「あぁ、ご名答…」
全く表情の見えないルダ。
得体の知れない敵に、僕は武器を強く握り締めます。
同様に、隣のリドルも無言で彼方を睨みつけ、剣を握り締めます。
「何故…何故リドルを狙うのですか!?」
「ふん…それは奴の仲間を根絶やしにするため…アレがこれ以上繁栄されたら、俺達にとっては大問題…」
「奴の仲間…?」
奴とは一体…
「それ以上は今後のお楽しみ…」
「ちっ」
ルダは此処で一度口を閉ざし…それ以上の情報を教えない事を強く暗示しました。
そして…
「さて。」
そう一段落つくと…
ルダは武器を持たない方の手を後ろにし、そのまま前へ戻すと…
「!!?」
現れた人物に、僕は驚愕、そして愕然としました。
「見つけるのに苦労したぜ。」
右眼を隠すように長い美しい金髪に、青いマフラー。
その姿はぐったりと、意識を失っているようです。
リドルは全く分かっていない様子ですが…
「エルナ!!?」
「そう…お前、ファルギアの最愛した女…エルナ・アライプだ。今回は此奴を…」
ルダは持参したその姿を、盾のように前に構えました。
「人質にしてもらう。」
「なっ…!!?」
焦燥と憤怒と絶望と…
様々な感情に振り回され、頭が回りません。
未だ無言ではありますが、リドルも状況が分かったようで、冷や汗を流しているのが横目で見えました。
「いやぁ、リドルを狙うだけでは面白味が無いんでね…ファルギアも動いていると聞いて…彼女の弟さんを脅して情報を盗み、死に物狂いで探させてもらった。」
「何っ…!!?」
知らないうちに、僕は歯をギリギリと軋っていました。
まさかこんな所でこんな状態で再会する事になるとは…
最悪の再会。
お付き合いは続いていないとはいえ、嘗て愛していた人物がこうして人質にされるなんて…
僕は絶対に許せません。
「くっ…!!!」
武器から電撃を強く発生させ、ルダに向かって高速移動します。
だが…
「此奴がどうなってもいいのか?」
「ちっ…!!!」
エルナの身体を盾にされました。
一体、どうしたらいいのでしょうか…
僕は一歩退きます。
しかし…
これでは手が出せません。
すると…
「リドル…?」
リドルが此方を見て、強く頷きます。
…まさか…
途端に、リドルは持ち前の技、空間技でルダの背後を取ります。
その瞬間、ルダは其方を向いて攻撃、リドルはそれを受け止めます。
…なるほど、ルダの狙いはリドル。
彼はそれを利用して自ら囮を買って出たという訳ですか…
僕に背を向けたルダ。
僕はすぐさま、武器の属性引力を用いて高速移動でルダに近づきます。
僕の武器は、予め登録していた属性との引力を発生させます…
リドルの闇属性を利用し、僕とリドルとを繋いだ線分の通過点にあたるルダに、瞬間的に移動しました。
それを予見してか、ルダはエルナを僕の方に向けますが…
未だルダはリドルへの攻防に集中…
僕は、エルナを掴むルダの手首を、強く握ります。
「!!!」
その瞬間、僕の持つ覚醒を踏んで、強力な一撃を準備します。
覚醒によって黒く変化する僕の姿。
身体から放射状に電撃を発するエレクトリックレイディエイションを先に放ち、ルダを眩ませ…
直後。
「エレクトリックランス!!!」
「!!!」
電撃と同時に、力強い一突き。
エルナを片手で守りながらですから、少々力は落ちてしまいますが…
そんな事は当然。
守らずして無神経に攻撃するなんて事は憚られます。
ですがその瞬間…
ルダは屈んで攻撃を交わし、間一髪この攻撃を避けます。
電撃だけ僅かに食らっているようですが…
そして、ルダが避けた事により空振りした攻撃の行き先はリドルに…
しかし、流石の彼。
その動きを予想していたのか、空間技を巧みに扱って僕の攻撃をリドルの向こうへ流します。
直後、ルダの武器が僕の足元へ…
「!!!」
僕は小さく跳ね、電撃製の円形の移動式足場を召喚…
それに脚を乗せて距離を置きます。
その直後…
「ふん」
ルダの攻撃がリドルへ…!
