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lavaの創作ストーリー用ブログ

lavaの創作ストーリー『LAVARATORY』を小説化したものを載せています。
厨二病なバトル小説書いています。

「…うん?」
シェダルの動きが止まった。
「…あれは…!?」
「な、何だ!?」
「ラッシュの様子が…」
周囲の戦士も、ザワついている。
倒れたままのラッシュ。
突如、その彼を清々しい風が取り囲んでいたのだ。
風は、微かに緑色を呈している。
そして、森のような、自然の香りが、シェダルの鼻をついた。
「…これは、草原属性…」
「ラッシュ自身から発せられている…これは…」
イクスサンダーが呟いた。
そこに、セフトが付加する。
「そういえば、草原属性には治癒能力がある…今、医療班としてこの基地に来ているプラントの治癒能力だって、そうだ。彼奴も草原属性を活かして、治療を行っている。…しかも、ラッシュの場合…美属性に月属性をも持つ。…月属性には会心の能力がある。その能力は、攻撃の際に相手へのダメージを増大させて、より効果的な攻撃を放てる能力。…それが治癒能力にも掛け合わされば…この治癒能力の標的は自分自身であるがために、『相手へのダメージ』は『自分自身への回復』へとコンバートされる。…よって、能力の掛け合わせのお陰で、より高速で効果的な治癒が可能となり、更には完全な身体までをも創り直す。」
「…ほぉ…」
シェダルは声を漏らした。
そこに、イクスサンダーも続けて呟く。
「…って事は…まさか…」
その時。
再びシェダルの大剣が動く。
「…ふっ、ならば今のうちだ。此奴が目覚める前に、俺はその息の根を止めるのみ…!」
大剣を振りかぶる。
「…!!!」
「や、やめろ…!!!」
直ぐに、その大剣が振り下ろされる。
「…!?」
突如、ラッシュの姿が消える。
「何っ!?」
シェダルが直ぐに後ろを振り向くと、そこには穢れのないラッシュが、立っていた。
両眼下部には、赤いラインが入っている。
「…!!!」
「ラッシュ…!!!」

…不思議だ。
痛みも、疲れも感じない。
全ての身体の力を抜き、自身の治癒だけに全力と時間を注ぎ込んだお陰で、充分な回復を遂げる事ができた。
綺麗さっぱり、精神が研ぎ澄まされた感覚。
開眼し…俺は再び、シェダルと睨み合った。

「…ふっ、驚いた。まさかあの死にかけの状態からここまで復活するとは…早くトドメを刺しておけばよかったな。…だが、なかなか面白くなってきた。まだこの俺を楽しませてくれるとは…大したものだ。」
「…そりゃぁ、どうも。」
眉間に皺を寄せ、俺は答えた。
「…だが、治癒という事は…お前の体力ゲージ、及び戦力は、マイナスからゼロに戻ったのみ。ただ振り出しに戻っただけだ。…これでは、俺に勝つ事に関して、何一つ解決していないぞ。」
…確かに、シェダルの言う通りだ。
このまま闇雲に戦っただけでは、俺はまた倒され、今度こそ一思いに殺される。
しかし…
「…分からねぇぜ?」
「何だと?」
今の俺には、僅かながらこのシェダルとの戦闘経験…要するに攻撃パターンやシェダルの戦闘能力の特徴…長所や短所が、情報として在る。
…姉貴も、俺についてくれているしな。
それに、俺には多少なりとも常人のそれとは違った、頭のキレがある。
考えろ。
考えるんだ。
このシェダルに勝つ方法を。
この勝負を、制する方法を。
…先ずは、シェダルの特徴…
先程戦った時の様子を見るに、元々持っている攻撃力は、嫌という程高い。
それに、月属性特有の会心の能力もあり、攻撃を受けた際、俺へのダメージは半端ない。
しかしその反面、あまり自身の居場所から動かないところを観察するに、俊敏性に関しては恐らく俺の方が優れているだろう。
あの背中に生える羽根は未だに使われている所は見ていないが、きっとそのうち上空の浮遊に使われるはず。
だが、その俊敏性が欠けている事に変わりはないだろう。
それに対して、俺自身が使える能力、そして技…
草原属性による治癒能力、月属性による会心の能力…
そしてΛ覚醒による、攻撃力をはじめとした戦闘能力の拡大。
そこに使えるのは、月影一閃、水鏡逆撃、弄月廻瀾、盈月核心…
更に月影一閃がΛ覚醒により強化された、紅一閃。
Λ覚醒時専用技である、紅投網。
Λ覚醒時限定の技は、かなりの体力を消耗するため、連続して使用する事は避けた方が良い。
さぁ、シンキングタイムだ。
やるぞ。
剣を強く握り…地を蹴る!
…シェダルも同様に、大剣を握っている。
俺の剣を大剣で阻むつもりだろうか。
だが俺は、シェダルと少し距離を取ったまま…
床スレスレに紅一閃を放つ!
…鋭い一撃がシェダルを狙うが…
シェダルは易々と回避する。
「…ふん、やはり何も変わらぬな。」
よし、この角度なら…
さっきの時の攻撃と同じだ。
巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側に紅一閃が当たり、反射して此方へ返ってくる。
シェダルはその反射をも計算に入れ、その軌道を空けておく。
しかし…
「何っ!?」
紅一閃は俺自身に返り、その攻撃を俺は再び別の方向へ返す。
カウンター攻撃の技、水鏡逆撃だ。
紅一閃の攻撃に、更に会心の能力を追加していく。
水鏡逆撃で返した攻撃が、再び巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側に当たり、また反射して此方へ返ってくる。
…その繰り返しだ。
最初に放った紅一閃が、巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側を何度も跳ね返り、俺が会心の能力を追加して跳ね返し続け…
一つの斬撃が凄まじいスピードで結界の中を飛び交う。
それも態と、シェダルの至近距離を通らないように。

…会心の能力を何重にも重ねたこの状態で…
最後に水鏡逆撃で結界の上部に向けて、自身の攻撃を返す!
半球状の結界上にある、とある点から、俺の居場所とシェダルの居場所へ延ばした直線。
そして、そのとある点と結界の接する面。
その2つの直線と面が成す角…即ち、入射角と反射角が同じ角になるように。
その点に向けて攻撃を返し…シェダルを狙う…!
「な…っ…!?」
上の方を見ながら、目を見開くシェダル。
「おっ…!?」
「す、すげぇ…!」
唖然とする戦士達。
その時。
凄まじい轟音、そして埃や瓦礫が…瞬く間に結界内を充満する。
「くっ…」
ふと一瞬、目を瞑ってしまう。
そして直ぐに目を開き…灰色に霞んだ視界の先を見ると…
片膝をついて直立を試みるシェダルの姿があった。
そのシェダルの腹部は貫かれ…止めどなく血が溢れ出ている。
そんな腹部を強く押さえ、此方を凝視している。
「げほっ…!」
…よし。
かなりダメージを与えられたようだ。
聞こえるか聞こえないかの声で…
シェダルは呟く。
「…貴様っ…!」

続く。
「その口振りの割には、その程度か…」
シェダルは、威圧する。
「ラッシュ…!」
「ダメだ、死ぬな…!」
「くそっ!」
「セフト!?」
巨大なモノクロームチェッカーシールドの外で叫ぶ戦士達。
その中で1人、セフトは飛び出して鎌を振る。
振り続け、モノクロームチェッカーシールドに攻撃を加えていく。
しかし、何度攻撃を加えても傷1つ与える事ができない。
「くっ…!」
歯を食いしばるセフトは、汗を流しながらも攻撃を止めない。
「無駄だ、セフト…!」
「俺達の力じゃぁ…!」
「でも…!」
「その通りだ。」
ふと声が放たれたのは、モノクロームチェッカーシールドの内部から。
ラッシュに刃先を向けたまま、シェダルは口を開いた。
「お前等が来る前か。…さっきも一度言ったが、俺が倒されねば…このモノクロームチェッカーシールドは破壊されない。現に、このラッシュがΛ覚醒を解放してまで放った技すらも、外傷なく反射する程だ。お前等に、為す術は無い。ただただ指を咥えて、外から此奴が死ぬ過程を眺める。それだけだ。…もうじき終わる。さぁ…とくと見るがいい。此奴の最期を…。」
「くっ…!」
「此奴っ…!」
頻りに悔しみを顕にする戦士達。
それでも何もできない自分達に、余計に悔しみが募る。
強く握る拳は、何を動かす訳でもなく…その彼等の悔しみを露呈するのみ。
セフトはただ1人、その拳を眼前の結界に叩きつけて喚く。
「くそっ…俺が、俺がお前を誘ったから…俺が、この俺達の軍に勧誘したから…こんな事に…」
雫が1つ、2つ…3つ…
セフトの両眼から、半球状の結界を伝って床に落ちる。

