あいつのラジオ | 怖い話 総本山 ダイスケワールド

あいつのラジオ

学生時代の話なんだけどね。
夏休みにさぁ 友達何人かで登山に行こうって話しになったんだ。
 なんで登山だったのかわかんないんだけどね。
ノリだよねぇ、きっと。 登山なんかしたことないんだから(笑)
 
 夏だから大丈夫だろうって、かなりナメてかかってたんだ。 もの凄い軽装でさ。 登山家が見たら怒りそうな モロ普段着なの(笑)
 でも、なんとなくそれっぽいっていうか、リュックかなんかしょって、地図だのお菓子だのを詰めて4人で出かけたんだ。
 そしたらさぁ、思った以上に大変でさぁ、山頂に着いたらもう夕方になっちゃってね。 途中で引き返そうかって話しも出てたんだけど みんな意地になっててさ。結局薄暗くなった頃に頂上に着いたんだ。

まぁ、目的は達成したんで 下山しようという事になったんだけど 案の定途中で日が暮れてしまってね。
おまけに「山の天気は変わりやすい」の言葉通り、空が真っ黒に曇ってきたんだ。
 そのうち完全に陽が落ちてしまって、おまけにポツポツと雨降ってきちゃってさ、真っ暗になっちゃったんだよ。
 もともとこんな時間になるとは思ってなかったんで 懐中電灯なんてものは誰も持ってきてないんだ。
真っ暗の中 とりあえず降りて行こうということでトボトボと歩いていったんだ。
 しばらく歩いてて、みんながみんな思ってたらしいんだけど どうも来た道と違う所を下ってるみたいなんだよね。
不安になるから誰も口に出さなかったんだ。
 というか みんな疲れて口を開くのもかったるいってカンジだったのかもしれない。
そのうち雨がだいぶ強くなって来てさ、ヤバイだろって事になった時、まさにドラマのような展開なんだけど、山小屋を発見したんだよ。
山小屋っていっても なんか小さなプレハブみたいなカンジで人が住むようなものじゃなかったんだけど、とりあえず雨がやむまで休もうかという事になったんだ。
みんなクタクタだったしね。

時間は夜9時を回ってた‥‥
さすがに腹減ったね。歩きっぱなしだし。
お菓子くらいしか持って来なかったから そんなのはとっくに食べちゃったし。
こんな事になるとわかってたらとっておいたんだけどね。
みんな無言で座りこんだ。 今 自分達がどの辺りにいるのか全くわからないってのは スゲー不安になるんだよね。
みんな同じ気持ちだったと思う。
小屋の中は 何にも無くて 屋根がトタンだから雨音が余計に耳を突く。
かなりの雨が降ってるみたいだった。
今思えば 夏だったからよかったけどね 冬なら死ぬね。
よくよく考えれば おとなしく明るくなるか 雨が止むのを待ってればよかったんだけどね。
実際 その状況の下にいると 居ても立ってもいられない気持ちになるんだよね。
遭難 衰弱 餓死 そんな事が頭をよぎるんだ。

そんな中で 1番セッカチなA君が スッと立ち上がったんだ

「俺、ちょっと様子見てくるわ。みんな疲れてるだろ?俺は割と元気だから。」って‥‥

そう言いながらA君はリュックの中からラジオを取り出した。

「気晴らしにこれでも聞いてろよ。もしかしたら俺達の遭難がニュースで流れるかもしれないぜ(笑)」
そう言うと みんなの反応も見ずに サーッと小屋から出て行った。


A君って そういう奴なんだ(笑)
変にリーダーシップを取りたがって、思い立ったら後先考えず行動しちゃうタイプ(笑)

俺はラジオのスイッチを入れながらこう独り言を言った。
「Aらしいな(笑)
雨もひどいし、すぐ帰って来るだろ‥‥」

暗闇だから 他の友達の顔は見えなかったんだけど 「クククッ」っていう みんなの呆れたような笑いが聞こえたんで みんな同じ事思ってたんだろう。

ラジオからは下らないDJが下らない話をしていた。 遭難のニュースなんか流れてはこなかった‥

みんな する事なんか無いから聞きたくもないラジオに聴き入っていたんだ。

どれくらい時間が経ったんだろう。 A君が帰って来ないんだ。
みんな不安に思ってたと思う。
でも 疲れて動けないんだ。そして あまりの疲れで逆に目が冴えちゃって眠る事もできない。

「A、大丈夫かなぁ‥」
一人がつぶやいた。

その直後だった。
ラジオがいきなり ガガガーっと鳴り出した。
正確には 今まで聞いていた番組が聞こえなくなったってカンジか?

