第15のアルカナ,「悪魔」のご紹介です。

 カードの意味は,以下のとおりです。

 

【正位置】

・ 裏切り,拘束,堕落,束縛,誘惑,悪循環,

 嗜虐的,破天荒,憎悪,嫉妬心,憎しみ,

 恨み,根に持つ,憤怒,破滅

 

【逆位置】

・ 回復,覚醒,新たな出会い,リセット,

 生真面目

 

 キリスト教の世界においては,悪魔は反キリストであるサタンのことです。

 キリストが人々を救う救世主なら,サタンは人々を地獄に突き落とす存在です。

 

 悪魔の図像は,フランスの魔術研究家エリファス・レヴィ(1810年~1875年)が,ギリシア神話の牧神パンをモデルに描いたものが広く受入れられています。

 

【エリファス・レヴィのバフォメット】

(画像はこちらのサイト様から拝借)

 

 

 牧神パンは,森や野山を司る神で,頭が山羊に似た2本の角を持つ毛むくじゃらの半人半獣の姿をしています。

 

 

【ヴィスコンティ版の悪魔】

(画像はこちらのサイトから拝借)

 

 ヴィスコンティ版の悪魔も,下半身毛むくじゃらで上半身に乳房がついている女性の体となっています。

 旧約聖書において,原罪を犯したのはイブであると記載されていることから,悪魔の象徴として女性の体が用いられています。

 同様に,女性はそのような誘惑に溺れやすい弱い存在として男性の下に置かれ,また魔女狩りでは多くの女性が魔女として処刑されていきました。

 

 このように,キリスト教教義に男性優位が説かれやすい素地があった,というのも間違いないでしょう。

 

 

【マルセイユ版の悪魔】

 

 マルセイユ版の悪魔も,ヴィスコンティ版と同じ要素(半人半獣で両性具有)を受け継いでいますね。

 伝統的な悪魔のモチーフとして,腹部などに人間の顔などがついている,というのもあります。

 

 悪魔の両脇に首輪で繋がれているのは,サテュロスです。

 サテュロスは,ギリシア神話でデュオニュソスの近衛兵(または養育係)とされる森の精です。

 キリスト教世界では異教の神や神話の英雄は,悪魔という形でキリスト教の教義や行事に組み込んでいきました。

 

 たとえ悪魔として描くにしても,ギリシア・ローマの神々を描くことは従来のキリスト教の軛から画家が離れるきっかけになりました。

 そして中世ヨーロッパでは,ルネサンス芸術が花開いていきます。

 

 

【ウェイト版の悪魔】

 

 ウェイト版の悪魔も,ヴィスコンティ版やマルセイユ版の伝統を引き継いだ絵面になっていますね。

 

 悪魔の頭上には逆五芒星が輝いています。

 五芒星は,死神の記事でご紹介した五弁花をさらに抽象化したもので,火土風水の四大要素とそれらを司る第五元素の渾然一体を表しています。

 この五芒星の上下が反対になっているということは,堕落した人間・邪悪な存在であることを意味します。

 

 左側の小悪魔は,しっぽが葡萄になっており,葡萄は富と豊穣(つまり金銭欲)を,葡萄から作られるワインは誘惑を,それぞれ意味します。

 右側の小悪魔は,しっぽが燃え盛っており,これは欲望や怒りなどの負の激情を意味しています。

 どちらも,人間の生来の欲求は邪悪な存在と結び付きがちで,その欲求を満たす代わりに悪魔の奴隷と成り下がる,そういった傾向が人間に備わっていることが暗示されています。

 

 背景が黒色のカードは,この悪魔と塔のみです。

 黒色は不吉な色,死を連想する色でありながら,タキシードなどの礼装にも用いられる不思議なパワーを秘めた色です。

 古代エジプトでは,黒色はナイルが運んでくる黒土の色であり,豊穣をもたらす縁起のいい色として尊びました。

 おそらくその名残で,黒色の服を正装に用いているのではないかということが「タロットの歴史」で示唆されています。