「…ふん、見苦しい涙だ。最初からこうなる事は分かっていただろうに。…悔しいか。…仲間を1人失う事が、そんなに悔しいか。…見よ。此奴はもう、目覚めない。もう少し楽しませてくれると思っていたが…期待外れだったようだ。何とも呆気ない最期だったな。この俺の逆鱗に触れた事…その死を以て償うがいい。」
「いや。」
「…!?」
口を開いたのは、リバースだ。
「償うべきはお前の方です。シェダル。今こそ、この瞬間で断罪され、更生し、次なる道を歩むのです。そう…ラッシュの手によって!」
「…ほう…?」
疑問符を浮かべる。
…と思うと、今度は笑い声を上げ始める。
「ふっ…ふはははははっ!…な、何を馬鹿げた事を…!…見ていなかったのか?…現に今、ラッシュは俺の目の前で斃っている。そんな奴が、どうやってこの俺を断罪するって?…ふっふっふ…いやぁ、急にそんな夢物語を語って楽しいか。愉快だな。ふぅー…」
嘲笑うシェダル。
それを凝視するリバース。
彼はそんなリバースに対して、何も口にしない。
「…さて、そろそろ終劇としよう。それじゃぁ…」
ゆっくりと振り上げられる大剣。
「…!!!」
「ま…待て…!!!」

…終わる。
…もう、終わる。
突然始まった、俺の物語も。
自分の村の襲撃を受けて怒りを覚え、仇を取ると心に決めた、あの時から…
俺は、フェターやマナクル…あの2人をはじめとする、クロスジーン達に鋭い矛先を向けていた。
そんな彼等にも、彼等の残酷な過去、そして彼等の揺るがない想いがあった。
けれども、そんな彼等の想いを誤りだと定め、ここまで一心に進んできた。
最後に、クロスジーン達のトップ、シェダル。
彼奴の意思さえ改め、更生させれば…
けれども、そんな俺の想いももう、朽ち果てる。
志だけでは勝てやしない。
ダメだ。
俺なんかが…
俺なんかが、こんな場所に来てはいけなかったんだ。
俺なんかが、口を挟んではいけない問題だったんだ。
…悔しい。
…そんな、無力な俺が…
はぁ。
実に呆気ない最期だった。
楽しかった人生だったよ。
そんなこの世から…
じゃぁな。
『ラッシュ…』
…うん?
…この声…
『あんたは、それでいいのか…?』
…いや、
…いいんだよ、これで。
『私と、同じ場所に来てしまって…』
…そう、
…俺は、そのために…
…二次白軍への加入を決意したんだ。
『この世界の秩序は…』
…分かっている。
『簡単に正す事が、許されないの。』
…分かっているさ。
…姉貴。

『どれだけ苦しんでもいいというのなら、』
………。
『それなりの覚悟を決める事ね。』
…そうだったな。
…この戦闘世界に足を踏み入れた時点で、
果てしない程の苦しみを味わう事は、分かっていた筈だ。
…それでも、やはり苦しいものは苦しい。
…覚悟も決めた。
…けれど、今思えばそれも生半可な覚悟だったのかもしれない。
『ふふ、大丈夫?』
………。
…こんなんじゃ、ダメだ。
この局面で、俺が折れてはいけない。
俺が折れたら、今迄培ってきた全てがパァだ。
二次白軍、二次黒軍、二次赤軍、二次青軍。
皆の努力さえも無駄になってしまう。
…そんな事では、例え俺が死んだとしても、
この世だろうと、あの世だろうと、
誰にだって合わせる顔がない。
そう…
今こそ、改めて自分の覚悟を強く決めるべき時だ。
俺は…
例えこの身が朽ち果てようと、
この物語の最後に必ず…
シェダルを倒す!!!
『決まったのなら…さぁ、』
あぁ…
『想いを固めた拳を以て…』
………。
『その剣を持て!』

続く。
「アークティクキャノン!」
「くっ」
ただの大剣だと思っていたが、違うようだ。
巨大な鍔が多機能化しており、大砲をも発射できるようになっている。
兎に角、回避する。
間隔を空けて次々に飛んでくる大砲を、避けていく。
徐々に距離を詰め…改めて剣を強く握る。
そして…
「月影一閃!」
一瞬、斬撃が輝く。
重い一撃を振った。
…しかし。
「ぐぁっ!」
シェダルの大剣による一振りが、簡単にその攻撃を打ち消し、俺の身体をも吹き飛ばす。
物凄い勢いで一直線に飛ばされた身体は、巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側に激突する。
「ラッシュ!」
「うっ…ぐっ…」
何だ、今の一撃は。
今迄に経験した事のない力。
一瞥をくれてみると、ただ軽く素振りをした程度の一振り。
それでも、向かってきた俺の技を打ち消し、且つその四肢をも吹き飛ばし、その軌道は放物線を描く事もなく一直線に遠い壁まで届いてしまう程だ。
戦力に差がありすぎる。
勝てない。
でも此処で負ける訳にはいかない。
兎に角、立つ。
何が何でも勝つ。
「ふん、驚いただろう。きっと今迄実際に相手にした事がないだろうな。これが、お前も持っている、月属性だ。」
「な、何っ…」
「全ての能力値において優勢を誇る属性…それだけを取ったら、俺とお前に違いは無いだろうが…俺にはそれに掛け合わさった戦闘スキル、経験、そして志。それがお前とは桁違いだ。勝てる訳がない。」
「な、なん…だと…」
身体が、震えている気がする。
圧倒的な戦力差だ。
…怖い。
しかし…俺は再び剣を構える。
そして、口を開いてはっきりと答える。
「確かに…戦闘スキルや経験…それ等は、俺は非常に浅い。最低限のスキルは元から身につけていたが、それ以上は全てこの二次白軍へ勧誘されてからだ。だが、俺にある志は、お前なんかには決して負けない!」
「なんだと。」
「俺はお前達クロスジーンによる、無差別で加減の知らないやり方で、故郷…そして夢を破壊されたんだ!…恨みの矛先を履き違えるようなお前達とは、雲泥の差だ、全く違う!」
「ふん」
俺は地を蹴り、超高速で走る。
「盈月核心!」
会心を狙った一撃だ。
強く、剣を振る。
「アークティクアップヒーヴァル!」
その言葉と共に…真下へ向かって垂直に、地面にシェダルの剣が突き刺さる。
その瞬間、その場所を起点に、俺の方へと次々に床から地殻が鋭く隆起していく。
…基地の7階なのに。
「ぐあぁっ!」
俺の攻撃は、シェダルに届く事なく…再び四肢を真上に飛ばされる。
「ラッシュ…!」
「…ふん、所詮は口先だけの志。この俺の力を前にして対等にやり合える事など…!?」
その瞬間、紅い光と共にシェダルの足元の床が強く抉れる。
「その技…」
俺は空中からシェダルに向かって、紅一閃を放ったのだ。

そこでもう一度、空中からシェダルに向かって剣先を向ける。
すると、シェダルによる小型のモノクロームチェッカーシールドが、シェダルの真上に召喚される。
そこに、俺はもう一撃…を当てる事なく、モノクロームチェッカーシールドの上に着地する。
僅かながら落下距離を減らし、且つ床よりもやや不安定な盾へ着地した事で、着地時の衝撃を吸収できた。
そのまま、モノクロームチェッカーシールドを蹴り、床に着地する。
その姿を見て、シェダルは再認識する。
「やはり、Λ覚醒か。」
「あぁ…!」
そこで今度は、俺は剣を様々な角度で振る。
「紅投網!」
大量の斬撃が、網目状になってシェダルへと飛ぶ。
すると今度は、シェダルは大剣を真横に構え、剣先の方に片手を添える。
その瞬間…
「アディアバティックコンプレッション!」
透明のバリアのようなものが召喚される。
そして、大量の斬撃がバリアに衝突した瞬間、斬撃全てが燃えて消える。
「なっ…」
アディアバティックコンプレッション…断熱圧縮か…!
「アークティクブラスター!」
間髪入れずに強力な光線が発射される。
俺はそれを避け切る事ができない。
「ぐぁっ…!」
脇腹を食らう。
「くっ…」
…痛みに耐えながらも、直ぐにシェダルへ追加で紅一閃を放つ。
案の定、その攻撃は簡単に回避されてしまう。
だが次の瞬間…
「がはぁっ…!」
俺は唐突に飛んできた一つの強力な斬撃を受け、血を振り撒きながら後方へ転がされる。
幸い、直撃ではなかったが、ダメージがあまりにも大きすぎる。
一体何だ…!?…今のは…
…放った紅一閃が、巨大なモノクロームチェッカーシールドの内側に当たり、そのまま返ってきたような…
普通の壁ならば、まるで銃痕のように深く抉れる程の攻撃なのだが…この盾は頑強すぎて、壁面に傷1つ与える事すらできない。
それどころか、跳ね返されて此方へ返ってきてしまうのか…
転がされた俺は、直ぐに顔を上げる。
すると…
「まだだ。」
「…!」
アークティクキャノンが至近距離で炸裂する。
「ぐわあぁぁぁっ!」
「ラッシュ!!!」
全身に激痛が走る。
衝動で、大声を吐き散らしてしまう。
何も見えない。
痛い。
頭が…
動かない。
何も考えられない。
「ふん。」
微かに視界が眼に映る。
…シェダルの大剣の尖端が、至近距離で俺を指している。
閉じそうな瞼を小さく開き、シェダルの姿を睨む。
意識が遠のく。
まずい…
このままじゃ…

