横溝正史といえば、八つ墓村や犬神家の一族といった強烈なインパクトを伴うホラーミステリーのイメージが強いかと思いますが、実は家庭小説も書かれていたのをご存知ですか?

それがこの雪割草という小説です。



ミステリー小説家が家庭小説?と思う方もいるかと存じます。が、これは本当に面白い。すごい小説を書く人は別ジャンルでもやはり面白い小説を生み出すんだ!と金田一耕助シリーズしか読んだことがなかった私はとても衝撃を受けました。


こちらの作品、存在を忘れられていた小説で発見されたのはここ最近。戦前に連載されており、刊行化されたのは2018年なってからというまさに幻の小説。

ビブリア古書堂の事件手帖II ~扉子と空白の時~』では、丸々1冊分がこの雪割草をめぐる話になっているほど。




話としては、出生の秘密が明らかになったせいで、縁談が破談になってしまった主人公の女の子が、単身で上京し、自分の出生について自らの足で調べながらも成長していきます。

もちろん、縁談が破談になって始まる小説なので女の子の人生は順風満帆とはいえません。意地悪な人たちに出会ってしまったり、何度も挫けそうになったりも懸命に生きる女の子の姿がとてもいじらしいです。とてもじゃないけど釣鐘の中で死んだり、湖に逆さまに刺さって死んだりといったことを書いている作者が書いているとは思えない笑。

結構分厚い本なのですが、面白いので私は一気に読んでしまいました。


調べると横溝正史は後にも先にも家庭小説を書いたのはこれっきりだったようで、雪割草が唯一の長編家庭小説だそうです。そう考えると本当に貴重な小説ですし、戦火を潜り抜けて原稿が残っていて本当に良かったと思います。