シェダルの動きが止まった。
「…あれは…!?」
「な、何だ!?」
「ラッシュの様子が…」
周囲の戦士も、ザワついている。
倒れたままのラッシュ。
突如、その彼を清々しい風が取り囲んでいたのだ。
風は、微かに緑色を呈している。
そして、森のような、自然の香りが、シェダルの鼻をついた。
「…これは、草原属性…」
「ラッシュ自身から発せられている…これは…」
イクスサンダーが呟いた。
そこに、セフトが付加する。
「そういえば、草原属性には治癒能力がある…今、医療班としてこの基地に来ているプラントの治癒能力だって、そうだ。彼奴も草原属性を活かして、治療を行っている。…しかも、ラッシュの場合…美属性に月属性をも持つ。…月属性には会心の能力がある。その能力は、攻撃の際に相手へのダメージを増大させて、より効果的な攻撃を放てる能力。…それが治癒能力にも掛け合わされば…この治癒能力の標的は自分自身であるがために、『相手へのダメージ』は『自分自身への回復』へとコンバートされる。…よって、能力の掛け合わせのお陰で、より高速で効果的な治癒が可能となり、更には完全な身体までをも創り直す。」
「…ほぉ…」
シェダルは声を漏らした。
そこに、イクスサンダーも続けて呟く。
「…って事は…まさか…」
その時。
再びシェダルの大剣が動く。
「…ふっ、ならば今のうちだ。此奴が目覚める前に、俺はその息の根を止めるのみ…!」
大剣を振りかぶる。
「…!!!」
「や、やめろ…!!!」
直ぐに、その大剣が振り下ろされる。
「…!?」
突如、ラッシュの姿が消える。
「何っ!?」
シェダルが直ぐに後ろを振り向くと、そこには穢れのないラッシュが、立っていた。
両眼下部には、赤いラインが入っている。
「…!!!」
「ラッシュ…!!!」
…不思議だ。
痛みも、疲れも感じない。
全ての身体の力を抜き、自身の治癒だけに全力と時間を注ぎ込んだお陰で、充分な回復を遂げる事ができた。
綺麗さっぱり、精神が研ぎ澄まされた感覚。
開眼し…俺は再び、シェダルと睨み合った。
「…ふっ、驚いた。まさかあの死にかけの状態からここまで復活するとは…早くトドメを刺しておけばよかったな。…だが、なかなか面白くなってきた。まだこの俺を楽しませてくれるとは…大したものだ。」
「…そりゃぁ、どうも。」
眉間に皺を寄せ、俺は答えた。
「…だが、治癒という事は…お前の体力ゲージ、及び戦力は、マイナスからゼロに戻ったのみ。ただ振り出しに戻っただけだ。…これでは、俺に勝つ事に関して、何一つ解決していないぞ。」
…確かに、シェダルの言う通りだ。
このまま闇雲に戦っただけでは、俺はまた倒され、今度こそ一思いに殺される。
しかし…
「…分からねぇぜ?」
「何だと?」
今の俺には、僅かながらこのシェダルとの戦闘経験…要するに攻撃パターンやシェダルの戦闘能力の特徴…長所や短所が、情報として在る。
…姉貴も、俺についてくれているしな。
それに、俺には多少なりとも常人のそれとは違った、頭のキレがある。
考えろ。
考えるんだ。
このシェダルに勝つ方法を。
この勝負を、制する方法を。
…先ずは、シェダルの特徴…
先程戦った時の様子を見るに、元々持っている攻撃力は、嫌という程高い。
それに、月属性特有の会心の能力もあり、攻撃を受けた際、俺へのダメージは半端ない。
しかしその反面、あまり自身の居場所から動かないところを観察するに、俊敏性に関しては恐らく俺の方が優れているだろう。
あの背中に生える羽根は未だに使われている所は見ていないが、きっとそのうち上空の浮遊に使われるはず。
だが、その俊敏性が欠けている事に変わりはないだろう。
それに対して、俺自身が使える能力、そして技…
草原属性による治癒能力、月属性による会心の能力…
そしてΛ覚醒による、攻撃力をはじめとした戦闘能力の拡大。
そこに使えるのは、月影一閃、水鏡逆撃、弄月廻瀾、盈月核心…
更に月影一閃がΛ覚醒により強化された、紅一閃。
Λ覚醒時専用技である、紅投網。
Λ覚醒時限定の技は、かなりの体力を消耗するため、連続して使用する事は避けた方が良い。
さぁ、シンキングタイムだ。
やるぞ。
剣を強く握り…地を蹴る!
…シェダルも同様に、大剣を握っている。
俺の剣を大剣で阻むつもりだろうか。
だが俺は、シェダルと少し距離を取ったまま…
床スレスレに紅一閃を放つ!
…鋭い一撃がシェダルを狙うが…
シェダルは易々と回避する。
「…ふん、やはり何も変わらぬな。」
よし、この角度なら…
さっきの時の攻撃と同じだ。
巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側に紅一閃が当たり、反射して此方へ返ってくる。
シェダルはその反射をも計算に入れ、その軌道を空けておく。
しかし…
「何っ!?」
紅一閃は俺自身に返り、その攻撃を俺は再び別の方向へ返す。
カウンター攻撃の技、水鏡逆撃だ。
紅一閃の攻撃に、更に会心の能力を追加していく。
水鏡逆撃で返した攻撃が、再び巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側に当たり、また反射して此方へ返ってくる。
…その繰り返しだ。
最初に放った紅一閃が、巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側を何度も跳ね返り、俺が会心の能力を追加して跳ね返し続け…
一つの斬撃が凄まじいスピードで結界の中を飛び交う。
それも態と、シェダルの至近距離を通らないように。
…会心の能力を何重にも重ねたこの状態で…
最後に水鏡逆撃で結界の上部に向けて、自身の攻撃を返す!
半球状の結界上にある、とある点から、俺の居場所とシェダルの居場所へ延ばした直線。
そして、そのとある点と結界の接する面。
その2つの直線と面が成す角…即ち、入射角と反射角が同じ角になるように。
その点に向けて攻撃を返し…シェダルを狙う…!
「な…っ…!?」
上の方を見ながら、目を見開くシェダル。
「おっ…!?」
「す、すげぇ…!」
唖然とする戦士達。
その時。
凄まじい轟音、そして埃や瓦礫が…瞬く間に結界内を充満する。
「くっ…」
ふと一瞬、目を瞑ってしまう。
そして直ぐに目を開き…灰色に霞んだ視界の先を見ると…
片膝をついて直立を試みるシェダルの姿があった。
そのシェダルの腹部は貫かれ…止めどなく血が溢れ出ている。
そんな腹部を強く押さえ、此方を凝視している。
「げほっ…!」
…よし。
かなりダメージを与えられたようだ。
聞こえるか聞こえないかの声で…
シェダルは呟く。
「…貴様っ…!」
続く。

