続く。
「…よくもやってくれたな…俺の部下達を…」
「シェダル…お前…!」
「ラッシュ。」
歯を軋り、片足を前に出した俺の前に、リバース様の片腕が出、俺を静止する。
そしてリバース様は、シェダルに向けて口を開く。
「俺達は、お前達クロスジーンの考えを改めるために、この戦いを決行したのです。まだ分かりませんか。今、4つの軍の思考が1つに収束し、お前達を更生させようとしているのです。」
「だが貴様等も貴様等の想いをぶつけ、俺の部下達を次々に倒して来た…同じ事だろう。」
「いや、その犠牲はお前達クロスジーンだけでなく、俺達4つの軍でも少なからず出ています。俺達はそんな犠牲をも省みる事なく、4つの軍で結束してまで、ここまで辿り着いたのです。お前達クロスジーンの考えの根本を修正するために…そして、トップであるシェダル、お前に接触するために。」
リバース様は一向に退かない。
確かな志を、絶やす事なく伝え抜く。
しかし、シェダルもそれは同じだ。
「…いいだろう。ならば最後にこの俺に魅せてみよ。その想いとやらを…!」
シェダルが、武器の大剣を強く握り…構える。
それに釣られて同様に、俺も剣を持つ拳を強く握り…構える。
…そんな俺に、シェダルは視線を移した。
「そうだなぁ、そこの新入りのラッシュ。君に魅せてもらおうか。」
「えっ…」
突然の指名。
不意を突かれ、つい声が漏れてしまう。
「…ふっ、行ってこい。ラッシュ。」
リバース様は、一言、そう告げた。
優しくも力強い、確固たる声だ。
俺は再び拳を強く握り直し、力強く答える。
「…はい!」
鼓動が高鳴る。
俺は一歩、その足を動かし、前に出る。
それを見て、シェダルは叫ぶ。
「さぁ…来い!」
走る。
シェダルに向かって、只管に一直線。
先ずは一撃。
俺とシェダルの剣がぶつかり合い、直ぐに押し退ける。
するとその時、1つの違和感に気付いた。
「はっ…!?」
周囲の様子が違う。
「こ、これは…!?」
なんと、俺とシェダルだけを囲うように、広く大きく結界ができている。
今迄に見た事の無い程巨大な、半球状のモノクロームチェッカーシールドだ。

そこで、シェダルは口を開いた。
「ふふっ…はっはっは…!…このモノクロームチェッカーシールドは、俺を倒す事なくしては消滅しない。ましてや、破壊するどころか傷1つつける事も困難を極める…これで彼奴等、4人のボスや他の仲間の助けを借りる事も不可能…!…この戦いは、俺の勝ちだ!」
「何っ…」
高笑いするシェダル。
完全に、嵌められていた。
この局面で、俺1人との戦いを強制するなんて…
「なんて汚い…!」
叫んだのは、No.017だ。
それに対し、シェダルは再び声を上げる。
「どうだ、悔しいか!…こうしてこの生意気な青年は、俺の手で死ぬのだ!」
「ら…ラッシュ!」
「ラッシュ!?」
ボス達の向こうの方から、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「お、お前達…」
かなり距離はあるが、見える。
セフトやイクスサンダー…ハンマーさん、そのまんまさん…
それだけじゃない。
ヴルン、リメア、トリナッツァチ、シュラ、シャルル、アズラク…
1階から6階で戦っていた仲間達、全員だ。
きっと、医療班に応急処置をしてもらい、回復したタイミングで急いで駆け上がってきたのだ。
「ザン、ミリ…!…やっぱり此処に来ていたのか…」
倒れている2人のクロスジーンを見て、イクスサンダーは言った。
「大丈夫かラッシュ!?」
「早まるな、セフト。」
リバース様が、走り出そうとするセフトを静止する。
「…ぼ、ボス…これは…」
問うたのは、イクスサンダーだ。
そこに、シェダルが答える。
「ふっ、このラッシュは、これから俺に殺されるのだ。その眼でしっかり見ておくがいい。親友の最期を…!」
「彼奴…!」
「上等だ。」
「ボス!?」
リバース様が口を開いた。
「倒されるのはお前の方です。シェダル。ラッシュの力を甘く見ては後悔しますよ。お前のこの行動は酷く目に余りますが、この際仕方あるまい。この勝負、受けてみせましょう。…ラッシュ、君にしかできません。今此処で、目の前の彼、クロスジーンのボスであるシェダルを倒すのです。ここまで辿り着けた君にならできる。頼みましたよ。」
リバース様は、はっきりと、そう告げた。
俺は、任されたのだ。
「は…はい!!!」
力一杯の返事をする。
声が大きく、結界内で反響する。
…拳を、強く握り直す。
そして…直ぐにキッ、と、目付きを変える。
俺の視線はたった1人、シェダルに向いた。

「…それでいいのか?…リバース。」
横から、ボソッと小さく、レイが訊く。
「えぇ、今はそれしかありません。それに、彼、ラッシュ君ならきっと…きっと…」
そう答え…口角を上げ、珍しく歯を見せて、自信を見せるリバース。
しかし、そんな彼の手は微かに震え…顔には汗が流れていた。

「………。」
レイはそのまま何も言わず、スッとラッシュとシェダルの方へ視線を向けた。

続く。
「そうだ、ザギド…」
「…何だ?」
思い出したように、ザイディンは問う。
「お前の武器を入れていた鞄…持って来なくて大丈夫だったのか…?」
「あぁその事か。いや…持って来なかったんじゃない、何故だか見当たらないんだ…何処へ行ったのやら…」
「えっ…」
疑問の念を抱くザギドに、ザイディンは呆然としてしまう。

Λ覚醒を解禁したままのファイが飛び出す。
怒涛の剣撃にアキルドは難なく対応していき、金属音を鳴らしていく。
「くっ…紅一閃!」
力強い一撃。
アキルドはその攻撃を回避…すると思いきや、剣身で受け止める。
「なっ…!?」
ファイのそれは、俺のΛ覚醒と同じ技だ。
この技は延長線上の壁が抉れる程の攻撃力…
それを、剣身で受け止めるなど…
アキルドは剣を振り直し、ファイに斬撃を加える。
「ぐあぁっ!」
ファイの身体は一直線に壁へ飛び、激突する。
「な、何っ…!?」
「何だ…今の攻撃は…」
衝突した壁は一部崩れ、瓦礫を落とす。
ファイは…動かなくなった。
「ちっ」
次に走り出したのは、アダムとエバだ。
アダムが炎でアキルドの周囲を囲い…エバは一直線にアキルドへ向かう。
そして、エバはタガーを構えて、真っ直ぐ突く。
しかし…
アキルドを中心に、半球状にモノクロームチェッカーシールドが発動する。
炎のみならず、タガーの攻撃をも防いだ。
「なっ…」
そして更に…
「ヴォイドレイディエイション!」
アキルドから、乾いた風が放射状に爆発的に吹く。
その風は、自らが召喚したモノクロームチェッカーシールドをも粉々にし、アダムの炎をも吹き飛ばし…全てを無に帰す。
「何っ!?」
「………。」
細かい瓦礫と強風が2人を襲い、執拗に煩く髪を靡かせる。
その次の瞬間には、アキルドはアダムとエバを隔てるように現れた。
そして…
「ぐっ!」
「がっ!」
素早い斬撃が2人を襲う。
そして更にもう一撃…
「…!」
その瞬間、なんと…アキルドの振った剣を、ギリギリでアダムが掴む。
腹部を痛めながらも、強く強くその剣先を握る。
しかし、アキルドはその剣をそのまま、ゆっくりと上方へ上げていく。
アダムは剣を離さない。
その腕に強く力を込め、剣を握り続ける。
軈て、アダムの足は、宙に浮いた。
「ぐ…っ…」
その状態のまま、直ぐに、アキルドの背後からはエバのタガー、そして前方からはアダムの炎が襲うが…どちらもモノクロームチェッカーシールドが阻む。
アダムとエバには、痛ましい傷があちらこちらにあり…止めどなく血が流れている。
「170ミリ弾。」
巨大な弾丸。
すぐさま、ヴォイドレイディエイションと同時に斬撃が走り、アダムとエバを裂き飛ばす。
そして、アキルドは向かってきた170ミリ弾を、斬った。
直ぐにゼンディックスがアキルドの目前に迫る。
「クロスリッパー。」
トライデントによる、素早く鋭利な斬撃の数々。
アキルドは全てを剣で阻んでいく。
「…ふっ」
「170ミリマシンガン。」
巨大な弾丸が連発される。
剣による防御に加え、モノクロームチェッカーシールドが弾丸を阻んでいく。
「ちっ」
「じゃぁな、ゼンディックス。」
アキルドは呟き、剣を引いて勢いをつける。
「ヴォイドショット!」
風属性による乾いた強風と共に、力強い一突きがゼンディックスへ炸裂する。
ゼンディックスは銃身で防御するものの、その銃諸共割られ、四肢を後方へ大きく飛ばされる。
壁に衝突したゼンディックスは、腹部から血が漏れ出し…それでも、障害なく直立する。
しかし、ややふらついている様子だ。
「…浅いか…まぁいい。」
アキルドの姿が一瞬、消える。
しかし、ゼンディックスの方へは、その姿は見えない。
…うん?
まさか…!
狙われていたのは、俺だった。
視界に大きく、アキルドの姿と剣先が映る。
まずい。油断した…!
キンッ…と金属音が耳元で煩く鳴る。
「ふっ…」
俺の目の前にはなんと、トライデントの柄が2つ、鎌の柄が1つ、そして剣の峰が1つ重なっていた。
その全ての交点に、アキルドの剣はあった。

