人間は皆生まれながらに罪人だと宣言する恐ろしい神でもない。
ただ土地の人々のそばに寄り添い、見守るだけの存在だ。
たとえ目には見えなくても、
人とともにあり
人とともに暮らす身近な存在だ。
この国の人々にとって、神は人の心を照らす灯台だ。
もとより灯台が船の目的地を決めてくれるわけではない。
航路を決めるのは人間だし、船を動かすのも人間だ。
何が正しくて何が間違っているのか、灯台は一言も語らない。
静まり返った広大な海で、人は自ら風を読み、星に問い、航路を切り開くしかない。
絶対的な神の声がない以上、船はしばしば迷い、傷つき、時には余人の船と衝突することもある。
しかし絶対的な教えがないからこそ、船人たちは自分の船を止め、他者と語り合うこともできたのだ。
だからこの国々の人々は聖書も十戒も必要としないまま、道徳心や倫理観を育んでこられたのだ。
晴れた昼間の航路なら灯台に頼ることもない。
しかし海が荒れ、船が傷ついた夜には、そのささやかな灯が、休むべき港の在処を教えてくれる。
己の船が航路を誤っていないか、
領分を越えて他者の海に迷い込んでいないか、
そのことは、寄ってきたる港を振り返りさえすれば、灯台の火が教えてくれる。
船が今どこにいるのか、
どれほど港と離れているか、
人はささやかな灯を見て航路を改め、再び帆を張ることになる。
目に映ることだけが全てだと考える世界はとてもシンプルで即物的だ。
そういう世界では自分より弱い者を倒すことは理にかなった生き方になるのかもしれない。
つまり勝てばいいのだから。
世の中には目には見えないものがある。
理屈の通らない出来事がある。
どうしようもなく不思議な偶然がある。
そういう感じ方が、自分が生きている世界に対する畏敬や畏怖や感謝の念につながる。
この国の人々はそうして神とともに生きてきた。
この地の神とはそういう存在だったのだ。
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夏川草介「始まりの木」より抜粋、
多少アレンジしました。
美容院の雑誌にちらっと載っていたこの本が気になって、
その直感、そのタイミングに従って手に入れて読んでみたのですが…
年明けに神社へ行く前に
この国の「神」の存在について
改めて考えるように…
というメッセージだと感じたのでシェアしておきます。
(本としては、出てくる教授のイヤミと毒舌に辟易もしますが最終的にほっこりしじんわり感動する楽しい小説、という感じです。)
自分が生きている世界に対する畏敬や畏怖や感謝の念
これね、心に留めて新しい年を迎えたいと思います。
今回こそ今年最後の記事!
最後までお読みいただきありがとうございました!
みなさんが幸多き素晴らしい新年を迎えられますように🌈✨