梅雨が開けた空は、太陽が影まであばきそうな眩しさを放っている。 容赦ない直射日光に焼け尽くされるんじゃないかと、木陰に逃げる。 まだ湿った土が隠れている。

 僕の心は彼女に捕まった。 

 思いが離れない。

 敵不在の夢をみる。

 僕は彼女が泣くようなことはしない。 僕が彼女を思ってると知って、泣いて欲しいけど。 僕たちがうまくいったら、幸せ過ぎて泣くかもしれない。 

 バカげた思いを否定しても、僕はまた彼女を捜している。

 僕のものになんかになりはしないけど、僕のものだ。

 この状況で捕まっていられるのは、僕しかいない。

 止まらない自分の気持ちに驚き、夢だと知らされる。 誰にも話さないが、話さなければ、自分しか知らずに終わってしまう、この夢。

 乾燥した土の痛さを感じる夏の盛り、八月十五日の聖母の昇天日の月当番のミサの片付けを終え、最後に教会を出る。 もう紫陽花は花の姿はなく、大きな緑の葉がツヤツヤと陽に照らされている。

 白い軽自動車が一台、ローズピンクのロザリオがルームミラーにぐるぐる巻きにされている。 後ろにはピンクのタオルが置いてあるチャイルドシート。 教会の松の木陰に移動され、四方のドアが少し開けてあった。

 うすい水色のワンピースを着た彼女がそばに立って、子どもを見ていた。 僕の車はがんがんに陽に照らされている。 

 「こんにちは、まだ帰らないの?」

僕は声をかけた。

 「こんにちは、まだあつくって。」

女の子は木陰の下、木を渡り歩く鳥のように動いている。

 「いそいで帰らなきゃいけないようじもないし。」

今日はお盆の帰省やなにやらで、おばさんたちはそそくさと帰ってしまい、僕が最後になったのだ。

 「ブラジルは遠いもんね。」

 「そう、かんたんには帰れない、遠いから。」 

 彼女はひとりで立っていた。

 照りつける太陽に負けないかように鳴く蝉の声が、耳の中で揺れ、体の底に落ちていく。 今この時に生きて、繁殖し、命をつなぎ留める、蝉の声。

 あいつがいなければ。

 目の前を落ち、最後まで羽ばたきを止めない蝉。

 「じゃあ。」

 僕は先に、黒いからより一層暑い、灼熱地獄の車を走らせた。  開けた窓から入る風に、救われながら、拾われながら。

 


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