昨夜の話。
とある居酒屋で父親の古い友人女性と父親と僕の3人でお酒を飲んでいた。
会場となっているそこのお店はというと、千歳烏山から徒歩0分で僕の人生を救ってくれた恩師が一人で営んでいる居酒屋である。
カウンター9席でオープンキッチン。
店主とお客さんの距離が近く尚且つ店主の饒舌なトーク力によってそこにいるお客さんは光陰矢の如しスピードで打ち解けあい、一人一人の悩みをみんなで共有し、笑い合う。
人間は一人じゃない。そんな空論めいた綺麗事など一笑に付してきた捻くれ者さえも、ここでは時間を忘れ、一つのWAとなり、V6となるのだ。
そんな素敵なお店で、楽しく飲んでいた時である。
パリーーーーン!!!!!!
何かが割れた。
それはもう至って明確に。
でもどこで何が割れたのかはその場では判断がつかなかった。というよりあまり思考したくなかったと言った方が的を得ている。
それは誰かが意図的に割ったというのがその鮮やかなガラス音によってわかってしまったからだ。
この楽しい空間で不穏な空気を感じ取るのを無意識に避けていたのかもしれない。
これは事故ではない事件だ。
皆がそう実感した時、カウンターの一番左端に途轍もなく大きい何かを感じた。
それは動物でもなく憑き物的なものでもない。
もっと決定的で原始的なパワーを持つものである。
そう、酒乱女だ。
いや正確にいうと酒乱ばばぁだ。
酒乱ばばぁが醤油瓶を店主に向かって投げたんだ。
我々は気狂いのババァが暴れているという事実を飲み込むのに少しばかり時間がかかった。
厨房には帯びたしい量の醤油が床の溝を伝って移動しているのが見えた。
それはノルマンディー上陸作戦時、両軍の凄まじい攻防戦によって血の海と化したオマハビーチを彷彿させるほどに。
一瞬店主がトムハンクスに見えてしまったのはプライベートライアンの見過ぎだろうか。
恐怖を感じた私は、
酒乱ババァの周りから割れ物を余すことなく取り除いた。
すると、女はなぜか一瞬落ち着いた。
羽を失った鳥のように。
安堵する私。
まぁ一時的なものかと目の前のジョッキに手を差し伸べようとしたその時、何か光線のような赤い線が僕の前を通過した。
そう、酒乱ババァが鬼のような形相で父親を睨みつけていたのだ。
それはギャグマンガ日和でうさみちゃんがくま吉の犯罪行為を見つけてしまったときのあの表情に似ていた。
バチバチと稲妻に覆われた真っ黒で分厚い雨雲が
僕らの上に集まってくるのがわかった。
「私の悪口を言ったら許さない…。」
酒乱ババァはそう呟き、父親の元へ走っていった。
やけに冷静沈着な父親に腹を立てたのだろう。
それはもう恐るべき殺気だった。
気づくと父親は髪を引っ張られていた。
しかも根元からいくタイプのやばいやつである。
どれだけ力を振り絞っても抜けない雑草を抜くときのアレである。
女相手だから下手に手を出せないでいる父親をいい事にその掴んでいる髪の毛を取っ手にして思いっきり顔面に蹴りをかます酒乱ババァ。
さすがに身の危険を感じた父親が体制を整えようと少し重心を前に持っていったその時、酒乱ババァは父親のわき腹に噛み付いた。というより喰いついた。それはもう、骨つき肉を無心でほうばるルフィのように。
なんだ。お腹が減って苛々してただけなのか。
そう思った店主がお好み焼きの下ごしらえを始めようとした辺りで父親が酒乱ババァを引き剥がし、口におしぼりを詰めた。
父親はいった。
「ふざけんな!!!日曜日ライザップの大会に出んだよ!何してくれてんだ!」
万物の霊長の奢りによって新たに乳首が追加された父親のボディはマイナス点となるのかはたまたプラス点となるのか。
それはもう、最高に見ものである。
おしまい。
※酒乱ババァは警察に連行されて、居酒屋にはいつも通り平和な時間が訪れました。

