豊饒の海 | **YUMIRACLE BLOG**

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photo by YUMI





春の雪
豊饒の海

三島由紀夫


なんとも言えない。

とても大切な一冊になった。

繊細な心の主人公。
ほんとうに、ガラスのコップに明るい陽射しが差し込んで
海の煌めきみたいな細かい粒のひかりを音もなく静かに
放っているような きれいさ。
孤高の世界で誰も寄せ付けない

それは物語の始めのうち、とても脆いものなんだ。
すごくもろくて、時に裏返って欺いて。
ひとを傷つけて。
すごく汚いものなんだ。
訳わかんなくて。
人の気持ちなんて考えなくて。自分の世界で確立してて。
自分を守って。すごく臆病で。卑怯で。
言い逃れや自分を守るためのすべは観念のなかで巧みで。

そんな弱くて臆病な主人公。
そのなかには素朴できれいな純粋さがある。
その不器用さが裏目にでて、頭がいいがゆえに巧みにいいわけをつける。


それがあるとき変わるんだ。
それが一気に、太陽の恵みをたくさん受けて輝いてる真っ赤なトマトみたいに変わる。
彼自身が確信に触れたんだ。
恋をしているんだって自覚した瞬間を直に感じたのだ。

絶対的な不可能。
不可能や拒絶を間に受けて、はっきりと感じたのである。

それから強い紐を絶対に離さない、ちぎらせない、というふうに。
気持に素直に、あるがままに向かうようになった。
やがて、不可能のなかの可能を本当の可能じゃないかと錯覚し、
少しうぬぼれたりしてしまったりするちょっとした愚かさ。
だけど臆病だったころとは少し変わっている。

そんな「不可能」のなかの
夜の砂浜の情景がとてもきれいだ。
完全に想像の域なのだけど、白黒写真のような海と砂浜、そこに青い深い藍を
混ぜたような情景がわたしの頭のなかに広まった。


話の展開はその後、もっと絶対的な「不可能」が現実となるのだ。
さらに苦しみ、引き剥がされる。
それに比例して、もっともっと綱は強くなる。

その果ては誠意が尽きた死となってしまうのだが・・








脆くて臆病な愛の裏返しが、本物の強さ変わるために必要なものは
手に入らないという不可能 なのだということに目を開かされた。


そして、その嫌気の刺すほどの 潔白さ 不器用さ 巧みさ
を懐かしいと思った。