Now this is not the end. It is not even the beginning of the end. But it is, perhaps, the end of the beginning.(by Sir Winston Lenard-Spenser Churchill)
(今は終わりではない。これは終わりの始まりですらない。しかしあるいは、始まりの終わりかもしれない)。

アメリカの大統領の就任後100日間は「ハネムーン」と称される。この100日間の取り組みについてはマスコミも議会も批判的な姿勢を取ることや性急な評価を避ける傾向にある。私のサウジアラビアへの赴任に際して、このエピソードを知る友人は、「最初の3ヶ月間がとにかく大切」ということを強調していた。このエピソードもあり、最初の100日間で一緒に仕事をする人の「信頼の基礎」を築くことを目標としている。

サウジに赴任してから早いものでこのハネムーンの半分にあたる1ヶ月半が経過した。この間様々な仕事をする機会に恵まれたが、昨日1つの大きな仕事を完結することができた。この仕事の完結に至るまでに色々と失敗をしつつも、本当に様々な人にお世話になった。「ブックラー!インシュアラー!!」(「明日、明日。できるかどうかなんて神の思し召し次第だよ」の意味)を連発しつつも、翌日にはきちんとこちらの要望通りの書類を完結してくれた。

「アラブ人はいい加減」などという人がいるけど、幸運なことに少なくとも自分がこの1ヶ月半で一緒に仕事をしたアラブ人に関してはそんなことはない。期限を守らないことはあるけれども、大幅に期限を遅らせたり、仕事に全く手を付けないということはない。日本人の中に仕事がいい加減な人間が存在することを考えると、「仕事をやる人はやるけど、やらない人はやらない」という結論に落ち着く。決して性善説を信奉しているわけではないけど、仕事において「信頼」とか「信用」という概念はどこの国であってもある程度大切なのだと思った。

この1ヶ月半の間、とにかく重視したのは日本人であろうがアラブ人であろうが、それ以外であろうがコミュニケーションをしっかりととることと、人を「見る」ことと「知る」ことであった。コミュニケーションについては言葉の壁がありつつも、わからないことは何度も何度も聞いたり、場合によっては紙に書かせることで認識が間違っていないかを何度も確認した。手間のかかることだが、幸運なことにこれを嫌がる人がいなかった。このことがおそらく信頼関係を少し構築できた秘訣だと思う。最初の1ヶ月半でこの「信頼関係」を築けたことは今後の業務に好循環をもたらすのではないかと思っている。

もっとも「信頼」や「信用」だけで仕事が円滑にできるわけではないという点には十分留意しておく必要がある。サウジアラビアも基本的には契約社会であり、定められた手続や契約にないことは一切受け付けられない。個人的な関係がどれだけ強固であったとしても、自らの業務範疇に含まれないことに対しては"It's none of my business."という態度を貫く。仕事の根本にあるのはやはり手続や契約であり、この手続や契約を補完するものが「信頼」や「信用」なのであると思う。手続や契約というものをしっかりと理解した上で、「信頼」と「信用」を構築すれば仕事は円滑に進むのだと思う。

私の場合、表立っては「信頼」と「信用」の構築に力を入れていたけど、裏では手続や契約、ビジネスの仕組を学んでゆくというスタイルをとっている。信義の面と手続・契約の面の両方をバランスよく押さえられるようになった時、非常に仕事をやりやすくなるのではないだろうか。

さて、昨日まで取り組んでいた仕事は本当に「始まりの始まり」に過ぎない。赴任後1ヶ月半で「始まりの始まり」までこぎつけられたのは御の字であると思う。これから先、赴任者を完全に赴任させてセットアップを完了することが「始まりの終わり」であると思っている。昨日「始まりの始まり」が終わったことはすなわち「始まりの終わり」が始まることを意味する。「始まりの始まり」で築けた財産をきちんと生かして走り続けるしかない。