吉野家が再び危ない。親会社である吉野家ホールディングスの2010年2月期連結決算を見ると、最終損益は89億円の赤字。不採算店舗の増加と関連事業の不振が重なり、減損損失を86億4100万円計上。「ステーキのどん」で発生したO-157食中毒事故によって焼肉・ステーキ事業は16億円の営業損失、寿司事業の4億円の損失も響いた。
だが、最大の問題は旗艦事業である牛丼店の不振にある。既存店売上高は前年比8.4%減、来客数の減少で営業利益は2009年2月期の64億円から24億円と実に6割減。BSE問題で不振を極めた2005年2月期以来の赤字決算に陥った。まさに紅生姜の赤さが心に染みる、といった感じだろう。
不振の原因は「牛丼業界の“利益なき安売り競争”にある」と言われている。380円の並盛りが割高感を持たれて、客離れ。そこで4月中旬に牛丼110円引きセールで巻き返したが、すき家と松屋はさらなる低価格カウンターパンチを放ち、吉野家の業界最安値はわずか2日間だけ。マクドナルドがむしろ高価格勝負でヒットを飛ばす中、つゆ切れの悪さが目立つ。
BSE危機の時には“最後の牛丼”がニュースで放映され、レトルト牛丼にもプレミアムが付き、吉野家を応援する社会現象まで起きたのに、今回の危機ではスルーされている。
吉野家ホールディングスの安倍修仁社長は、子会社である吉野家社長も兼務し、現社長は副社長に降格。グループ6社の本社を東京都北区に移転集約し人員もスリム化、固定費削減で体質強化を図りつつ、中国展開の加速で2010年度の黒字化を目指す。
安売り競争が利益減少を招いたのは間違いない。成長市場の中国展開も進めるべき。だが、私は危機の根幹に、牛丼という商品をめぐる消費者意識に大きな変化が訪れたことがあるような気がする。“うふふマーケティング”的(消費者と供給者の真ん中から考える)に、吉野家苦境の仮説を挙げてみよう。
●吉野家苦境の5つの仮説
仮説1:吉野家の牛丼という単品嗜好の崩壊
牛丼単品に消費者が飽きたという仮説。現にすき家や松屋の主力は定食にシフトしている。餃子の王将も躍進ペースはスローダウンしたが、依然として好調。ご当地メニューも支持されている。好調のマクドナルドは、「テキサスバーガー」や「NEWてりたま」で話題をさらう。
もちろん吉野家も「豚生姜焼定食」「カルビ焼定食」「牛鮭定食」などでバラエティニーズに応えてきた。だが「吉野家=牛丼」というブランドイメージが堅固なあまり、牛丼客以外の新規顧客を開拓しきれていない。
仮説2:吉野家はヘルシートレンドにのまれた
健康的な食べ物の想起ワードといえば、ベジタブルや薬膳、マクロビオティック、ローフードなど。肉は一切れも出てこない。フレッシュネスバーガーの「ベジタブルバーガー ビーンズ」や「ベジタブルバーガー マッシュルーム」は、罪悪感なくバーガーを食べられるということで女性層を開拓する。
もちろん、吉野家にもサラダや漬け物、紅生姜がある。でも牛丼は肉がたっぷり。「野菜牛丼」みたいなコンセプト商品も欲しい。余談だが米ケンタッキーの「Double Down」はあまりに過激。チキンでチーズとベーコンをはさむなんて……ヤバすぎる。
仮説3:吉野家は業態開発で負けた
「たもん庵」は、シコシコうどんとトッピングで人気を集める。フードコートにも多く出店して、1人でもグループでも気兼ねなく楽しめる食スタイルを提供。フレッシュネスバーガーの注目の新業態は「そば処 東京」。コンセプトは“ジャズが流れる立ち食い蕎麦屋”である。
カウンターで「があーっ」とかきこむスタイル、もはや賞味期限切れなのではないか。
仮説4:吉野家は滞在時間単価が高い
仮説3にも関連するのが“滞在時間単価(客単価÷滞在時間)”である。店に入る。「並、味噌汁」「ありがとうございます!」「並1丁、味噌汁1杯!」「お待ちどうさまでした!」。「があーっ」と食ってパッと立ち去る。これがあるべき牛丼作法なのだが、不況のせいで牛丼の後にカフェ休憩もなくなった。「があーっ」の所要時間は5分、並盛り+味噌汁430円なら1分86円のランチである。
ライバルのマクドナルドはどうか。ベーコンレタスバーガーセット590円として、20分粘れば1分29.5円。滞在時間単価は吉野家より安い。しかもマクドナルドにはコンセントもあり、ネットができたりと滞在時間を有意義に過ごせる。マクドナルド躍進のウラには「おひとりさま外食を低コストで機能的に楽しもう」という倹約心が働いている。
仮説5:あの“吉野家リズム”が失われた
“吉野家リズム”とは何か?
