潮騒
強い陽射し。白なのか、茶なのかさえも分からない程に、太陽に焼けてしまった砂。上昇しながら不規則に揺れる陽炎は、溢れかえった熱を持て余しているようで。
一方で、ごった返す人並み。すぐに消えてしまう足跡。その、濡れた跡に横這いに這う、小さく不透明な蟹。
――海とは、何という生命力に充ち満ちているのでしょう……
私は大きく鍔 の広い帽子を目深に被 りながら、砂浜から突き出たコンクリートに腰掛けました。今は梅雨の時期だというのに、気紛 れに晴れた青空が、仰々しく水面を輝かせています。私は、その光の筋を何度も何度も目で追いながら、ゆっくりと目を細めました。
すると、あんなにも遠くにいた波の音が途端に近くなります。思えば、砂浜を歩きながら聞く潮騒は法螺貝 に残る残響とよく似ています。貝とは、夏の面影を閉じ込めてしまうものなのでしょうか。
嗚呼、ようやく私は海が見られたのだと――入道雲になり損なっている空を眺めながら、しみじみと思いました。同時に、これ程までに夏を愛おしく思った日もありません。
誰かに夏が好きだと告げる時、大抵の人は目を瞠 りながら酷く驚きます。私には余程、夏というものが似合っていないのでしょう。それでも、私にとって夏とは何よりの憧れであり、最 も深く、しかし遠い生命なのでした。
ですから、私はこうやって夏に包まれるように過ごす時間が酷く大切で、そして、この好意を思いがけずに否定される瞬間が嫌いなのです。
正直なところ、私という人間はとても内向的で、人からはよく「ロマンチスト」だと笑われます。恐らく、物言わず本ばかりを読んで退屈を散らしていたから抱かれた印象なのでしょう。その延長のように、好きな季節は「秋でしょう?」とも訊かれます。誰も、私など見ていないかのように。
「どうして?」
いつぞやの夏、私は不思議に思い訊ねてみると、幼馴染みの美智代 ちゃんは
「だって、夏は騒がしいわ。物静かな美乃里 ちゃんには似合わないわ」
と、そばかすの浮かんだ表情にクシャリと皺を寄せました。その言葉に、私は読んでいた本を閉じ、何て哀れなのだろうと感じたのを好 く覚えています。きっと、美智代ちゃんにとっての夏は、彼女の笑顔のように開放的な、刹那的な季節に見えていたのでしょう
けれども、ね。
本当は、夏こそがロマンチストの季節だと、私は思うのです。そして、夏程もの悲しく、静かな季節はありません。
ザ、ザザン……と、一時的な潮騒が過ぎ去ってしまえば、後は静寂ばかりが残るのは――まるで、誰かの生命の鼓動に似ております。しかし、波がそんな確かな情緒を持っているのは、数ヶ月の間――熱に浮かされている期間だけなのです。
……感傷から目を覚まし、私は顔を上げました。太陽はそろそろ真上へと立ち止まろうとしています。
私は、立ち上がりスカートの裾を払いました。足下にはコンクリートと繋がった濃い影ばかりで、そこには私の影も血潮すらもありません。
スン、と鼻を鳴らすと、潮の香りに混ざり、粉っぽい――しかし、質量のある甘い香りが私の胸を満たしました。もうそろそろ、誰かが私に逢いに来るのでしょう。きっと、家族なのだと思います。
それでは、そろそろ私はお暇 しましょう。次にこの潮騒を聴くのは、きっと胡瓜 の馬に乗る日でしょう。
一方で、ごった返す人並み。すぐに消えてしまう足跡。その、濡れた跡に横這いに這う、小さく不透明な蟹。
――海とは、何という生命力に充ち満ちているのでしょう……
私は大きく
すると、あんなにも遠くにいた波の音が途端に近くなります。思えば、砂浜を歩きながら聞く潮騒は
嗚呼、ようやく私は海が見られたのだと――入道雲になり損なっている空を眺めながら、しみじみと思いました。同時に、これ程までに夏を愛おしく思った日もありません。
誰かに夏が好きだと告げる時、大抵の人は目を
ですから、私はこうやって夏に包まれるように過ごす時間が酷く大切で、そして、この好意を思いがけずに否定される瞬間が嫌いなのです。
正直なところ、私という人間はとても内向的で、人からはよく「ロマンチスト」だと笑われます。恐らく、物言わず本ばかりを読んで退屈を散らしていたから抱かれた印象なのでしょう。その延長のように、好きな季節は「秋でしょう?」とも訊かれます。誰も、私など見ていないかのように。
「どうして?」
いつぞやの夏、私は不思議に思い訊ねてみると、幼馴染みの
「だって、夏は騒がしいわ。物静かな
と、そばかすの浮かんだ表情にクシャリと皺を寄せました。その言葉に、私は読んでいた本を閉じ、何て哀れなのだろうと感じたのを
けれども、ね。
本当は、夏こそがロマンチストの季節だと、私は思うのです。そして、夏程もの悲しく、静かな季節はありません。
ザ、ザザン……と、一時的な潮騒が過ぎ去ってしまえば、後は静寂ばかりが残るのは――まるで、誰かの生命の鼓動に似ております。しかし、波がそんな確かな情緒を持っているのは、数ヶ月の間――熱に浮かされている期間だけなのです。
……感傷から目を覚まし、私は顔を上げました。太陽はそろそろ真上へと立ち止まろうとしています。
私は、立ち上がりスカートの裾を払いました。足下にはコンクリートと繋がった濃い影ばかりで、そこには私の影も血潮すらもありません。
スン、と鼻を鳴らすと、潮の香りに混ざり、粉っぽい――しかし、質量のある甘い香りが私の胸を満たしました。もうそろそろ、誰かが私に逢いに来るのでしょう。きっと、家族なのだと思います。
それでは、そろそろ私はお