないまま…。

このような交代は世界レベルの大会では珍しいことではない采配だ。

過去のワールドカップでも、交代したいわゆる「PK職人」のGKが止めまくって勝利に貢献したことがあった。

 

ただ森保監督は権田選手を信じ続けたのだろう。権田選手のプライドや、メンツを潰してはいけないという優しさが働いたのかもしれない。

川島選手を信じ使い続けた西野監督のように。

 

権田選手との「心中」を選び、応援していた日本国民はその「心中」に付き合わされて一緒に心中した、そんな戦いだったと思っています。

 

結果は変わらなかったかもしれませんが、シュミット選手だったらどうだっただろう…と考えさせられる結末でした。

 

ただ、森保監督は見事な采配で世界のトップレベルと戦えることを証明してくれた。

また采配とか戦術とかを超越して、チームワーク、戦う姿勢を持った熱きサムライの集団を創りあげてくれた。

本当に素晴らしい戦いを見せてくれました。

森保監督、代表戦士たち、そしてスタッフの皆様、本当に感動をありがとうございました。

 

最後にここまで読破してくれた読者の方、こんな長いコラムを最後まで読んでいただきありがとうございました。

 

熱くなりすぎてあまりにも長い文章になってしまい、申し訳ありません。

 

批判コメントも含め、いろいろとご意見をくださると嬉しいです。

今後ともよろしくお願いいたします。