読後 | chega-de-saudade!

読後

書店の夏の風物詩とも言える「新潮文庫の100冊」フェア特設コーナーにおいて目にした一冊の文庫本。


…その本の作者は、何年か前に新聞の書評欄で作品が紹介されているのを目にして以来、気になっていたものの、何故か買いそびれていた人だった。



私は、そこにある本の作者名を見つけるや否や、かつて目にした書評欄の作品とは全く別の作品であるにも関わらず、何の迷いもなく購入していた。



…帰宅し、初めて手するこの作者の本をおもむろに読み始める。



全部で6本の短編作品から構成されるその本は、年齢を重ねる度に人擦れしていった私の心にグッと「切なさ」を伝えて来た。


…しかし、その「切なさ」は、読む者を悲観的にさせる切なさではなく、どれも作者の情愛が文章の行間から伝わって来る

「温かみを持った切なさ」

なのである。



…………!


話を読み進めながら私は感じた事があった。


…それは、


「この作者は、人間関係における人の弱さや悲しみを本当に知っている人だ!。
…だからこそ絶望的でなく慈みあふれる切なさで作品を仕上げているのだ!!。」


である。




…実際に人間関係で悲しい思いを味わった人でなければ知り得ない事がある。
昨今のニュースで問題となっているイジメだってそうだ。

その悲しさを作者は(きっと)知っているからこそ、読む者を一方的に悲しみの谷間に落とし込むような事をせずに、慈愛のある切なさで作品を仕上げていると感じられるのだ。



…大手デパート社員の娘が転校先の小学校で仲良くなった友達は、父の商売敵である「ちどりや」デパートの娘であり、その出会いと別れを描いた巻頭作


「いいものあげる」


から始まるこの本には、小学生から大人まで様々な人が主人公となって登場する。

そして、それぞれの年代で味わう悲しみが、作者独自の温かさに裏打ちされた文体でゆっくりと描かれていき、作者の「仕掛け」に読む者全てが驚きを隠せずにはいられない最終作


「再会」


まで、私はノンストップで読み続けていた。



それだけ夢中になった理由については、あえて語らない…。
実際にこの本を手にして読んで頂ければ、その理由が解ると思うからだ。



…なお、稚拙な私の文章では、この本の魅力が五分の一も伝わっていないと思うので、あえてこの本の帯カバーに書かれていた言葉を引用させてもらい、私の書評を〆させて頂く。



どんなに運が悪くても。
悲しいことばかりでも。

「うまくいかない人生」を愛おしく見つめる全6編



…この本のテイストは、皆さんに伝わったであろうか?。


会社や学校で辛い事があった時・人間関係で辛い思いをした時にこそ読んで頂きたい「絶対に手放したくない一冊」です!。


重松清 著
「ロング・ロング・アゴー」
新潮文庫・定価590円(税別)




(注):かつて目にした書評欄の作品


「流星ワゴン」の事である。