前回の続きです。

 

有難い事に

「続きはいつやるの?」と声を掛けて頂きましたので、

その後のお話を少しだけ。

 

小学5年生の時、肥満児認定を受け、

その解消のために始めたスポーツ少年団のソフトボール。

打った瞬間に3塁へ向かって走り出すほどの運動音痴で、

勉強も苦手な劣等生だった私。

 

そんな人間が気が付けば世界選手権ベスト4です。

正直、それ以上を望むべくもありませんでした。

とはいえ基本的にお調子者。

 

「ただ走って世界は凄かったですでは格好悪い」

 

「野球で言えばチャンスに代打で出て見逃し三振みたいなものだ」

 

「どうせ負けるなら先行して抜かれましたの方が見栄えがいいかな?」

 

などと、今思えば随分ふざけた事を考えながらスタートラインに向かいました。

 

準決勝の相手はデンマークの選手。

ところが不思議な事に、相手からあまり威圧感を感じません。

 

「ひょっとしたら勝てるかも?」

 

そう思った瞬間、出発前に読んだ中野浩一さんの本の一節を思い出しました。

『勝利を確信した瞬間に隙が生まれる。

ゴールラインを越えるまで勝負は分からない。』

 

慌てて気持ちを引き締めます。

1回戦は私がインスタート。

スプリントでは内側の選手に先行義務があります。

後ろの相手は左右に自転車を振ったり、車間を開けたり詰めたり。

当時の私はそれを見ながら、

「これがフェイントってやつか」

「でも本当に奇襲を掛ける選手って、そんなに大きな予備動作しないんだよなぁ」

などと妙に冷静に考えていました。

そして2コーナーからスパート。

そのまま逃げ切り勝ち。

 

2回戦も似たような展開でした。

相手が4コーナーで振り返った時、

何となく

「前へ行ってくれ」

とお願いしているような表情に見えたのです。

もちろん油断はできません。

警戒しながら前へ出て、そのまま逃げ切り。

気が付けば決勝進出です。

 

「おいおい、決勝だよ・・・」

 

「どうなってるの?」

そんな気分でした。

 

しかし決勝の相手を見て現実に引き戻されます。

相手はソ連の選手。

しかも準決勝で、

日本最強スプリンターだと思っていたF君の奇襲を余裕で封じ込めた絶対王者です。

 

「勝てるわけないじゃん・・・」

これが正直な気持ちでした。

 

しかしF君が必死で戦う姿を見ていた以上、

「何も出来ませんでした」

では済まされません。

 

どうせなら前で必死に走ろう。

銀メダルは確定しているんだし。

そんな軽い気持ちで決勝へ向かいました。

決勝1回戦。

相手は王者。

奇襲など仕掛けてこないと覚悟を決め、2コーナーから全力で踏み込みます。

4コーナーで並ばれました。

 

ところが思ったほど伸びてきません。

実は当時、

私はS級トップクラスの追い込み選手たちと練習できる環境に恵まれていました。

そのおかげで4コーナーからの加速には少しだけ自信がありました。

「悪いなニコライ」

「4コーナー勝負では負けた事が無いんだわ」

結果は僅差で勝利。

 

しかし喜ぶ暇はありません。

「ヤバい・・・勝っちゃった」

「でも1回戦から全力だったから脚が残ってないぞ・・・」

もし2回戦を落とせば3回戦。

その時、走れる保証はありません。

どうするべきか考えがまとまらないまま、2回戦の時間がやってきました。

 

スタートラインに立ったその時です。

ポツ・・・

ポツ・・・

雨が降り始めました。

 

いったんロードバイクに乗り換えて様子を見ていると、次第に本降りに。

そして場内放送。

「決勝2回戦は1時間順延します」

思わず心の中で叫びました。

「ラッキー!」

そこからは必死の回復作業です。

そして1時間後。

 

決勝第2戦が始まりました。

 

相手は絶対に何か仕掛けてくる。

そう考え、早めに前へ出て不意な仕掛けに備えて徐々に加速します。

2コーナーで踏み込んだ瞬間、横に並ばれました。

 

しかしその時、ある練習を思い出します。

当時、自称「ダッシュだけなら世界一」のチームメイトT君と、

練習終了後

4コーナーからゴールまで約70mの並走ダッシュを何本も繰り返していました。

 

正直、

 

「何の意味がある練習なんだろう、自分のダッシュ力を自慢したいだけか?」

 

と思っていました。

でも近所に住んでいて仲も良かったので、

断るのも気まずく嫌々付き合っていました。

まさか、その練習が世界選手権決勝で役立つとは。

 

「悪いなニコライ」

 

「これも今まで嫌というほどやったんだわ」

 

3コーナーで振り切り、

最後のレースだと思って脚が折れても構わないと全力で踏み込みました。

 

そしてゴール。

世界チャンピオン誕生です。

 

ゴールした瞬間、真っ先に頭に浮かんだのは父の事でした。

競輪ファンだった父と一緒に、幼い頃から見ていた競輪。

勝者はスタンドへヘルメットを投げ入れる。

私は何の疑問もなく、ヘルメットを投げ入れました。

その時は知る由もありませんでした。

その行動が後になって思わぬ騒動へ発展する事を・・・。

 

さらに、その後の表彰式でも人生初の晴れ舞台という事もあり舞い上がって、

色々とやらかしてしまいます。

 

日本の常識、世界の非常識。

そんな事を身をもって体験するのですが、その話はまた機会があれば。

 

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。