2013年度経過報告及び2014年度計画(実施状況報告書2013 を加筆修正) | Tatsumi Labo in Kio Univのブログ

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本研究の目的は、傷害受容の心性を心理社会的支援の方向目標とする臨床モデルを実証的に検討し、その支援のあり方を考察することにある。

この目的に対応するための具体的な検討課題は、次の4点である。

(1)傷害受容を心理査定する観点の抽出: 2013年度課題

(2)傷害受容に影響を及ぼす個人変数及び状況変数の同定: 2014年度課題

(3)傷害受容を促進させる心理社会的サポートの検討: 2014年度課題

(4)傷害受容の心理プロセスがリハビリテーション行動とその成果に及ぼす影響過程の総合的検証: 20132015年度課題

 

初年度(2013年度)は、前年度までに実施した2種類の質問紙調査に基づき、課題1に取り組んだ。この結果、傷害受容の程度を評価する2因子を抽出し、その先行因に4つの心理社会的回復要因を認め、双方からなる心理過程を「傷害受容プロセス」と名称づけた。これらの研究経過は、ECPAFSMにて順次報告し、それぞれの成果をTatsumi (2013)Tatsumi & Takenouchi (2013)Tatsumi & Takenouchi (2014, in press)の論文にまとめた。プレス中の論文の成果の一部は、20146月開催のFIMSにて報告を予定している。

 

また、2014年度課題としていた課題2に試験的に迫るために、個人変数に感情調整に関わる変数(感情伝達困難さ)を同定し、傷害受容との関連を検討した。この結果、自己の感情を他者に対して的確に描写できるか否かに関わる感情レベルの特性が傷害受容に間接作用することが明らかとなった。なお、この研究成果の一部は、ACHPで報告し、20148月開催のICBMにて、さらに発展させた研究報告を行う予定にある。

 

一方、課題1の作業過程では、新規課題として傷害受容プロセスを質的に検討する必要性が生じた。この課題に対応するために、初年度後半より1名を対象に予備的な面接を行い、面接構造及び臨床モデルの妥当性を検討している。

 

以上に示した通り、これまでの研究経過は概ね順調である。その理由として、初年度のスタート時に、傷害受容の程度を測定する尺度(AIPA-S)を完成させていたこと、また、この尺度開発に係る研究論文の審査過程にて指摘を受けた「心理診断システムの開発」という発想は、心理社会的回復要因を先行因とする傷害受容プロセスにまで検証の範囲(モデルの守備範囲)を拡げることに繋がった。後者の研究では、傷害受容の心性に情緒的安定性や時間的展望の回復要因が寄与している点が示唆され(Tatsumi & Takenouchi, 2014, in press)、2014年度課題としていた「傷害受容を促進させる心理社会的サポートの検討」への思索の幅を狭めたものと思われる。これらの結果はまた、2014年度課題に掲げていた「感情調整に関する特性と傷害受容との関連」という作業仮説が概ね妥当であることを示唆するものである。

 

一方、前述したように、初年度の研究過程では、新規課題も生じた。それは、傷害受容プロセスの個人差をどのように臨床モデルに捉まえるかという課題に集約できる。この点の課題は、質的に検討していく必要がある。そこで2013年度末からは、2014年度課題に対応するための質問紙調査の準備と傷害受容プロセスを補完する質的データの収集を意図した予備的な面接調査を同時進行させてきた。

 

初年度の研究活動を通じて、研究当初に提示した臨床モデルの検証可能性を概ね認め、交付申請時の研究実施計画を修正すべきと判断される結論は特に得ていない。従って、2014年度は研究実施計画を踏襲していく。

 

2014年度は、1.感情調整に関する特性やスキルの程度が傷害受容プロセスに及ぼす影響(課題2に相当)、2.ソーシャル・サポートが傷害受容プロセスに及ぼす影響(課題3に相当)、を検討する。これらの研究を成立させるためのデータは、1回の調査で収集するが、調査協力者の確保の点から、日本国内の数カ所で実施予定である。質問紙に含まれる尺度は、2013年度に開発したAIPA-Sや心理社会的回復要因尺度、また、アスレチック・リハビリテーション専心性尺度、感情伝達困難さ尺度に加え、より詳細に感情調整に係る機能や特性に迫りたいことから、先行研究で開発された「感情調整尺度」を新たに取り入れる。

 

また、2013年度交付申請以前に、既に「心理社会的サポート尺度」の開発を意図した予備調査を行っており、この調査結果は、初年度12月に学内開催の経過報告会にて一部を報告し、2014年度8月開催のアジア南太平洋スポーツ心理学会にて概要を報告する予定にある。なお、国内では、鈴木敦氏(国立スポーツ科学センター: JISS)が負傷競技者のソーシャル・サポート研究を牽引してきた経緯があり、氏には、研究協力者として参画することに承諾を得た。今後は、氏からこの方面の先端研究をヒアリングしつつ、研究計画に反映させていく予定にある。

 

上記以外にも、傷害受容プロセスの個人差を質的研究より検証するためのデータを面接調査から収集していく。このデータ収集には、上記計画の遂行に費やすエフォート(%)から、年度一杯を予定している。

 

以上