星新一さんはSFショートショートという新しい小説のジャンルを確立されました。
サイエンス・フィクション(SF)ですが、最後に“オチ”や“どんでん返し”など意外な展開があります。知的な未来落語ともいえます。
筒井康隆さんも同じSFショートショートの人気作家です。
『いじわるな星』(星新一)〈「ちぐはぐな部品」という短編集に収められいる最初の物語です〉
宇宙パトロール隊が見つけたのは海も森も山もある、自然豊かな“ジフ星”。
人口過剰気味な地球にとってそれは最高の別荘地ともいえる星だった。
ジフ星の調査、基地建設のために第一次宇宙船を向かわせる。
ジフ星についてみると、誰もいないはずの星に美味しそうな料理が現れる。
単調な宇宙食ばかりだった隊員たちはぱっとその料理に飛びつくのだが、幻となって消えていく。その幻影は隊員が基地を立てようとするたびに現れて隊員たちをノイローゼにする。
第二次宇宙船は反省を踏まえて最高のコックを同伴させるのだが、とびきりの美女が幻影となって現れる。触れたいのに触れられないことが隊員たちをまたノイローゼにする。
第3次宇宙船は、さらに反省を踏まえ、美女を同行させるのだが、今度現れたのは女性の大好きな宝石、化粧品。女性たちをなだめるのにつきっきりになり、基地建設どころではない。
第4次宇宙船はありとあらゆるぜいたく品、遊び道具が積み込まれこれで基地建設に集中できると思っていたが、ジフ星についてみると灰色っぽい岩が単調に続く地面がひろがるばかりだった。
この話を読んで最初に、希望を一気に奈落の底へ落とされたかのようななんとも言えない喪失感を感じました。要は、最初から何もなかったのです。ジフ星にはどんな良いものがあるのだろうと期待させるだけ期待させて、最後に、期待するようなものは最初からありませんでした、と種明かしされたことはマジックみたいだと感じました。な~んだ、そんなことだったのか、というような感じです。
また、届きそうで届かないということはかなりフラストレーションがたまるなと、しみじみ感じました(笑)
お菓子がなかったら食べたいと思わないのに、お菓子があったら食べたくなる。
だから、お菓子食べたいと思ってなくてもお菓子を兄弟に食べられるとむかっとする。
そういう話だったと思います(笑)
話の背景としては宇宙を題材とした壮大なものだけど、でも実は私たちの身の回りで起こることでもあるお話。だから、読者は自分とはかけ離れたものだとは思わずに、どっぷりとこの話に入り込んでしまうのだろうと思いました。
砂漠の蜃気楼みたいなものですね。
星新一さん・作品ベスト10