「な…」
反射的に、声を漏らしてしまう。
対してアキルドは、空いた口が塞がらない状態だ。
そして、強力な攻撃が同時に4つ、炸裂する。
瞬く間に、無数の斬撃がアキルドを切り刻む。
「ぐあぁぁぁっ!!!」
俺を守ったのは、リバース様のみならず…黒ボスのレイ、青ボスのNo.017、そして赤ボスのフェス。
4人のボスだった。
「…ふっ、貴方達もですか。」
「まさか4人が4人、同じ事を考えるとはな。」
「ま、でもラッシュ君だけは守らないとね…!」
「我々のキーパーソンだからな。」
「ぼ、ボス…」
ボス達は俺のすぐ側で、俺を囲うように立っている。
クロスジーンから、俺たった1人を守るように。
「く…くそっ…」
血塗れのアキルドは、呟いた。
身体を支え、再び直立しようとする…が。
「アキルド。」
その声は、不意に小さく響いた。
直ぐに、アキルドを含めた全員は、その声の方に視線を向ける。
「シェダル様…!」
「お前はもういい、下がれ。」
「ですが…」
「いや、後は俺がやる。」

有無を言わさず、シェダルは此方へ寄ってくる。
「………。」

続く。
エバとファイ、2人による攻撃が絶えない。
あまりの戦力に、ルクバーは徐々に体力を消耗していく。
「…くっ…ストリングスター!」
暴れ回るシューティングスター。
エバはそのシューティングスターの動きに集中し、タガーや素手で攻撃を弾いていく。
一方のファイは、剣を振って防御していくが…そのうちの一撃を身体に受けてしまう。
「がっ!」
身体を飛ばされるファイ。
エバはそれに見向きもせず、シューティングスターの防御に徹する。
すると、少しもしないうちに、強力な一撃が目の前を通過する。
「ぐっ…!?」
ルクバーは間一髪、その攻撃を回避する。
その攻撃の元を見ると…Λ覚醒を解禁したファイが立っていた。
攻撃の延長線上の壁は深く、抉れている。
「…やっぱり、来たね。」
「あぁ、これで最後だ。」
「…くっ…此奴等…!」
ファイによる、火炎の渦鳥が何羽か発動する。
同時に、剣を強く握り…走り出す!
「…ちぃっ…!」
火炎の渦鳥がルクバーの身体を通過し、体力を削る。
更に、ファイによる無数の斬撃が走る。
「紅時無斬!」
「ぐはぁっ…!」
血を吐くルクバー。
更に…
「まだだ。紅一閃!」
「…!」

セギンの鎌を受け止め続けるアダム。
「ちっ」
僅かながら、アダムに切り傷が増えていく。
プレアデスの時とは違い、セギンの速度になかなか追いつけない。
そこで…
「渦龍尖塔」
水流を纏った斬撃が、円錐型に高く伸びる。
「来たな。」
アダムは一旦身体を退き…膨大な量の炎を出す。
「燬」
水流ごと炎で包み込み、爆発させて燃やす。

「…コノヤロ。」
目の前で燃えて消える水流。
しかし、それに気を取られている隙に…
「熕」
炎の大砲が連発される。
燃えた水流が消えている最中…上空へと還元される前に、それを貫いて大砲が次々にセギンへと発射される。
「くっ」
鎌を振って大砲を斬っていく。
しかし、散った粉塵が、次々にセギンを痛めつけていく。
そして、セギンの背後から、炎に包まれた拳が襲う。
それにいち早く気付いたセギンは、鎌を向けるが…アダムはそれをまた素手で受け止める。
そして…
「爍」
「!!!」
瞬く間に、受け止めた鎌を、溶かす。
「くっ」
反射的に一歩退くセギン。
それに合わせ、アダムも一歩退くが…
直ぐに片腕を後ろに引いて、膨大な量の炎を纏う。
強い眼差しでセギンを凝視し、言う。
「終わりだ、爛」
「コノヤロ…。」

「…よく来たな、ミリ。」
「この戦い…私達が最後まで戦わない訳にはいかないもの。だから…」
傷が疼く。
それでも、ミリは戦う。
「…そうだな。」
ゼンディックスが、その言葉と共に二又銃と槍を構える。
「行くぞミリ。」
「うん!」
「170ミリマシンガン。」
「アイススピア!」
巨大な弾丸と氷製の鋭利な破片が大量に放たれる。
「…ふっ」
カフは素早い反射神経で攻撃を避け…2人に近づいていく。
「フロストサーベル!」
カフを目掛けて、床から氷製の剣が、次々に垂直に刃先を出現させる。
しかし、それも難なく回避、カフは銃を撃ち込んでいく。
「行け、ミリ。」
「うん!」
ミリはその場を離れ、銃を回避しながら移動する。
一方のゼンディックスは銃を回避しつつも、態と数発を顔に掠め…特殊Λ覚醒だ。
トライデントに変化した武器の先端に闇属性を灯し、大きく振っていく。
一直線に空間を二分するような鋭い斬撃が、カフを襲っていく。
「くっ…!」
避ける。
避けていく。
されども、カフはダメージを受けていく。
身体中を切り刻まれていく。
そこに、ゼンディックスは銃口を向けた。
しかし…
銃声は鳴る事なく、カフの目の前にはミリが現れた。
「アイスナックル!」
「…!」
氷で包まれた腕が、勢いをつけてカフを襲う。
その腕は、カフによる銃弾をも受け付けない。
ミリ本人の双腕に届く前に、氷塊の中で銃弾が止まってしまう。
「テナシティアイス!」
足元を冷気が走る。
しかし、カフは後方へ回転しながら跳び、その攻撃を避け…
空中で銃弾を1発、また1発と連発していく。
「うぐっ!」
ミリの左肩、そして右肩に直撃…
更に、首の辺りを強く掠め、ミリの身体は後方へと倒れていく。
「ぎゃっ…!」
直ぐにカフは着地、そしてミリの方へ再び視線を向ける…しかし。
「よく頑張った、ミリ。」
その眼前には、ゼンディックスが立っていた。
「クロスリッパー。」
トライデントによる、複雑な斬撃が縦横無尽に走る。
カフの身体をズタズタに切り裂く。
堪らず、カフは嗚咽する。
「がはぁっ…!」
身体中の凡百場所から、血が吹き出す。
そして、ゼンディックスは最後に銃口を突きつけ、一言を零す。
「170ミリ弾。」

「だ、大丈夫なのか…ザン…!?」
血塗れの身体を見て、此方の血の気が引いてしまう。
「…あぁ…何とか…な…!」
ツィーの剣を突き放すザン。
直立すらもままならない状態。
片膝をつきながらも、剣を床に刺して身体を支える。
「何故…何故此処に…!」
「いやぁ…ミリに起こされてな…『私は行く』って聞かなくて…」
「で、でも…」
ツィーの剣がザンに向かう。
ザンは直ぐに立ち上がり、振り回される剣を次々に阻んでいく。
「ダークネスブレード!」
「ちっ」
ザンの力強い一撃。
こんな境地でもここまでの力を出せるなんて…
流石は、クロスジーンの奴隷施設をたった1人で破壊しただけの逸材と言えよう。
一度退いたツィーが、再び走り出す。
そして、ザンがツィーの攻撃を止める。
その瞬間を狙い、俺は背後から剣を向ける…!
ツィーはそれに気付いているようだ。
しかし、早く決着を決めねば、ザンの身体が危ない…!
集中する。
「月影一閃!」
一撃をツィーに向ける。
しかしその瞬間、ツィーはザンの身体を強く蹴り飛ばし、此方に身体を向ける。
「ぐはっ!」
そして、俺の攻撃は簡単に交わされ…ツィーによる剣撃の連続が始まる。
そこを…
「水鏡逆撃!」
月属性を組み込んだ、カウンター攻撃。
「くっ」
ツィーは一歩退き、攻撃を掠めつつも剣で防御していく。
そこにもう一撃、月影一閃だ。
そこでツィーは「ふっ」と笑い、剣を強く握り直す…
が。