「リドル!!!」
ルダの棒の先端についた鉄球。
それがかなりの質量と速度を持ち、リドルの四肢を高速で壁へ衝突させます。
…リドルがぶつかり、その壁の上部からガラガラと落ちる瓦礫。
あれではきっと、リドルはかなりの体力を削がれたでしょう。
「くっ…」
歯を軋る僕。
これじゃぁ手に負えません。
「…ふん、さぁ、どうする…?」
「…!!!」
エルナの首を圧迫していくルダ。
意識は未だはっきりとしませんが、明らかにエルナの表情が苦しそうです。
「やめろ!!!」
電撃の足場に乗ったまま、ルダの居場所へ高速移動します。
「僕は…彼女に手を出させない!!!」
近づく僕に対して…今度はルダは、エルナではなく、武器を向けます。
僕もまた強力な一撃を向けますが…
ルダの武器の質量には勝てず…
「がはっ!」
身体を吹き飛ばされます。
血を噴きつつも、ゴロゴロと転がされる身体。
そのまま僕は身体を起こそうとしますが…
「ぐっ…くっ…!」
あまりにも強い攻撃を受け、直立をも妨げられました。
それを見て…
「…ふん、此奴ぁもう要らんな。」
「エルナ!!!」
ルダはエルナの身体を投げ捨てました。
そして歩んだ先は…リドル。
武器を構え…そのまま…
リドルの四肢をボコボコに痛めつけます。
「り…リドル…!!!」
ルダは攻撃を止めません。
呻き声すらも発さないほど弱るリドル。
何も出来ない自分にもどかしさを感じつつも、焦燥と絶望が膨らみます。
「やめろぉーーー!!!」
そう叫んだその時…
「…うん?」
ルダは何かに気付きました。
「…ちっ、サイレンの音か。」
そう、僕が隙を見てスマホで通報した警察のパトカーの音です。
警察に僕が喋る事はできませんが、通話を繋いでこの状況を聞かせる事は可能でした。
通話を繋いだまま、付近の音が聞こえる範囲内にスマホを投げ捨て…
それも、信頼の深いスィオリ警部へと。
よく聞くと、救急車の音も聞こえますから、きっとスィオリ警部が手配したのでしょう。
その時。
「ファル…ギア…?」
「エルナ!?」
一瞬だけ意識を取り戻したのか、小さく開くエルナの瞳。
しかし、それは直ぐに閉じ…
またがっくりと首を項垂れます。
「………!」
「…ちっ、仕方ねぇ。」
サイレンを聞いたルダはそう言い、武器を強く掴み…
背を向けたまま、顔だけ此方を向き…
「また、会おう、ファルギア。」
そう吐き捨て、ルダはその場を去りました。
「…よく覚えて…おいてくださいよ…」
徐々にピントが合わなくなる視界…
焦点の安定しないまま…その端に写るリドル。
自身の瞼によって狭まる視界。
リドルのその足元にうっすら見える太陽の図形。
「…僕の、名を…!」
サイレンの音が大きくなりそのまま止まったのを確認し、安心したのか…僕はそのまま、目を閉じてしまいました。
「なっ…」
「ルダ…!?」
エピック病院。
俺達3人は、ベッドに寝かせられた、重体のリドルを囲んで話す。
事件に遭ってボコボコにされた彼の治療は終わったが…それでも、意識が戻るのにはかなり時間がかかりそうだ。
そんな中、さっきあった状況をファルギアから聞いて、俺とザイディンは驚きを隠せない。
「あの『古の廃墟』を訪れた時に聞いた、ルダだったか…」
「まさかとは思ったが、本当にリバース様から聞いた情報が関係しているとはな…」
事態を顧み、呟く俺とザイディン。
それに反して、ファルギアは珍しく意気消沈しているようだ。
…無理もない。
仲間の一人が目の前でこんなにボコボコにされたんだ。
命に別状は無いとはいえ、かなりの重体で意識も戻らない。
身も心も満身創痍。
普段あんなにおちゃらけている彼でも、根はしっかり確立した心持ちを携えている。
