今回は,大アルカナの最後,「愚者」をご紹介します。
【正位置】
・ 自由,型にはまらない,無邪気,純粋,
天真爛漫,可能性,発想力,天才
【逆位置】
・ 軽率,わがまま,落ちこぼれ,ネガティブ,
イライラ,焦り,意気消沈,注意欠陥多動性
愚者は,伝統的には大アルカナに属さないものとされ,特殊な札と考えられてきました。
ウェイト版では,この愚者に0番を付し,0番の愚者から21番の世界の計22種類の大アルカナとして売出し大ヒットしたことから,今では22種類の大アルカナがコンセンサスとなっています。
タイトルの愚者が定着したのも,現代にはいってからのようです。
それまでは,「狂人」や「こじき」の名称が一般的であったようです。
この札がトランプのジョーカーの起源ではないかとする説もあります。
【ヴィスコンティ版の愚者】
ヴィスコンティ版の愚者は,頭に鳥の羽を差し,下着が露出し,手には棍棒を持っている立ち姿で描かれています。
中世ヨーロッパでは,精神薄弱者は理性を持たない犬畜生と考えられ,嫌がらせを受けていました。
だから,護身用の棍棒を携帯していたのです。
このような社会的弱者を道化師として国王が宮廷で召し抱えることが,自分の徳を世間に示す手段となっていました。
道化師は,王様が立場上表立ってできないことを代わりに公衆の前でやってみせるのが役割で,どんなタブーも赦される存在でした。
【マルセイユ版の愚者】
マルセイユ版の「愚者」は,道化師のような帽子をかぶった髭面の男が荷物を担いで棒を持って旅に出る,そんな構図となっています。
足にネコらしき動物が噛み付いているのも,愚者の動物性を強調し,またそのようなことに頓着しないズボラな性格を表しているのでしょう。
注意すべきは,愚者の構図と死神の構図がほぼ同じという点です。
どちらも,人間世界から完全に自由となった存在,という共通項があるということなのでしょう。
【ウェイト版の愚者】
ウェイト版は,崖っぷちを軽やかにステップする若者として愚者を捉えています。
注目すべきは,背後の白い太陽に,左手に持った白いバラ,そして足元にいる白い子犬です。
白色は純粋無垢な心を表しています。
愚者は愚かであるだけでなく,打算的なところを持っておらず,そんな誰も近寄らない愚者にも無垢なる子犬はじゃれる,ということなのでしょう。