ツィーの表情は瞬く間に変わった。
ツィーの目の前に、突然、モノクロームチェッカーシールドが出現する。
俺の攻撃は敢なく防がれた。
唖然としたような、驚愕したかのような表情が、ツィーの顔に表れる。
…どういう事だ?
ふっと周囲を見渡すと、他のクロスジーン…カフ、セギン、ルクバーの3名の目の前にも、モノクロームチェッカーシールドが出現し、各攻撃から各クロスジーンの四肢を守っている。
それと同時に、不自然に各クロスジーンの動作、そして全ての戦闘が停止している…
一体、何だ、これは…
「散々な結果だなぁ、β、γ、δ、ε…」
1人の、足音…
「4つの星達よ。」
…それと同時に響く、階段を駆け上がる音。
「はぁ…はぁ…」
階段の方から現れたのは、傷だらけの、ザギド…
そして、ザイディンさん。
息を切らしながらも、直ぐにザイディンさんは叫んだ。
「奴は…!」
紛れもない。
今現れたこの男こそ…
ザイディンさんが以前言っていた…
「包帯の男!」
顔中が包帯で巻かれた男が1人。
それは、全員の戦闘を止め、その場に立ち竦んでいた。
どうやらこの男が、カフ、ツィー、セギン、ルクバー、4人の身を守り、モノクロームチェッカーシールドを発動させたようだ。
「…アキルド…!」
ツィーが歯を軋りながら、声を漏らした。
アキルド…?
「何故、余計な助け舟を出した…!?」
…そして…再び、その男は口を開く。
「助け舟…?…何を言っている?」
「…何っ」
「4人が立ち向かっても、このザマか…こんなものでは、どんな紆余曲折を経ても、勝敗は一目瞭然。…貴様等はもう、用済みだ。」
「用済み…?」
包帯の男は、1つの剣を向ける。
すると…
「ぎゃっ!」
「ぐはっ!」
「うぐっ!」
「がはっ!」
「な…何っ!?」
カフを、ツィーを、セギンを、ルクバーを、
4人を、一瞬にして斬りつけた。
包帯の男は、剣を下ろして動きを止める。
一方、4人のクロスジーンは身体中に血を流し…床に這う。
「くっ…」
「お前っ…」
「コノヤロ…」
「貴様っ…」
起き上がる事も、できない。
「此奴…仲間を…!」
あまりに突然の出来事。
言葉を、失ってしまう。
今迄の戦闘は何だったのか…
「シェダル様の命令だ。」
そう告げ、包帯の男は気にする事もなく、ゆっくりと手を動かす。
「…まさか此処で、俺が手を下す事になるとはな…」
包帯は、ゆっくりと解かれ、本来の顔が見せつけられる。
「その姿…やはり、クロスジーンか…」
呟くザイディンさん。
顕になったその顔には、クロスジーン特有の模様があった。
再び、1つの剣をゆっくりと動かす、その男…
「俺は、アキルド。」
口を開いた。
「カシオペヤ座のη星…」
ごくりと、息を呑む。
「さぁ、始めようか。」
不気味に、にやりと笑った。
その男の持つ剣先は、俺達を指した。


続く。
「…痛っ…プラント、久し振りだな…」
「あぁ、まさかここまでの死闘を強いられるとはな…セフトもイクスも無事で何よりだぜ。」
目が覚め、プラントやアルビノによる治療を受けていたセフトとイクスサンダー。
傷を癒しながら、戦況を伝えて話す。
「いやぁ、なかなか思っていたよりも厳しい戦いになってしまったな…ラッシュは…もう最上階に向かったのか…でも白黒赤青4軍合同で戦えて良かった…戦力が多いに越した事はないからな。」
「そうだな、あちらこちらに転がっている黒軍達4名も、相当満身創痍だ。お陰で応急処置だけでも時間がかかっちまった。」
プラントは、遠くに視線を向けてそう言う。
そこで、セフトは懐疑感を抱く。
「…うん?」
「…どうした、セフト。」
「…他に、倒れてた奴はいなかったか…?…ほら、あのガラの悪いクロスジーン2人じゃなくって…」
「…いや?…此処に倒れていたのはお前達白軍の2人とあの黒軍4人。そしてお前達が戦っていたであろう、クロスジーン2人、以上だ。」
「まさか…」
イクスサンダーも気付き、呟いた。
「…どうした?」
「あの2人…まさか、最上階に…!」

「ぐ…っ…!」
顔面血だらけのベナシュさん。
更には俺も、Λ覚醒を解放しても尚、体力が尽きてきている。
対して余裕綽々、ギラギラと歯を見せたままのツィーは、冷徹に剣の刃先を此方に向ける。
そして…
「じゃぁな、ベナシュ。」
「くっ…!」
動けないベナシュさん。
為す術もなく、目を瞑る。
ツィーがゆっくりと振り上げた剣が、軈て振り下ろされる。
刃先が、迷う事なくベナシュさんを狙う。
やばい…!
「ベナ…ッ!」
カキンッ。
金属音。
「…くっ…間に合った…か…」
「お前は…!」
焼けた肌、靡く白髪。
そして、既に血塗れの…全身。
「ザン…!!!」

「…まさか、貴様がそんな戦力を持っていたとはな…」
倒れたディルファーツとスピンを横目に、特徴的な2つの銃口を向ける。
顔に深くかかるバンダナに、靡く紐。
そしてバンダナの中から伸びる黒髪。
二次黒軍の幹部、ゼンディックスが参戦だ。
「…ふっ、これが俺の本当の力…そして本心だ。」
対して、そう呟いたカフも同様に、銃口を向ける。
「そうか…残念だ。こうして貴様…いや、貴様等は、俺達の獲物と為るのだ。」
「…ふっ…うん?」
「テナシティアイス!」
「その声!」
高い声が響き、ゼンディックスは視線を向ける。
冷気が、肌を撫でる。
「ふっ」
カフは上部に飛び、攻撃を交わす。
「クリスタライズ!」
「何っ…!」
今度は床から唐突に、斜めに鋭く大きい氷塊が飛び出す。
攻撃を受けたカフは、身体を飛ばされて距離を置き、何とか着地に成功する。
両足を後方へ引き摺り、体勢を直す。
少々ダメージを負ったようだ。
僅かに身体に血が流れる。
「…驚いた、確かお前は…」
呟いたカフ。
そして、それにゼンディックスが続けて叫ぶ。
「ミリティーグレット・ユーリカ…!」
白黒のツインテールが揺れ、キッと目を向ける。
既に、その服装には汚れが、そして身体には傷が残っている。
それでも、しっかりと両脚で全身を支えて直立し…鋭い眼差しを向けている。
「…待たせたね。」
「…ふっ、あぁ…」
ゼンディックスの口角が、微かに上がっているように見えた…


「…リバースよ、いいのか?…お前の二次白軍の方は、もう戦えるのは新入りのラッシュただ1人…そこにクロスジーンのザンが加わったが…奴も既に死にかけ…」
自持ちのタブレット端末を持ちながら、戦況を整理し伝えるレイ。
それに視線を向ける事もなく、リバースは言う。
「問題ない。彼、ラッシュは元々、戦闘経験が薄いと言えど、類稀なる潜在能力の持ち主…此処に来るまでの間も、かなりの成長を遂げています。頭もなかなかキレるようですし、何よりこの戦闘における、揺るがない志…それに真っ直ぐに立ち向かう素直な心。…それを言うなら、お前の二次黒軍も危ういのではないでしょうか。」
「そうだな…リバース。しかし、ゼンディックス…彼奴は我々の幹部であり、且つクロスジーンを奴隷とした第一人者のヴィーツァ…その彼の下で活動していたという過去もある。方向性の違いで脱退したらしいがな…彼奴は彼奴なりに、クロスジーンの想いが汲み取れる部分があるのだろう。それと、詳細は分からないが、クロスジーンのミリティーグレット。彼女とも以前何か縁があったようだ。その2人の共闘となると、戦況は分からないぞ。」
「ふっ…そうですか…」
リバースは、軽く笑って返答した。
そこに、今度はNo.017が口を挟む。
「ふっ、でも凄いよね、ウチ等は軍内でトップの戦闘力を持つ戦士が残っているっていうのに…二次白軍はまさかの新入りの子…てっきり、最後にはあの幅広い戦闘法を持つザイディン君や、それか電撃と日本刀の併用ができるイクスサンダー君…その辺りが残ると思っていたのに…」
その言葉に、リバースはまた口を開く。
「そうですね…きっと、彼きっての真面目さもあるでしょうし…何より、俺達が一度、苦境の丘にて集められたあの時…ラッシュのあの並外れた行動に、クロスジーンのボスのシェダルも少なからず戦いているのだと思います。…これは憶測ですが…」
「いや…」
そこに口を挟んだのは、フェスだ。
「あの時、奴…シェダルは、あの新入り、ラッシュを煽っているように見えて…間違いなく、彼に恐怖を抱いている。他の戦士には無い、恐れず真っ直ぐに進む志…それを十二分に感じ取っている。俺も元々噂は聞いていたんだ。俺の部下のアピの教官からな。ラッシュの考えをとても評価していて…それでいて、未熟な彼を心配しているようでな…」
「フェス…その、真実を見抜く能力…やはり流石と言えますね。…それで、そのアピの教官っていうのは…」
リバースのその問いに、フェスは答える。
「なんでも、ラッシュの姉御さんだそうだ。」

