今回は空力関連のトピックについてです。

流れの剥離現象のトピックで、ドラッグ低減やダウンフォースを効率よく稼ぐためには車の表面流れの剥離を抑制する(空気ができるだけボディー表面に沿った流れるようにする)のが重要であることを学びました。
また、F1では縦渦(車の進行方向を軸として回転している渦)を意図的に発生させて、ダウンフォースやクーリング獲得に利用しています。

このように、空力開発には空気の流れを読み、うまくコントロールすることが求められていると言えます。

が、ここで一つ、大きな問題が笑い泣き
そうです、残念なことに空気の流れは見えないのです!チーン(エイドリアン ニューウェイのような一部の天才には見えているのかもしれませんが。。。)
しかし、諦めることはありません。一見、手強い空気の流れも、今回紹介する可視化技術によって見えるようにすることができます。

例えば雨の日には車の跳ね上げた水しぶきで大きな渦を巻いている様子が確認できますよね。これも一つの立派な可視化です。
今回は流体の可視化手法をいくつか紹介します。

1 シミュレーション:CFD

まず始めに挙げられるのがCFDですね。
Computational Fluid Dynamicsの略です。スーパーコンピューターで流体の物理方程式を解くことで 流れ場を可視化する技術です。


上はF1のCFD結果ですね。フロントウィングのフィンから発生する縦渦が可視化されていますが、意図的にそれぞれ行き先が制御されているように感じられます。非常に興味深いですね。

CFDは後述する風洞とは違って1度計算してしまえば好きなところを好きなように見ることができるため、非常に強力なツールであるといえます。パソコンのスペックも上がってきているので家のパソコンでも簡単なシミュレーションはできると思います。(剥離を解くのは企業レベルでないと無理)

F1では開発コストが上がり過ぎないよう規制がかかっているのですが、現在は風洞の開発時間とCFDの実行時間にも規制がかかっているようですね。

2:実験での可視化(オイルフロー、タフト、PIV)

CFDは強力なツールではありますが、所詮はモデル化されたシミュレーションです。現実では空気の乱れやモデル化によって省略されている時間的な流体運動の変動の影響でCFDとは若干異なった流れ場になります。
そのため、CFDで検討した後は風洞での検証が必要になります。

CFDと風洞が結果がきちんと合っているか確認する作業をよく”相関をとる”と言います。可視化技術は実際の車の流れ場を把握すると同時に、相関をとるためにも使われていますね。

2.1 オイルフロー


上の図はF1のフロントウイングのオイルフローですね。染料の入ったオイルを塗布しておいてから車を走らせると表面を流れる流体のせん断力でオイルが削ぎ取られ、表面に流線模様が浮き出てきます。材料も意外と身近なものでできるので試してみても良いかもしれません。(隙間にオイルが染み込んでいくので後始末は非常に大変です。。。また、配合が意外と難しい。粘度を変えながらインクを垂らすくらいが良いかもしれません)

オイルフローでは剥離も可視化できますね。剥離すると流れが逆流するため、オイルだまりができ、剥離位置を特定することが可能です。剥離する位置が分かれば、そこより上流側にボルテックスジェネレーターを付ければ性能が改善する可能性が高いです。


上図では右側のボルテックスジェネレーターを付けた部位の方が最後まで流れが物体についていっているのが確認できますね。

2.2 タフト
単純な裁縫用の毛糸です。表面につけて撮影することで物体表面の剥離ポイントを特定したり、格子状のリグを組んで、等間隔につけて(タフトグリッド)観察することで流れ場のベクトルを可視化することができます。
手軽にできますし、今はGoPROのような小型カメラもたくさんあるので最も手軽にできる可視化手法かもしれません。(やはり表面に関してはオイルフローの方がはっきりとは見えますが)

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毛糸で流れ場を可視化できるなんてすごいですね~

2.3 PIV
Particle Image velcimetryの略。 実験系の可視化技術の中で最も高級な手法です。
基本的には風洞内で可視化する技術で、車の周りの速度分布をCFD同様に細かく確認することができます。
原理は下図のようになります。風洞の上流側からオイルの粒子をばら撒き、可視化したい領域にレーザーシートをはって高速カメラで撮影します。撮影した写真を時系列に並べ、写真の中に写っているオイル粒子をそれぞれ結びつけることで、粒子の移動量、移動方向が特定できます。


オイルフローやタフトと違って完全な非接触手法なので精度も期待できますね。
ネガは風洞の中にオイルをばら撒き、風洞を汚すことでしょう。風洞設備側からは嫌がられそうです。
しかし圧倒的な情報量が得られるので非常に有用な可視化手法ですね。
下図はトヨタF1のCFDとPIVの比較結果の一例です。
サイドポッド横の渦の可視化でしょうか。CFD健闘していますね。

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2.4 スモーク
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インパクトのある広報映像でもよくみるスモークですが、実際風洞テストで使ってるかは不明ですね。というのもタフトと同様、カメラや動画での定性的な可視化に留まるので、流れ場のおおよそを理解するのには役立つとは思います。
どちらかというとオイルフローやPIVの方が開発には役立ちそうですね。

最後に

流れ場可視化画像を見て改めて美しいと思ってしまいました。
自分の車でオイルフロー。。は気がひけますが、やはりCFDしてみたいですね。
フリーソフトもあるみたいですし。照れ