この世を受け継ぐ者

第二次世界大戦後から1980年代にかけて、世界は冷戦の下にあった。
アメリカを中心とする自由主義諸国と、旧ソ連を中心とする共産圏が、激しい軍備競争を続ける緊張感の中で、人々は暮らさざるを得なかったのだ。ところが、1989年11月9日、この冷戦の代名詞であるベルリンの壁が崩壊。翌月にはブッシュとゴルバチョフのマルタ会談で、冷戦の終結が宣言された。それらを契機に東欧の民主化は進み、91年12月にはソ連も消滅し、そこで世界は平和へと大きく前進して行くはずだった、、、。
ところが、それから後の方が戦争の恐怖が現実的になっている。1991年の湾岸戦争、2001年のアメリカ同時多発テロ、その報復としての2003年のイラク戦争、、、。その他、開発途上国の内戦や国際テロが頻発し、中には日本人犠牲者が生まれた事件もある。冷戦後に顕著となった資本主義グローバリズムの拡大に対する、イスラム過激派等の抵抗が、無差別な暴力の示威となって展開されているのだ。そして、その争いのため供給されるのが、旧ソ連をはじめとする東欧諸国の残した膨大な数の兵器である。また、そこに暗躍するのが、今回の焦点である「20世紀最大の強奪」をやってのけた武器商人達なのだ。なにせ、ウクライナだけでも1982年から92年の間に、320億ドル以上の武器が盗まれている。しかも、インターポール(国際刑事警察機構)に逮捕や告発された人間は未だに1人もいない。
「死の商人」と呼ばれる武器ディーラー達。
その中でも、各国捜査当局の間で「ヴィクトル・B」の通称で知られるロシア人武器ディーラー、ヴィクトル・バットである。
年齢はまだ40代前半で、魑魅魍魎がウヨウヨする武器密輸の世界では最大のプレイヤーの1人と言われ、航空輸送会社を隠れ蓑にしてアフガニスタン、中東、またアフリカの独裁者達を相手に荒稼ぎし、国連の武器禁輸制裁破りの名手として悪名を轟かせている男だ。
また彼が若くしてこの世界で頭角を現したのは、ソ連の崩壊が切っ掛けだった。実際、ソ連崩壊により、武器密輸の世界はそれ以前と比べ激変したと言われる。崩壊後の社会混乱によって、大量のソ連兵器がブラック・マーケットに出回り始めたからだ。その中には、核物質や米海軍が唯一防衛手段を持たない超高速対艦ミサイルまで含まれている。
更にアメリカの諜報機関と繋がり、そのプロテクションも受けている。武器ディーラーと米政府のこういった関係は、珍しい事ではない。その理由は諜報工作における彼らの有用性である。実際、諜報機関のプロテクションは、大物と呼ばれる「死の商人」になる為の絶対必要条件であると言って良い。
言うまでも無く武器密輸はアウトローの世界である。武器ディーラー達は、兵器を求めて群がり寄って来る独裁者、テロリスト、反政府組織等とビジネスを行う過程で、それらの組織の内部情報を入手出来る。こうした情報はCIA等からすれば喉から手が出るほど欲しい貴重なものである。また兵器を秘密裏にある国に移動させたい時等、その道のプロである彼らの協力は欠かせない。武器ディーラー達は情報を流したり、諜報工作に協力する代わりに、米諜報機関のプロテクションを得るのである。
9・11同時テロ、そしてイラク戦争等によって国際情勢は極めて不安定なものとなっている。世界が不安定な状況にある限り、武器密売ビジネスは不況とは無縁である。また密売人達と諜報機関とのこうした関係は継続していくだろう。その中を今後も武器ディーラー達が、金とアドヴェンチャーを求めて泳ぎ続けるのだ。

これが武器商人の実態だ!
頭―――
情報収集力・・・イラク、リビア、リベリア、ニカラグア、アフリカ、、、。常に世界情勢が彼の中には渦巻いている。諜報機関との情報交換も怠らず、紛争の火種を見逃さない!
携帯電話―――
世界を股に掛けるビジネスマンは衛星携帯、最果ての地からでも、海上でも空の上からでも、ビジネス・チャンスを逃さない!世界を操る男の必須エキップメント。
スーツ―――
商売は信用が第一!どんな過酷な戦場へもネクタイとスーツで現れる。決して戦いの現場には介入しないという心掛けでもある。
アタッシュ・ケース―――
ビジネス・ツールは「死の商人」だって同じ。但し、現金決済が多い分、ドルは常に大量に持っている。時には商品サンプルの銃を持ち歩く事もあるが、何があっても決して撃たない!だって中古品になってしまうから。