続く。
俺はベナシュさんと同時に、武器を振った。
しかし、対するツィーは1本の剣を素早く、且つ力強く回して2つの攻撃を阻んだ。
花弁が舞う。
「なっ!?」
次の瞬間、ツィーは剣を床に強く刺し、力を込めて叫ぶ。
「スターライトスラッシング!」
その時、ツィーの周囲が煩く煌めき、無数の小さい斬撃が縦横無尽に走り…俺やベナシュさんを巻き込む。
「ぐっ…」
「うっ…」
痛い。
しかし、ベナシュさんはそれに耐えつつ、矢を放つ。
「馬鹿め」
ツィーが見せた歯が、光り輝く。
華麗な手のスナップを効かせつつ、剣の軌道が曲線を描く。
すると、ベナシュさんの放った矢は…ベナシュさんの方へと跳ね返される。
「何!?」
「ぐあぁっ…!」
矢が、ベナシュさんの肩を射抜く。
喚き、膝が床につく。
射抜かれた肩を強く押さえるが…それでも止めどなく、多量の血が流れ出す。
それに対し、ツィーは相も変わらず、嬉しそうに歯を見せつける。
「ぐ…うぅっ…」
「此奴…!」


対して、二次黒軍が対峙するカフ。
1つの銃を構え、狙い撃ちをしていく。
鳴り響く銃声。
真っ先に犠牲になったのは、致命傷を負っていたカロだった。
「ぐあぁっ!」
「カロ!」
「ちっ」
今度はオースィーの鉄ボールが飛ぶ。
そこに、カフの銃弾が連発される。
鉄ボールに銃弾が当たる度に、鉄ボールは減速し…
カフの元へ到達すると同時に、銃身を振って弾かれる。
「なっ…」
そこに、今度はディルファーツの大剣とスピンの鎌だ。
同時に襲うそれを、床に這い蹲るように極めて低く屈み、避け…
ディルファーツの大剣とスピンの鎌、その2つが衝突する。
「…!」
そして、下部から近距離で銃弾が発砲される。
「くっ!」
2人は、直ぐに回避する。
すると、不意にカフの銃弾が1つ、床に撃ち込まれる。
その瞬間。
「グラウンドスルーメテオシャワー!」
「!!!」
床から無数の銃弾が飛び出す。
カフの周囲一帯に、逃げ場は無い。
「ちぃっ…!」
そこで、不意にオースィーの鉄ボールが1つ。
頑強にガードされた脚に従い…頭部の方まで持ち上がる。
すると、突然オースィーの身体が大きく縦に回転する。
完全に上下が逆さになったオースィー。
その足先には、燃え上がる炎属性が見える。
オーバーヘッドだ。
炎に包まれし鉄のボールが、凄いスピードで放たれる。
しかし…
「後ろだ。」
「なっ!?」
カフはとっくにオースィーの背後を取っていた。
銃口から火が噴く。
「がっ!」
銃弾にやられ、オースィーの身体は呆気なく落ちる。
そして…
「モウメントラッシュ!」
「スカーレットサイズスレイ!」
素早い斬撃の群れが、カフを襲う。
同時に、2人の男が姿を現す。
「ちっ…」
「こりゃぁ…一筋縄じゃいかねぇな…」
Λ覚醒を解禁した、ディルファーツとスピンだ。
カフの方を見ると…両腕を交差させて鼻から下を隠し、鋭い目つきを向けている。
どうやら、さっきの2人の攻撃は防御し切ったようだ。
ダメージを受けた様子が見られない。
「想像以上に、手強いぜ…」
「…くっ…」

そして、二次青軍が対峙するセギン。
セギンの鎌が横方向に弧を描き、アクアの身体を斬る。
しかし、アクアの身体は液状に化し、床に落ちる。
直ぐに別方向から身体を還元させ、槍に変化させた腕を振り下ろす。
鎌で攻撃を止めるセギン。
そこに、リュシオルの蹴りが入る。
しかし…
「渦龍尖塔」
セギンの身体が鎌と一緒に大きく廻る。
…と思いきや。
凄まじく鋭利な斬撃が水流を纏い、渦を巻き…真上に高く伸び、瞬く間に塔のように成る。
見栄えは豪勢に思える技…及び、殺傷力は見た目以上に極めて高い。
近付いていたリュシオルが攻撃をモロに受け、大ダメージを食らう。
「ぐはっ…!」
「リュシオル!」
叫ぶアクア。
そこに、再び鎌が襲う。
「ぐあっ!」
リュシオルに気を取られ、気付くのが遅かった。
アクアは身体の液状化が間に合わず、ダメージを受けて飛ばされてしまう。
そこに…
「大円廻旋」
セギンが一周、鎌で横に大きく円を描く。
その一回り二回りも大きい軌道に、斬撃が走り…
飛ばされてやや遠くへ離された2人、リュシオルとアクアの身体にまで…斬撃が到達する。
「がはっ…!」
「ぐわぁっ…!」
2人の口腔内から、血が吹き出す。
意識を失い、戦闘不能だ。
攻撃を終えたセギン。
そこに、今度は見るからに殺傷力の高い炎が襲う。
アダムの攻撃だ。
「…!」
鎌を大きく振り回して、炎を切り裂く。
続いてアダム本人がやや上部から近付き、その鎌を素手で止める。
「…コノヤロ。」
素早く鎌を引き抜くセギン。
そのまま、セギンによる鎌の攻撃が連続してアダムを襲っていく。
しかし、アダムはその全てを素手で止め続けていく。
凡百角度の斬撃を、自身の身体に到達する前に次々と素手で受けて阻んでいく。

一方、二次赤軍が対峙するルクバー。
「コード01、magician」
ロートの片腕が火炎放射器に変化する。
すぐさま、ルクバーへと発射されるが、颯爽と回避されてしまう。
そこを…
「プレイリーウィンド!」
「アイアンマジック!」
スカイカットによる、無数の草原属性の刃を混じらせた風…そして、アシェルによる、武器の箒からの大量の鉄くず乱射攻撃が襲う。

しかし、ルクバーはモノクロームチェッカーシールドを発動。
両者の攻撃を防いでみせる。
そこに。
「コード04、emperor」
片腕を大剣に変化させたロートが襲いかかる。
ルクバーはそれを、シューティングスターの持ち手部分と錘の方を掴み、チェーンをピンッと張って向け、防御する。
大剣を阻んだ瞬間、間髪入れず、直ぐにシューティングスターを回し、錘をロートにぶつける。
「がっ!」
「ロート…!」
ロートの四肢が飛ぶ。
そこにスカイカットの剣が襲うが…これまたシューティングスターで圧され、直ぐに四肢を飛ばされてしまう。
「ぐはっ…!」
すると…
「コード17、star」
身体を飛ばされたものの、未だ軽傷だったロート。
彼の両腕から小型の爆弾が大量に発射される。
しかし、これまたモノクロームチェッカーシールドで防御。
今度はアシェルの攻撃が襲う。
「マジックバズーカ!」
箒の先端から、バズーカが一撃。
ルクバーはシューティングスターの錘を思い切り突き出し、バズーカと正反対のベクトルを向けて相殺させる。
「なっ…」
そして直ぐに接近し、シューティングスターでアシェルの身体を飛ばす。
「ぎゃっ!」
「アシェル!」
「コード05、hierophant」
ロートの胸部から取り外された浮遊物が5つ。
それ等は空中からルクバーをビームで狙撃していく。
そこに今度は…
「ストリングスター!」
シューティングスターを強く引っ張り続け、錘を空中で周囲縦横無尽に走らせる。
ビームは阻害され、更には浮遊したロートの5つのビットをも全て打ち落としていく。
そして、再びシューティングスターでロートの四肢を飛ばす。
そこに加えて…
「ヘビースターストライク!」
やや巨大化したシューティングスターが、その場から一歩も動かないルクバーでも届く程の遠距離なリンチにも対応。
その錘が上部から強く重く落ち、トドメを刺していく。
アシェル、スカイカット、ロートの3人に、重い一撃が一発ずつ落とされた。
3人は完全に動きを失う。
攻撃を終えたルクバーは、直ぐに武器を手の内に戻す。
するとそこに、今度はファイとエバが同時に襲う。
「…!」
ファイの剣、そしてエバのタガー。
2つをモノクロームチェッカーシールドで阻むものの、割られてしまう。
ルクバーは上手く床に転がり込み、攻撃を回避し、距離を取って体勢を整え直す。