そんな彼だからこそ、この状況にショックを強く受けてしまうのには、俺達が同情してしまうのも容易い。
「…それにしても、ルダの今度の狙いはリドルだったか…」
そう呟くザイディン。
それに俺は答えて言う。
「…リドル、彼奴はファルギアを筆頭とする、クロスジーンの意志を継ぐ団体の、一員。深くフードを被り、小柄。その性格は、普段はかなりフランクに話すが、戦闘時だけ寡黙になる…まるで二重人格。一言で言うとその様子はまさに『謎』だが…かなり汎用する技である空間技からも分かるように…嘗てはあのアクトが弟子にして稽古をつけていたという人物…」
「…あぁ、そうだったな…」
アクトの名が出たからか、ザイディンは顔を顰めたように見えた。
「そして、案の定…現場に残されていた太陽の図形が意味する数字は、2。」
「カウントダウンが続いているな…」
「あぁ、これはきっと…この事件の標的がまだあと2人残っている事を示唆する。…そのうちの一人が、きっとお前、ザイディンだろう。」
「あぁ、違いない。…二度ほど襲われているとはいえ、ルダの部下によるもの。…恐らく俺に対しては未だ詮索段階なのか…その証拠に、俺を指す太陽の図形は残されていない。」
「あぁ、そうだな…そして残るあと一人は…」
「あと一人…」
考え込む俺達。
一体それは…
「…首謀者がルダだと分かったとはいえ、その動機が分からないと…」
「…そうだな…だが、直ぐに分からない事をこんな所で長考しても仕方がない。…ファルギアにも悪いし、俺達は一旦退室するとしようか。」
「あぁ、そうしよう。」
立ち上がる俺達。
病室の扉を開き、俺達は廊下に出る。
「…邪魔したな、ファルギア。」
「また今度。」
そう言い、扉を閉める。
俺とザイディンはそのまま、エピック病院の出入口に向かった。
…テンとザイディンが退室し、静寂と化した病室。
残された一人は、徐に立ち上がる。
そして、病院の扉の方へ向かい…
廊下を少し歩いて…
別の病室の扉の前に立つ。
そして、扉の取っ手に手をかけ…
扉を、開く。
その病院のベッドには…
綺麗な金髪、閉じたままの瞼。
さっき人質として捕らえられていた、エルナの姿が横たわっていた。
そして、その姿の前に…
一人の男は、項垂れたまま座った。
「…それが、例の彼女か。」
「…えぇ。」
開いたままの扉の向こうから、別の男が不意に声をかける。
背丈は高く、白い様相に身を包むその男は…
「まさかそんな再会になるとはな…」
「………。」
「…今度はちゃんと、見守ってあげるといい。ファルギア。」
「…えぇ。勿論です。」
人知れず、話し終えたその男は姿を消した。
エピック病院を出てすぐ、俺はスマホを取り出した。
ザイディンと一緒に歩きつつ…俺は『古の廃墟』へ一緒に足を運んでくれた、あのエイトに通話を繋ぎ、彼の持ち前の推理力をまた借りようと思ったのだ。
「もしもし?」
『おぉ、ツェーン!…お前、状況はどうなんだ?』
「実はついさっき、俺達の仲間が一人襲われてな…」
『なっ、また襲われた…!?』
「あぁ、正確には、彼奴の仲間のリドルが狙われ、リドルは意識不明の重体。その彼を守っていたのが俺達の仲間。その彼、ファルギアも一緒に襲われた、って惨状だ…」
『そ、そうか…それはご愁傷様だな…』
「あぁ、そして遂に相手側の首謀者が判明して…」
『何っ…!?』
「それが、あの半年前の惨劇の時の敵の団体の一人の、ルダだ。」
『なっ…ルダだと!?』
「あぁそうだ…それで、俺達が今掴んでいる情報を踏まえて、お前の推理を聞こうと思ってな…」
『なっ…なるほど…いやちょっと、もう既に追いつけないんだが…』
「構うか、話すぞ。」
『えっ…』
続く。