週末に読んで感銘を受けた1冊が、慎泰俊の『未来が変わる働き方』。

未来が変わる働き方 (U25 SURVIVAL MANUAL SERIES)/ディスカヴァー・トゥエンティワン

¥1,260
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著者はバイアウトファンドの投資を手がけながら、2007年にはNPO Living in Peaceを立ち上げ、マイクロファイナンスを通じた貧困削減活動をパートタイムで行なっている。本書では、本業とパートタイムの二軸で活動する様が非常にわかり易い文章で簡潔に書かれている。

タイトルは『未来が変わる働き方』となっているが、表紙に一際大きく書かれた"TAKE ACTION"こそが本書の本当のタイトルであり、著者が読者に対して最も伝えたいキーワードであると思う。この"TAKE ACTION"を、より詳しくしているのが裏表紙に書かれたメッセージだろう。

1人の100の行動より、100人の1つずつの行動によって、世の中は、ゆっくりと、でも確実に変わってゆく。誰にだって、世界をよりよいものにする力がある。まずは自ら行動を起こすこと。

著者がこれまでのベンチャー起業家や社会起業家と決定的に異なるのは、社会貢献活動があくまで「本業」ではなく、「パートタイム」にとどまっている点だ。「本業」でのパフォーマンスも発揮しつつ、「パートタイム」という、本業よりも明らかに制約された時間の中で行う社会貢献活動においてもしっかりとパフォーマンスを出せるように、様々な努力を行なっている様がひしひしと伝わってくる。

PART 1の準備編においては、著者の「志」と、その「志」を立てる上での原体験が掘り下げられている。何か「活動」をするにあたっては、その「活動」の動機となる原体験ともいうべきものが存在する。この原体験は、自分が生まれてから現在に至るまで、どのような環境で育ち、どのような人間と出会い、どのようなことを学び、経験してきたのかということに大きく左右されるのだと思う。著者はこの原体験を深く掘り下げ、方向づけを行う必要性を説いている。

もしかしたら「精神論」と思われてしまうかもしれないが、パートタイム活動において非常に重要なのはこの深く掘り下げられた「原体験」と、自分なりに確立した「志」にあると思う。本業のような報酬という、「合理的」なインセンティヴが発生しないことを考えると、「活動」を行うための「活力」の源泉は、各自の「志」によるところが非常に大きいと思うのだ。

著者は活動を始めるにあたって自らの「揺るぎない志」を立てることはもちろん、その「初志」を忘れないための「志のメンテナンス」とも言うべき時間もしっかりと作っているように思える。

PART 2の実践編においては、パートタイム活動の組織を実際にどう運営してゆくのかという点が書かれている。時間のつくり方、仲間のつくり方、組織のつくり方について触れている。

私が特に興味をいだいたのが仲間のつくり方である。著者は自ら「揺るぎない志」を立てるのみならず、この「志」を他者に共感させ、著者に共感した人材がコア・メンバーとして「活動」を共にしている。この「志」の共有を図り、集まってきたメンバーそれぞれが主体的に考えてゆくことで、組織として「正のスパイラル」を創り出すことに成功していると思う。

読者によっては本書を単なる「自己啓発書」や「ビジネス書」と位置づける人もいるかもしれないが、私にとって本書は単なる「自己啓発書」だとは思えない。むしろ、自分がこれからthink Politics ! やそれ以外の「活動」を展開してゆく上で、大げさに言ってしまえば「バイブル」にもなりうる本のひとつだと思う。

本書を読んだのがちょうどハンナ・アレントの『人間の条件』の後であったという点も、私にとっては本書の価値を非常に高めるものとなっている。著者の行なっている、Living in Peaceは、アレントの言うところの「活動」に近いものであると私は位置づけている。

アレントは「労働」、「仕事」、「活動」という3つの「活動的生活」の中で、「活動」を最も重視していると私は認識しているが、現代社会においては「活動」のみに集中できる人間というのは少数派である。多くの人間は「労働」ないし「仕事」に大部分の時間を割かなければ生きてゆくことができないだろう。その中で、いかに「活動」を行う機会と時間を確保するかが、現代人の課題なのではないかと私は考えている。著者は、「本業」という「労働」の存在を認めつつ、LIPという「活動」の機会と時間を創り出しているという点が、私にとっては非常に興味深かった。

LIPの具体的な活動内容がマイクロファイナンスであることを考えると、私がこの活動に具体的に参加をするということはおそらくないかもしれない。しかし、慎泰俊さんの"TAKE ACTION"という考え方には大いに賛同するし、この考え方を自分の力が発揮できる領域に積極的に発揮して行きたいと思った。

実はこの本は、いつもお世話になっているFInancial Education & Design(FED)の事務局長に紹介していただいた。FEDの設立自体も慎泰俊さんの影響を強く受けているとのことだが、think Politics ! の立ち上げのきっかけがFEDにあったことを考えると、血統的にはthink Politics ! も慎泰俊さんの影響を受けているということになるだろう。think Politics ! はLIPやFEDと比べればまだまだひよっこのようなものだけど、少しでも世の中の役に立てればと思っている。

先日も「素敵な触媒」において書いた通り、私が「活動」的であろう考えるようになったきっかけには、友人の「動かなきゃダメだ!」という一言にある。本書のメインテーマである"TAKE ACTION"と全く同じなのである。そういう意味では、本書もまた私にとっては「素敵な触媒」なのである。