英雄のジオラマ | 半脊椎-Spineless fish Side-

英雄のジオラマ

三日前からぼくはみんなから無視されるようになりました。幼なじみのニシ君に聞いたら、ぼくがアリを殺すからと言われました。ぼくは悔しくなって、毎日アリを潰すことにきめました。プチプチと、足の下でつぶれる感しょくはイクラやスジコを食べている時みたいで少し楽しいです。




 六年生になったぼくはクラスの連中とウォーターガンで遊ぶようになりました。本当はエアガンで遊びたいのですが、ぼくはお金がないので買えません。その代わり、中学生になったらお年玉で買おうと思っています。だけど、ぼくはウォーターガンで遊ぶのがきらいではありません。アリの巣を水びたしにすると、アリがあなから出てこなくなったり、ピクピクと動いたりしているのが見えて楽しいからです。
「あーあ、アリを殺すと雨がふるんだよー」
 一ヶ月前、いつものようにみんなでウォーターガンで遊んでいると、同じクラスのミナミちゃんが言いました。ミナミちゃんの話によると、アリの巣を水びたしにしたり、わざとふんで殺したりすると、次の日には雨がふるそうです。それを聞いたみんなはとたんに大人しくなって、アリの巣からウォーターガンを離しました。ぼくはそんなのは迷信だと知っていたので止めませんでした。




 ぼくの思い出は三さいのころからはじまります。三りん車にのったのをおぼえています。ぼくはびゅんびゅんはしっていました。
 お兄ちゃんはうらの空き地でBBだんをとばしていました。オレンジ色で、虫のたまごみたいでなんだかきもちわるかったです。けれども、エアガンというのをふりまわすおにいちゃんがうらやましかったです。




 ぼくは今、泥水に浮いて小さい時のことを思い出しています。ぼくは必死でうでを曲げようとしているのに、なぜだか曲がりません。仕方がないのでぼくは空を見ていました。雨粒がぼくの目に当たっているのにぼくの目は痛くありません。
 そういえばぼくは今、ぼくを見ています。ぼくの形をした人形の周りをアリの行列が行進しています。アリはぼくの足元が好きみたいです。いっぱいのアリがぼくの足にグリグリとしょっ覚をこすりながら群がっています。
 だけどぼくは今、スキップをしています。うでは動かないけれども、足で軽々とスキップしています。




 楽しくなって、歌を歌って、空を見たら、アリの行列がぼくを運んでいました。ぼくはスキップして家に帰ったら、読みかけのナポレオンの伝記を読みます。