ものすごく楽しみにしていたビッグ・イベント。

漫画家の浦沢直樹さんと、脳科学者の茂木健一郎先生の対談があった。

題して、「マンガの神様はどこにいる!?-脳と創造性-」。

浦沢直樹さんは、『YAWARA』『Happy!』『MONSTER』『PLUTO』『20世紀少年』

など数々の大ヒット漫画を手がけた漫画界の至宝である。

一方の茂木健一郎先生は、脳科学者として日本で一番有名なのではあるまいか。

茂木先生が小走りで登場し、遅れて浦沢さんがノソノソと現れた。
浦沢さんの感覚を茂木先生が脳科学的に解釈するという主旨で対談が進んでいった。

まず、浦沢さんの作品が悪夢に似ているというところから話が始まった。
それは、浦沢さんが幼少期によく熱にうなされながら見た夢が原因になっているようだ。

ニーチェの晩年の作品が悪夢的であるところに話が及び、両者の共通点が語られた。

続いて、浦沢さんの思考の話になる。
ネームのままの方が浦沢さんの感情を伝えることができるが、クオリティは落ちてしまう。
そのジレンマをどのように解決するか。

無意識の思考の速さについていける身体運動を持ち合わせていない人間であるが、

浦沢さんはそれについていこうとしているのではあるまいか。

脳と右手が直接につながり、モードをガチャンと切り替えると、フロー状態のようなトランスに陥るようだ。
その時、「マンガの神様、降りてきて下さい」と願う。
そのモードに切り換えるのは、すごく嫌なんだそうだ。

ネームを書き終えると、泣き終わったように疲れが出て、途端に不機嫌になるという。
それは宮崎駿さんも一緒なんだそうだ。
そこらへんに浦沢さんの思考の謎を解く鍵が隠されているような気がしてならない。

浦沢さんは、何か問題が生じて1日中考えていると、やがて意識か無意識か分からない境界にいる状態に陥るという。
その眠りに近い状態から目覚めると、問題が解決するという不思議な体験を繰り返しているのだという。


感動したのは、浦沢さんが絵を描いているところを間近で見られたことだ。
ボブ・ディラン、水の流れ、木漏れ日、バラ、アトム、サイボーグ009、ブラックジャック、

Dr.テンマをほんの数秒で描いていく浦沢さんのペンさばきは、超絶技巧であった。

そして、「自然界にはない線だけど、その線があると自然っぽく見える線を引くことがマンガである」と語った。

鳥肌が立つくらいの感動を覚えた。

そんなこんなで、あっという間の2時間であり、至福の一時であった。
恐怖感が仕事に駆り立てるという浦沢さんのモチベーションを見て、なんて人間臭いのだろうと好感が持てた。