親なら我が子のかわいい寝顔を毎日見たいものだ。遅く帰っても、消灯した暗い部屋で娘が寝るベッドに足音をたてずそっと近づき顔をながめる。
「うーん。今日も地蔵のように尊い寝顔だ」
尊いというのは親のひいき目で見た感想であるが、その寝顔は平たい地蔵顔である。
娘が寝付いた後に帰宅したある日、娘が床に就く前に、妻はこんな会話をしたらしい。
「お父さんが帰って来たら、(寝室を)のぞかないようによく言っておいてね」
と、念を押すように何度も娘は妻にお願いしてきたので、
「お父さんは、あなたがかわいいから顔をみたいんだよ」
そう優しく娘を諭すように妻が言ったところ、「かわいい」に反応したのか娘はニヤッとほくそ笑んであごがだんだんとしゃくれてきたとのこと。
娘は、褒められ得意気になったときや、いたずらをする時に、普段はしゃくれていないあごが徐々に前に出てきてしゃくれ顔になってくるので、その気持ちが分かりやすい。
「のぞかないで…」と言われても毎日寝顔を見たいので、いつものように娘の顔をのぞきに娘の寝息のするベッドへとそっと近づいていった。
するとそこには、ちっちゃな”しゃくれ地蔵”が横たわっていた。