これまでサウジアラビアの様々な事情を書いてきたが、やや硬い文章が続いてしまったので今日はサウジアラビアでよく飲まれるコーヒー「カフワ・アラビーヤ」とドライフルーツの「デーツ」について紹介しよう。

「カフワ・アラビーヤ」はサウジアラビアのみならず、アラブ諸国でよく飲まれるコーヒーのことである。中東を旅行したことのある人であれば一度は口にされたことがあるかもしれない。カフワを飲んだことのある人の感想はほぼ間違いなく「え?これがコーヒー?」というものだろう。普段我々が親しんでいるコーヒーとは全く異なる味わいである。しかし強調しておきたいのは、カフワ・アラビーヤこそが本来のコーヒーであり、我々が現在親しんでいるコーヒーはカフワが改良されたものに過ぎないということである。

意外なことに「カフワ」とは元々「ワイン」を意味するそうだ。コーヒーの実は食用することができ、発酵させるとワインのようになり、乾燥させ焙煎を行うとコーヒーになるのだという。ワインが食欲を減退させる効果があるのに対して、コーヒーは眠気を減退させる効果があるとして重用されてきた。アラブにおいてはイスラム教普及後はコーランの教えに基づいてアルコールが禁止されたため、コーヒーの方が普及したとのことである。もっともコーランにおいては炭の食用が禁止されていることから、焙煎を施したコーヒーの引用についても議論があり、1511年にはメッカ総督のカイル・ベイが「大衆を堕落させる飲み物」としてコーヒー禁止令を出すという「メッカ事件」が起こっている。

私が常飲しているカフワ・アラビーヤの豆は写真のとおりである。普通のコーヒーと比べると焙煎がほとんどされていないことが色からもうかがえる。カフワ専門店や遊牧民のベドウィンなどは豆を壺のようなものに入れて棒でリズミカルに叩き潰すという。Youtubeにはこの豆を叩き潰すシーンがアップされている。

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イブリークという片手鍋に粉末状になったカフワを入れ、お好みでカルダモンを加え、常温の水を注いで火にかける。(写真はトルココーヒーを入れた時のものを使用)。沸騰を何度か繰り返して出来上がりである。

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アラブではカフワ専用のポットがあり、これで淹れると雰囲気が出る。写真ではマグカップになってしまっているが、通常はおちょこのような器に少量を注ぐ。この時にコップは右手で渡し、右手で受け取るのが礼儀である。

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お茶うけとしてはデーツ(ナツメヤシ)が一般的である。通常のスーパーなどでも売られているが、庭付きの一軒家の場合はナツメヤシの木が植えられており自宅で作るという人も少なくないという。デーツはイスラム教において申請な食べ物とされ、アダムとイブが食べた禁断の果実であり、イーサー(イエス)を身ごもったマルヤム(マリア)が神に勧められて食べた果実とされる。

余談だが、ラマダンの際の日没後のイフタール(断食明けの夕食)で多くの人が最初に口にするのがデーツである。栄養価も高く、甘いことから、短時間で血糖値を上げて空腹を紛らわすのに丁度良いとされる。私はラマダンの時期にジェッダの空港を利用したことがあるが、日没になるとムスリムたちは水とデーツを取り出して口に含み始める。デーツをたくさん持っている人が周りの人たちに振る舞うという光景も見られた。デーツは種を含んでいるため、食べ終わると種をペッと吐き捨てて空港の床が種だらけになるという光景も見られた。

私のお気に入りはBateelというブランドで、日本の友人へのおみやげもこのブランドのものを使用している。デーツは種類が多く、独特の味であることから好き嫌いが分かれやすいのだが、Bateelのものは安定して高い評価を得ることができるためだ。

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カフワとデーツの相性は抜群で、中東系の航空会社ではカフワとデーツをサービスするという会社もある。私が初めてカフワを飲んだのは赴任の際で、ドーハ~ジェッダ間のカタール航空の機内である。私の経験上、今のところ最も美味しいと思うカフワはカタール航空の機内サービスである。カタール航空で供されるデーツも私のお気に入りのBateelである。(なお、私が利用したドーハ~ジェッダ間はファーストクラスであるため、エコノミークラスでカフワのサービスが供されるかは不明である)。

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アラブ人からカフワ・アラビーヤでもてなしを受けることは最大の名誉である。イスラム教においてはお酒を飲む風習が無いため、カフワを共にするということは日本でいうところの「盃を交わす」という意味に近く、相手と友好的な関係を築きたいという気持ちの表れである。私はラマダンの際のイフタールでカフワをご一緒しながらイスラム教の歴史について教えてもらったことがあるが、これは何とも言えない贅沢な時間であった。