ジジジーって音しか聞こえなくなったんだ。

「なんだ?壊れたのか?雨に濡れちゃってたからなぁ」

一人がそう言ってラジオの電を消そうとしたんだ。

その 消す瞬間、ラジオのジジジって音の中から 微かに、だけど確かに、A君の声が聞こえたんだ。

「もう大丈夫だ」

あれっ? と思った時にはラジオのスイッチは切られていた。

「おい、今ラジオからAの声しなかったか?」
俺はみんなに聞いたけど みんなは聞こえなかったらしいんだ。
「絶対Aの声したって!」
俺がムキになってみんなに食ってかかるのを遮るように 一人が声を上げだ。
「雨の音、しなくなったな!」
二人ともAの声なんか どうでもいいと言わんばかりに外に飛び出して行った。
そして外に出た途端 二人して大声をだしたんだ
「うわっ! ちょっと来てみろよ!」
俺は なんだなんだと思いながら小屋の外に出た。
「うわっ」俺も 思わず声を出した。

さっきまで真っ暗だった空には雲ひとつ無く おっきな月が、ものすごくおっきな月が出ていた。
山の上だからだろうか?こんなに月が大きく見えたのは初めてだった。
そして異様に眩しい光りを放っている‥‥
その大きな月の月明かりは木々の間から山道を照らし出した。
さっきの真っ暗の雨の中では全くわからなかった道を‥‥
俺には その月明かりは 道だけに落ちてきているように見えた。
俺達は月明かりに案内されるように下山していった。 その道が合っているかもわからないのに妙な確信みたいな物が俺達の足を動かした。
俺は Aが案内してくれている道だ という気がしてならなかった。

1、2時間歩いたと思う。遠くに明かりが見えたんだ。
嬉しかったねぇ。
みんなクタクタだったはずなのに 自然と早足になっていった。
そしてついに山裾の国道にたどり着いたんだ。

「Aもきっと ここまで降りて町に戻ったんだろう」
俺達は勝手な解釈をして国道沿いを歩き町に出た。

町に着いた頃には もう 昼間だった。

「Aはもう、家に着いたかなぁ」
さすがに みんな自分達の安全が確保されたんで A君の事を気にしだした。

そしてA君の家に電話してみようって事になったんだ。
今だったら携帯で直接本人にかけるんだけどね。
当時はまだ 携帯なんて無かったからさ(笑)


A君の家に電話をすると お母さんが出た。
A君のお母さんってのはすごく明るい人なんだけど この時はひどく暗い声だった。

俺は ある想像が頭をよぎった。

あれ? Aは まだ家に着いていないんじゃないか?
お母さんの この疲れ切った暗い声は 息子の帰りを一晩中待ってたからなのかも‥‥ 俺達はA君を山に置いて来てしまったのか!

俺は 大事な息子さんを置いて来てしまったかもしれないという 後ろめたさから 言葉に詰まりながらも Aのお母さんに話しかけた。

「おばさん、僕ら登山に行ってたんですが‥‥」

そこまで言うと お母さんはすすり泣きながらこう言ったんだ‥‥


「えぇ、あの子も みなさんと登山に行くのを楽しみにしてたんですよ‥‥
なのに 前日に事故に合うなんて‥‥」

そう言って電話ごしに泣き崩れたんだ。


「えっ?」
俺は呆然として言葉が出なかった

A君は 登山の前日に事故にあったらしいんだ。
お母さんの話によると前日にA君は山の天気は変わりやすいから 地元の天気情報がわかるようにって 電気店にラジオを買いに行った帰りに車にはねられたんだって‥
即死だったらしいんだけど ラジオの入った袋は最後まで手にしっかり握っていたって‥‥‥


つい何時間か前まで 俺達はA君と一緒に居たんだよ。
みんなで登山して みんなで山小屋に入って‥‥
でも A君は前日に亡くなっていた‥‥‥

いくら冷静に考えても考えても 訳がわからなくなるばかりだった。


確かに A君は俺達と登山に行きたかったんだろう。
誰よりも楽しみにしてたA君だから 霊体になって俺達と登山に来たとしても なんら不思議じゃない‥‥‥

でもね‥‥ このラジオは何なの? あるんだよここに‥‥

いまだにこのラジオ 俺の家にあるんだよ‥
A君の形見 と言っていいんだろうか?
あの日以来 俺は怖くてスイッチを入れた事がないんだ‥‥‥



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