続く。
「助かるぜ、プラント…それに、アルビノ!」
「気にすんなって、そのために、俺達は居る。」
「…任せて。」
クロスジーン基地2階。
戦いを終えた二次赤軍メンバーが乱立する中、その中の1人、スカイカットが馴れ馴れしく会話を広げている。
その相手は、予め医療班として協力を仰いでいた外部メンバーだ。
ボンベを背負う男、プラント。
それに美しい白が映える長髪に赤い瞳、アルビノ。
倒れたユウナギに応急処置を施し、その身体を担架に乗せる。
「…にしても1階の方は、女のクロスジーン1人に加えて白の奴等が2人だったのに…此処2階のフロアは他に犠牲を出せずに圧倒できたみてぇだな。」
「いやー、それほどでも!」
「あんたの成果じゃないに!…全部全部ファイの力でしょ、にっ!」
ホラを吹くスカイカットに、アシェルが弁解を加えて言った。
「…冗談だってー、でも全部ってこたーないだろ…俺も協力したって…」
「怪しい…」
プラントが呟いた。
気を取り直し、スカイカットは目付きを変えて再び口を開く。
「…それにしても、大丈夫なのか?…エピック病院の方の、患者の受け入れの準備は。」
「あぁ、問題ない。この戦いのためにベッドも医師も増員したし、何なら院長がそこら辺は寛大な方だからな…。俺もそこに配属してまだ間もないが、なかなかいい職場に就けたってもんだ。」
「専門まで通ってたもんな…良い待遇だぜ。」
プラントの言葉に、スカイカットも同意してみせる。
「まぁ、あんまりあの院長…アインス先生だけに負荷を掛けないように頼むぜ。プラント。」
「あぁ、分かってるって。」
スカイカットとプラントの両名は、歯を見せて笑い合った。

独り。
俺、ラッシュは…クロスジーン2名…フェターとマナクルを倒し、そのフロアを後にした。
そう、あの村を一瞬にしてぶっ壊した、憎い奴等を。
血眼になって、出会うのを今か今かと待ちわび…漸く対面した彼等。
しかし、それによって出た犠牲は計り知れないものだった。
村の皆は勿論、親友のセフトやイクスサンダー。
そして、無理矢理クロスジーンの仲間として引き込まれ、自身の意思に背きつつも戦わされていたという、ザンとミリティーグレット。
彼等は皆、激しい戦いの末に戦闘不能となった。
きっと、他のフロアでも多大なる犠牲が生じているのだろう…
悲壮感と共に、心が悼む。
ましてや、クロスジーン2人を倒しただけでこの物語が終わった訳ではなく、この先には…奴等が仕えるクロスジーンのトップのメンバーが待ち構えているのだ。
身体中が痛い。
けれども、そんな痛みはどうでもいいと思える程に、この先には心の底から強く、鉄槌を下すべき相手との戦いが待っているのだ。
今頃きっと、医療班がセフトやイクスサンダー達の治療を行っているだろう。
俺はまだ、動ける。
だから、この俺が前に進まねばならないのだ。
階段を上る。
その間、4階、5階、そして6階でも、凄まじい戦闘音が俺の耳を劈く。
他のクロスジーンとの戦いが、各フロアにて激化している。
重い足を上げ、俺は一歩、また一歩と階段を上る。
そして…
最上階に足を踏み入れた。
…静かだ。
階段を上ってすぐ。
日も傾き、建物内に差し込む光の量も減り、フロアの殆どが視界に入らないが…見える範囲に人影は見えない。
ゆっくりと歩く。
前に進む。
高鳴る心臓の音を感じながら、フロア内へと進んで行く。
きっと、この辺りにクロスジーンのボス、シェダルをはじめとする、カシオペヤの奴等がいる筈だ。
先程の戦いで、ザンからはそう聞いていた。
だから、きっと…
この辺りに…
ふと、遠くから何やら音が聞こえる。
それは下の方から近付いてくる。
段々とその音は近付き、大きくなるが…
この音は…
羽音?
「うっし、着いたぁー!、先手必勝!」
「なっ!?」
現れたのは、赤い羽根を持つ赤髪の男。
フロア中心部に大きく空く空間から、直接羽ばたいて来たようだ。
「プレイリーウィンド!」
「うっ…!?」
その男は此方に背を向け、突然の強風をあっちの方へと吹かせる。
その風には、細かな刃が無数に混じっており、少しでも風を浴びると身体中が切り刻まれてしまいそうだ。
俺は様子が気になり少し駆け足で前に進み、身体を前のめりにする。
すると…
「なっ…!?」
「あれは…」
強風が半球状の結界に当たって、その10割が妨げられている。
なんて強力なバリアだ。
そして、その結界の中には…何人かの影があるのが視認できる。

俺は、目の前にいる赤髪の男に視線を移す。
「お前は確か…二次赤軍のスカイカット!」
「よく覚えていたじゃねぇか、ラッシュ!…まさかお前が無事にここまで来ていたとはな…!」
「これは、一体…」
「あぁ、俺のプレイリーウィンドが何者かによって妨げられている…あまりしっかりは見えないが…奴等はきっと…」
徐々に強風が落ち着き、人影の彩度が上がる。
特徴が、はっきりしてきた。
「やはり…カシオペヤの奴等だ!」
叫ぶスカイカット。
その向こうには…カフ、ツィー、セギン、ルクバー。
そして…シェダル。
5人の姿が現れた。
「…!」
俺は、その5人を凝視する。
「…来たか、二次白軍の新入り。」
「………。」
「ラッシュ!」
「スカイカット!」
背後に、ぞろぞろと戦士達が姿を見せる。
下の階での戦闘を終えた皆だ。
傷だらけではあるが、同じ軍のベナシュさんの姿も見える。
遠くの方には、ボス、リバース様の姿も見えた。
「皆…!」
「おいスカイカット…先に行くなって…」
「いやー、だってさ、この方が早いじゃん?」
「お前だけだよ…」
スカイカットに向かって話しかけた、金属の眼帯の男が、呆れを見せる。
確か名前は…ファイだったか?
「…ふんっ、これはこれは愚かな戦士がぞろぞろと…」
「ツィー…お前…!」
煽るツィーに対し、ベナシュさんが反抗する。
「…ここまでこの人数が生き残れた事、賞賛する。」
「ふっ、だがこの戦いも此処で終わる。」
「俺達が、お前等を1人残らず倒す。コノヤロ。」
カフ、ルクバー、セギンが続いて言った。
「…頼んだ、お前達。」
シェダルはそうとだけ言って、俺達に背を向ける。
その他のカシオペヤのメンバーは、円を描くように等しい間隔で立ち、その円の外側に身体を向けている。
「カシオペヤ…」
「問題は、彼等の星の力による能力…」
そう告げたのは、リュシオル。
続いて口を開いたのは、カロだ。
「…奴等を、一緒にしてはいけない…となると…」
その瞬間、カフ、ツィー、セギン、ルクバーの4人の背後に、4人の戦士が潜り込む。
ディルファーツ、ベナシュさん、アクア、ファイの4人だ。
「!!!」
直ぐに、その4人による刃物の一振りが同時に炸裂する。
カシオペヤのメンバー4人は、同時に後方へ飛び、攻撃を交わす。
これで一時的にカシオペヤのメンバーの距離が離れた。

「よし、これなら…」
呟き、ベナシュさんの側近に走り込んでツィーに身体を向ける。
すると、カフの前には、ディルファーツ、スピン、オースィー、カロ。
セギンの前には、アクア、リュシオル、アダム。
ルクバーの前には、スカイカット、ファイ、アシェル、ロート、エバ。
各軍のボス、及び幹部を除いた戦士達が、それぞれの色に分かれて分散し、体勢を整える。
一瞬だけ、閑静を挟む。
そして…
「行くぞ!」
ベナシュさんが叫ぶ。
「あぁ!」「はい!」「おぉ!」
カシオペヤの前に立つ、全ての戦士が、地を蹴った。