武器商人て何?
武器取引で利益得る商売人。武器売買から戦乱を引き起こすという意味で「死の商人」とも呼ばれる。多くは武器製造メーカーとのパイプを持ち、武器輸出規制等、国際法の目を掻い潜り、世界の紛争地帯に対して公に、そして秘密裏に売買を行っている。
実際に実在するの?
古くは第二次大戦後の混乱期に活躍したサミュエル・カミングス(アメリカ)やアドナン・カショーギ(サウジアラビア)が有名。ただ、やはり武器商人の存在がクローズ・アップされたのは、1991年のソ連崩壊後で、旧ソ連領内の武器が大量に中東、アジア、アフリカ等に流れ、その後の紛争の規模を際限無く大きくしたからである。ただ、近年は個人というより、組織化、企業化しており、よりワールド・ワイドに影響力を行使しているのが特徴。
現代の3大武器商人とは?
現在、戦場の裏で暗躍する武器商人の中でもその取引高や、紛争に及ぼした影響から、タジキスタンのヴィクトル・バット、シリアのモンゼル・アル・カサール、トルコのサルキス・ソガナリアンである。
取り扱い品目は?
1台何億という輸送機から、戦車やヘリコプター等、大型兵器も扱うが、圧倒的に多いのがハンドガン、サブマシンガンといった銃とその弾薬。特に自動小銃AK47、別名カラシニコフは弾薬も手に入り易い上、丈夫で壊れにくく、子供でも簡単に使える。ソ連崩壊以来、武器商人達のメイン商品となっている。つまり、多くの第3世界の軍の主力火器となっているという事である。世界の戦死者の90%がこういった小火器の銃弾によるものである。
顧客は?
救世軍以外、世界の何処の軍隊にでも売る。イラク、リビア、リベリア、アフリカといった軍事政権の独裁者達から、テロリスト、反政府グループが主な顧客。
売り方は?
やはり、ここは蛇の道は蛇。紛争の起こりそうな情報を嗅ぎ付けて「死の商人」が営業にやって来る。この情報収集力こそが武器商人として成功する為の最大の鍵と言えそうである。一方、公には、多くの国、軍産複合体が主催で、世界の政界、軍関係の要人を招いて「兵器ショウ」というものが開かれており、最新の兵器、売出し中の武器にとっては格好のプレゼンテーションの場となっている。買い方によっては、割引やおまけが付く事もある。
支払い、回収は?
殆どの場合、部分的に前金、そして納品時に残額を支払う。通貨は国際取引で信用の高いアメリカ・ドルが用いられるが、アフリカではダイヤ、中南米ではコカインで支払われる事も多く、そのマネーロンダリングの為に新たな売買が行われ、犯罪組織の温床となっている。
取り締まる法律は?
各国の武器輸出規制法があるが、実は全ての国に適用される武器規制の有効な国際法は存在しない。国同士の政治的な思惑もあり、世界各国の警察により結成される任意組織であるインターポール(国際刑事警察機構)はこれらの武器拡散、密輸に対して限定的に力を行使しているに過ぎない。現在、武器貿易条約(ATT)の必要性が国連で叫ばれている。
逮捕されないの?
驚くべき事に、世界を股に掛ける大物の武器商人の内、何人かは逮捕された事はあるが、直ぐに釈放されている。多くの危険な顧客と信頼関係を得ている武器商人の殆どは、彼らなりの貴重な情報を握っており、その情報提供と引き換えに、世界の、殊にアメリカの諜報機関と繋がり、同時に守られているというのが実状だ。
表と裏、どうなってんの?
と言う訳で、多くの政府は彼ら武器商人を取り締まれないばかりか、裏で彼らと手を握り、世界経済のマッチポンプとなっている。武器商人はシロでもクロでもない、グレーなビジネスこそ彼らの真骨頂である。
最後に、、、
善人が行動を起こさない限り、悪は勝つだろう。いや、敢えて言おう。悪は勝つ!!!!!
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