昼12時、吉野家には次々とお客さんがやってくる。「並」「並と卵!」「特盛、つゆだくだくで」「大盛と味噌汁」「ネギ抜きして」……と10人以上の注文を1人でとるのがカウンタースタッフ。すべて余すところなく記憶して、迷うことなく厨房に「並1丁!」「特盛2丁、並1丁、たまご1つ!」と伝える。聞き返されれば「都合特盛2丁、並2丁!」と累積情報も返答。迷うことなく丼を配り、精算客にもいち早く気付き、片付けながら待ち客を誘導し、すぐに注文をとり、厨房に伝える……。
この一連のリズムこそ吉野家リズムである。このリズムがない吉野家に遭遇すると(注文の間合いが悪く、「お客さん、並でしたっけ?」と確認して配る店員のことだ)、とても味気なかった。そう、“なかった”という過去形なのが問題なのだ。ご存じの通り、今の吉野家には注文紙がある(牛丼単品店を除く)。それが吉野家減速の主犯じゃないかと思う。
吉野家リズムとは、吉野家のスーパーな店員とお客が煮詰めた牛丼文化であった。安部社長は同店のアルバイトの時、きっとスーパーな店員だったはずだ。
byBusiness Media 誠
だが、最大の問題は旗艦事業である牛丼店の不振にある。既存店売上高は前年比8.4%減、来客数の減少で営業利益は2009年2月期の64億円から24億円と実に6割減。BSE問題で不振を極めた2005年2月期以来の赤字決算に陥った。まさに紅生姜の赤さが心に染みる、といった感じだろう。
不振の原因は「牛丼業界の“利益なき安売り競争”にある」と言われている。380円の並盛りが割高感を持たれて、客離れ。そこで4月中旬に牛丼110円引きセールで巻き返したが、すき家と松屋はさらなる低価格カウンターパンチを放ち、吉野家の業界最安値はわずか2日間だけ。マクドナルドがむしろ高価格勝負でヒットを飛ばす中、つゆ切れの悪さが目立つ。
BSE危機の時には“最後の牛丼”がニュースで放映され、レトルト牛丼にもプレミアムが付き、吉野家を応援する社会現象まで起きたのに、今回の危機ではスルーされている。
吉野家ホールディングスの安倍修仁社長は、子会社である吉野家社長も兼務し、現社長は副社長に降格。グループ6社の本社を東京都北区に移転集約し人員もスリム化、固定費削減で体質強化を図りつつ、中国展開の加速で2010年度の黒字化を目指す。
安売り競争が利益減少を招いたのは間違いない。成長市場の中国展開も進めるべき。だが、私は危機の根幹に、牛丼という商品をめぐる消費者意識に大きな変化が訪れたことがあるような気がする。“うふふマーケティング”的(消費者と供給者の真ん中から考える)に、吉野家苦境の仮説を挙げてみよう。
●吉野家苦境の5つの仮説
仮説1:吉野家の牛丼という単品嗜好の崩壊
牛丼単品に消費者が飽きたという仮説。現にすき家や松屋の主力は定食にシフトしている。餃子の王将も躍進ペースはスローダウンしたが、依然として好調。ご当地メニューも支持されている。好調のマクドナルドは、「テキサスバーガー」や「NEWてりたま」で話題をさらう。
もちろん吉野家も「豚生姜焼定食」「カルビ焼定食」「牛鮭定食」などでバラエティニーズに応えてきた。だが「吉野家=牛丼」というブランドイメージが堅固なあまり、牛丼客以外の新規顧客を開拓しきれていない。