続く。
「うぐっ…レイナ…とあれは…フェス…?」
微かに映る視界を頼りに、聞こえるか否かの声でシャルルが呟いた。
かと思えば、意識が遠のいたからなのか、はたまた安堵感からなのか…そのオッドアイに瞼を落とす。
「二次青軍ボス、No.017…通称、レイナ。そして二次赤軍ボス、フェス。」
ダイモスが呟いた。
それに続き、フォボスが口を開く。
「なかなか豪勢なタッグじゃないか。随分と楽しめそうじゃねぇか?」
「…うむ、2人の共通点は、先ずボスという立ち位置を設けられる程の月属性の持ち主…加えて、攻撃法が近接戦闘武器によるものだけでなく、非現実に甚だしい、自然属性をも織り交ぜた特級の魔法攻撃が扱える。…かなり厄介と言えよう。」
「なるほどなぁ…」
ダイモスが解説してみせる。
フォボスは依然として口角を上げたままだ。
「…ったく、何でこんな場所に、んな小さいガキまで連れてきたんだ。」
ピピィの姿を見て、フェスは呟いた。
「いや、だってついてくるって聞かないんだもん!…危ないって言ったのに…」
「…全く…」
そう言い、フェスは一旦、口と目を閉ざし…直ぐに目付きを変える。
そして、再び口を開いて告げる。
「…さてレイナ、加減は無しだ。圧倒していくぞ。」
「も、勿論…!」
途端に、フェスの姿が消える。
「なっ…」
と思うと…声を漏らしたダイモスに一撃が下る。
「ぐはっ!」
加えて…
「スーパーノヴァエクスプロージョン。」
大砲を使う隙も与えない。
小規模ではあるが、ダイモスの至近距離一帯が連続で爆破される。
「ぐっ…うっ…!」
「ちっ」
ダイモスへの攻撃を見て舌打ちを漏らすフォボス。
しかし既にNo.017は攻めに入っていた。
トライデントがフォボスを襲い、金属音が鳴る。
直ぐに互いの武器を突き放すが、隙を与えずに次の攻撃が発動する。
「シーリングスピア!」
頭上から出現した無数の槍。
その全てが垂直方向に落ちる。
「うぅっ…ぐっ…!」
フォボスは武器での防御に加え、槍を回避していくが…あまりの物量だ。
かなりの攻撃がヒットしてしまう。
No.017とフェス、双方からの攻撃が済んだかと思いきや…その時、彼等から同時に渾身の一撃が放たれる。
「ライトニングスピア!」
「ヘルアロウ」
雷電を纏った巨大な槍と、黒炎属性で生成された矢が、同時にフォボスとダイモスに発射される。
お互いの攻撃が2人に向かって一直線だ。
…しかし、それ等の攻撃は巨大な防御壁で阻まれた。
モノクロームチェッカーシールドと同じようではあるが、巨大な半球形をしており、防御範囲も、更にはその強度も全く違う。

「なっ…!…こんな強力な攻撃を…そんな簡単に…」
「さては、あれが星の力とやらか。」
フェスは表情を変えずに言った。
「…よく分かったな。」
ダイモスが口を開いた。
「そう…俺達は、2つしかない火星の衛星の名を授かっている。そんな2つが組み合わさり、1つの技を繰り出せば…それはそれは常識を覆したような攻撃力や防御力…貴様等常人とはかけ離れた力量が発動されるのさ。」
「くっ…!」
No.017が歯を食い縛る。
対して、フェスは平静を保ったまま、彼等クロスジーンに問う。
「…だから、お前等は自身に星の名を授け…こうして形勢逆転の時を狙い、企んでいたのか。」
「その通り。世の中にゃ、力を持つという星の名に加えて数字の名までもを所持しているという、類稀なる強欲な奴もいるという噂があるが…星の名1つ取っても、このパワーだ。どうだ?」
フォボスが答えた。
しかし、彼の脅迫に動じる事なく、フェスは言う。
「問題ないな。その程度ならば。」
「何っ」
「我々のような月属性を得ている人間には、その程度のハンデなど眼中に無い。更に言えば、要はお前等2人を共に配置せねば良い事…」
そう告げると、フォボスとダイモスを隔てるように黒炎属性の炎が一直線に噴き上がる。
「!!!」
「これで星の力は防がれた。さぁ、我々のターンだ。」
「それでいいのか?」
フェスを遠くから直視するダイモスが口を開いた。
「それによって、貴様等も1人ずつに分断された。完全にサシとサシの戦いになり、貴様等の共闘すらも防がれた事になるぜ。」
「それなら、問題ない。我々ならな。加えて、俺自身が黒炎属性にダメージを食らう事は無い。この隔壁を自由に扱えるのはこの俺だけだ。」
「…ふぅん。」
ダイモスは、それだけ言って口を閉ざす。
「…兎に角、始めるぞ。御託は聞き飽きた。」
「ふん、何が御託だって?…いいだろう。」
先に、フェスが走り出す。
ダイモスはモノクロームブラスターを撃つが、フェスによって放射攻撃を焼かれ、無に帰す。
「くっ」
「スーパーノヴァエクスプロージョン」
ダイモスの周囲が連続して爆破される。
「ぐっ…がはっ…!」
「トドメだ。」
大剣に形態変化した武器が、ダイモスを狙う。
その時だった。
巨大な安全ピンがフェスの攻撃を阻む。
「!!?」
大剣と安全ピンが擦り合う。
「何故!」
「ふっ」
フォボスが、鼻で笑う。
そこに加えて、小型の安全ピンの群れがフェスを襲う。
「ぐっ…!」
ヘルファイアでその攻撃を燃やすが…幾つかの攻撃を受けてしまう。
同時に、フェス自身によって黒炎属性の隔壁が消滅され、No.017の姿が見える。
すると…
「レイナ!」
「く…っ…!」
肩から多量の血を流すNo.017。
歯を食い縛り、此方を見ている。
「…あの黒炎属性の隔壁を何故…はっ、もしや…」
フェスは何かに気付いた反応を見せる。
「…ふっ、あれだけ月属性に誇りを持っておきながら、こんな簡単な事に気付いていなかったとはな…!」
フォボスが声高らかに言った。
それに対し、フェスが再び口を開く。
「やはりそうか、風属性だ。」
「その通り…所詮、隔壁と言えど炎を模した形状の柔い壁…人1人抜けるだけのスペースなら、風属性さえあれば簡単なもんよ。」
「…くっ、すっかり忘れていたな…」
フェスは直ぐに表情を落ち着かせ、平静を取り戻す。
「これで分かったようだな、我々を隔離させる方法は無い。おまけに、あの青ボスは大きな傷を受けて身体も満足に動かせない。」
「…ふっ。」
「…何を笑っているんだ。」
ここで…フェスの口角が、初めて上がる。
「これ以上、勝算がないと思ってか?」
「何だと。」
その時、ボワッと音を立てたと思えば…突然フェスの身体が黒炎属性で包まれる。
「うわっ!?」
「何だ!?」
身を隠したままのフェスが、口を開く。
「さっきのフォボスからの攻撃…そう、一旦ダメージを受ける事でそれがトリガーとなり、再度復活する覚醒…」
「Λ覚醒か!」
「いや…」
フェスが姿を現す。
その全容は、真っ黒だ。
その姿は、しっかりとこう告げる。
「特殊Λ覚醒だ。」
突如姿を消すフェス。
そして直後、フォボスとダイモスの周囲一帯が激しく爆破を連ねる。
「ぐぁっ…!」
「がはっ…!」
「打ち込め、レイナ!」
その声と共に、ダイモスの前にフェスが現れる。
大剣に変化した武器が黒炎属性を纏い、刃先を向ける。
「うん!…ワイドグランドスピア!」
「ヘルスラッシュ!」

フォボスを目掛けて、周囲一帯の床から無数の槍が飛び出す。
一方、ダイモスの方へは、フェスの黒炎属性と共に大剣による力強い一振りが襲う。
加えて、フェスによるヘルファイアが両者を焼き尽くす。
しかし次の瞬間。
「!!!」
離れた距離から様子を眺めるNo.017は、驚愕の表情が隠せない。
ややもせず、フォボスとダイモスが身体から煙を上げながらもフェスの至近距離に現れ…その彼を狙って、両者共に武器を向けていたのだ。
両者は全ての攻撃を、何とか回避していたようだ。
一方、それに視線すら向けないフェス。
それでも、彼はその気配にはしっかり気付いているようだった。
両者の攻撃が発動する前に、先に手を打つ。
「ヘルイラプション!」
突然、その言葉と共に、フェスの居場所を起点に濃厚な黒炎属性が発散され…広範囲に渡って噴火のような爆発が生じる。
「ぐわあぁっ!」
「があぁぁぁっ!」
共に悲鳴を上げるクロスジーン達。
そのまま黒炎属性に取り巻かれ、姿を包まれる。
すると、そのクロスジーン2名の上部へフェスが飛び出し、姿を現す。
「行くぞレイナ!」
「う、うん!」
トドメの攻撃を決める合図のようだ。
2人のボスは、攻撃態勢を取る。
そして…
「ヘルメテオ!」
「トピカルグランドスピア!」
黒炎属性を纏った無数の流星と、地からの無数の槍による一点集中攻撃が、一度にクロスジーン2名を襲う。
「ぐっ…ぐわあぁぁぁっ!!!」
「があぁぁぁっ…!!!」
断末魔の叫びが、フロア中に響く。
…攻撃を終えたフェスは着地…一方のNo.017は遠くで肩を押さえながら直立している。
そんな彼等は、依然として黒炎属性に包まれたままのクロスジーン2名を凝視している。
燃えるクロスジーン達。
軈て、黒炎属性は晴れ…
煙が上空へと消えて行く。
そして。
2つの四肢が倒れ…
遂に動きを失った。
2人のボスは、それを見て肩を落とす。
「ふぅ…」
「や、やったね…!」
フェスは小さく溜息を落とし、一方のNo.017は安堵混じりの嬉々とした表情を浮かべる。
その時、唯ならぬ疲労が、その2人を襲う。
…勝利だ。

続く。