「もう少し笑顔で」
就職した頃、良く上司から言われた言葉
「面白くもないのに笑えるかっ!」
スーツのポケットに忍ばせたフリスクを握りしめて
俺はいつもそう思ってた。
13歳 中学の頃。
好きな女の子が居た
屈託なく笑う 華奢な女の子
下校時間 下駄箱から靴を出すと その子が俺に声を掛けた
「○○くんて かっこいいよね」
俺は嬉しかった
「そう? ありがとう。」
「うん。笑わなければ COOLで すごく素敵」
無邪気な彼女の言葉は 幼い俺に呪いをかけた
「もう少し笑顔で」
20歳を過ぎても
それは 苦痛でしかなかった
ある日
会社の廊下ですれ違った
年上の人
「○○くんだよね?」
「そうですけど。」
「この間のプレゼン見たよ。凄く良かった。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「うん。最後に見せたでしょ?あの笑顔。
きっと、あれで皆、あなたにしようって決めたのよ。
あの笑顔を見たらみんな『きっとこの人ならやってくれる!』って思うもの。」
……
「そうですか。ありがとうございます。」
俺は頭を下げた。社交辞令。
こんなことは良くある。
「でも…。あの笑顔…。。」
「……はい?」
「……完全な作り物よね。」
彼女はふふっと笑った
「いえ。そんな事ないですよ。」
俺は同じ笑顔を見せた。
「ほら。同じ…。目が寂しそう。」
数年後 彼女は俺の恋人になった
「アイスドール」
付き合い始めてから
彼女は俺にそう言った。
とびきりの笑顔を作る口元
そして 決して笑わない目
俺は アイスドールだと
アイスドール
俺は彼女が好きだった
彼女が居れば他には 何も要らない と
そう思うくらい
「君を愛してる」
いくら
言葉を重ねても
暗闇の中 耳をふさいで
抱きしめあっても
ぎこちない笑顔は
どれだけ君を苦しめたのか
所詮は アイスドール
本当の「笑顔」に代わるものなど
俺は持ち合わせていない
Raid