30年程前、
先輩が感慨深げに言った。
”好きな人がいて、相手を幸せにできるのは自分じゃないと、判断したら、僕は平気で好きな人に嫌われる事ができる。
辛いよ。
でも、それがいつか、お互いの為になるなら、僕は相手が自分を殺したいと思うくらい憎まれる自信がある。
辛いのを一ヶ月耐えれば、人間は辛さに順応するから。”
当時
好きだった人に、わざと嫌われて、先輩の愛した人は、先輩の友人と結婚していった。
以来、先輩も何人かの女性と付き合い、結婚した。
でも、私が見る限り、本気で愛した女性は自分が幸せにできないと、嫌われた人だけで、以降の女性達に対して、本気で心を開いたようには見えなかった。
先日久しぶりに会った先輩に、思い切って、あの時の言葉が本当かどうか、聞いてみた。

”別れたのは、正解だったと思いたいね。でもな、一ヶ月で順応なんかしなかった。今も本気でなんか誰に対しても気持ちなんかぶつけられないよ。あん時、大袈裟に言えば自分の心に蓋をした感じ。
結婚もしたけど、好きだからじゃない。必要だったから。あの時別れて、彼女が今幸せでいてくれたら、自分の今も引きずる辛さが報われるね”

本当の気持ち、
偽らねばいられない痛み、
幸せってなんだろ。

30年前にはさっぱり分からなかった先輩の言葉。
今年を重ね、自分なりに解る気がする。
好きだから、相手を解放する。
大切だから、どんなに心配で愛おしくても、離さねばならない時がある。
理解したくない現実でも、
納得できなくても、
せざるを得ない時がある。
自分が辛くても、
じっと傷を見つめて、目を逸らさなければ、いつかは癒える。
大人になって、やっと理解できた、
本気、
若い時にすでに実践してた先輩が羨ましくも、かわいそうでもあった。