仮説2:吉野家はヘルシートレンドにのまれた
健康的な食べ物の想起ワードといえば、ベジタブルや薬膳、マクロビオティック、ローフードなど。肉は一切れも出てこない。フレッシュネスバーガーの「ベジタブルバーガー ビーンズ」や「ベジタブルバーガー マッシュルーム」は、罪悪感なくバーガーを食べられるということで女性層を開拓する。
もちろん、吉野家にもサラダや漬け物、紅生姜がある。でも牛丼は肉がたっぷり。「野菜牛丼」みたいなコンセプト商品も欲しい。余談だが米ケンタッキーの「Double Down」はあまりに過激。チキンでチーズとベーコンをはさむなんて……ヤバすぎる。
仮説3:吉野家は業態開発で負けた
「たもん庵」は、シコシコうどんとトッピングで人気を集める。フードコートにも多く出店して、1人でもグループでも気兼ねなく楽しめる食スタイルを提供。フレッシュネスバーガーの注目の新業態は「そば処 東京」。コンセプトは“ジャズが流れる立ち食い蕎麦屋”である。
カウンターで「があーっ」とかきこむスタイル、もはや賞味期限切れなのではないか。
仮説4:吉野家は滞在時間単価が高い
仮説3にも関連するのが“滞在時間単価(客単価÷滞在時間)”である。店に入る。「並、味噌汁」「ありがとうございます!」「並1丁、味噌汁1杯!」「お待ちどうさまでした!」。「があーっ」と食ってパッと立ち去る。これがあるべき牛丼作法なのだが、不況のせいで牛丼の後にカフェ休憩もなくなった。「があーっ」の所要時間は5分、並盛り+味噌汁430円なら1分86円のランチである。
ライバルのマクドナルドはどうか。ベーコンレタスバーガーセット590円として、20分粘れば1分29.5円。滞在時間単価は吉野家より安い。しかもマクドナルドにはコンセントもあり、ネットができたりと滞在時間を有意義に過ごせる。マクドナルド躍進のウラには「おひとりさま外食を低コストで機能的に楽しもう」という倹約心が働いている。
仮説5:あの“吉野家リズム”が失われた
“吉野家リズム”とは何か?
昼12時、吉野家には次々とお客さんがやってくる。「並」「並と卵!」「特盛、つゆだくだくで」「大盛と味噌汁」「ネギ抜きして」……と10人以上の注文を1人でとるのがカウンタースタッフ。すべて余すところなく記憶して、迷うことなく厨房に「並1丁!」「特盛2丁、並1丁、たまご1つ!」と伝える。聞き返されれば「都合特盛2丁、並2丁!」と累積情報も返答。迷うことなく丼を配り、精算客にもいち早く気付き、片付けながら待ち客を誘導し、すぐに注文をとり、厨房に伝える……。
この一連のリズムこそ吉野家リズムである。このリズムがない吉野家に遭遇すると(注文の間合いが悪く、「お客さん、並でしたっけ?」と確認して配る店員のことだ)、とても味気なかった。そう、“なかった”という過去形なのが問題なのだ。ご存じの通り、今の吉野家には注文紙がある(牛丼単品店を除く)。それが吉野家減速の主犯じゃないかと思う。
吉野家リズムとは、吉野家のスーパーな店員とお客が煮詰めた牛丼文化であった。安部社長は同店のアルバイトの時、きっとスーパーな店員だったはずだ。
byBusiness Media 誠
