本当に久々の更新になりますね,20日くらい間が空いてしまったでしょうか。

 お盆明けから昨日までは仕事で忙しく,家でPCを開く暇がありませんでした…。

 

 さて,気を取り直して,今回は,第13のアルカナ,死神をご紹介しましょう。

 

 いつもどおり,タロットカードの意味から。

 

【正位置】

・ 停止,終末,破滅,離散,終局,清算,決着,

 死の予兆,終焉,消滅,全滅,満身創痍,

 ゲームオーバー,バッドエンディング,

 死屍累々,風前の灯

 

【逆位置】

・ 再スタート,新展開,上昇,挫折から立ち直る,

 再生,起死回生,名誉挽回,汚名返上,

 コンティニュー

 

 これまでのカードであれば正位置がプラスの意味付けでしたが,このカードは逆位置がプラスの意味合いなんですね。

 まぁ,当然といえば当然ですが。

 

 

 中世ヨーロッパは,ペストや天然痘の大流行で大量の死者が発生しました。

 本ブログにおいても,時代は下りますが,ダニエル・デフォーの著書「ペスト」で,17世紀のロンドンのペスト大流行の様子をご紹介しております。

 

 14世紀ヨーロッパでのペスト大流行により,当時の世界人口4億5000万人の22%にあたる1億人が死亡したと推計されています。

 また,ボッカチオのデカメロンでも,フィレンツェだけで10万人以上の死者が出たと記載されています。

 今のコロナウイルスの比じゃないですね。

 

 当然,身分の高低などに関係なく感染症は平等に襲いかかります。

 堕落した僧侶や権力闘争に明け暮れた貴族に反感を抱いた庶民は,ペストを恐れる一方で,有力者をも容赦なく死に追いやるペストを風刺の素材にしてうっぷんを晴らしていました。

 

 

【ヴィスコンティ版の死神】

 

 上記画像はキャリー・イェール・パックになります。

 死神が馬に乗り大鎌を振り回し,馬の足元にはキリスト教の司祭や枢機卿たちの死体が転がっています。

 

 ヴィスコンティ家は,ローマ・カトリック教会から異端視されたマリア崇拝に傾倒していましたから,バチカンとは対立関係でした。

 キリスト教聖職者の死体はそういった対立関係を踏まえた構図なのかもしれません。

 

 ヨーロッパにおいて,死の表象に骸骨を用いるようになったのは,実は比較的時代が下ってからのことで,おおよそ1500年代に入ってからである旨が「タロットの歴史」で紹介されています。

 古代ローマにおいては,死は着衣の女性で表現され,やがて死装束をまとった女性像となり,さらにはミイラで死を描くようになります。

 腹部が切開され内臓が取り除かれているミイラの画が数多く残されています。

 

 

【地上の虚しさと神の救済の三連画】

(画像はこちらのサイトから拝借・一部加工)

 

 ヴィスコンティ家では,1349年~1385年までミラノを支配したベルナボ・ヴィスコンティが取った感染症防止対策が奏功し,他の都市よりも死者が際立って少なかったようです。

 その後,ヴィスコンティ当主の座をクーデターにより奪った初代ミラノ公爵ジャンガレアゾは,1402年,皮肉にもペストによって死んでしまいます。

 

 

 

【マルセイユ版の死神】

 

 マルセイユ版の死神も,大鎌を持ち,足元には手や頭などの残骸が落ちている,といった構図になっています。

 

 農作業をしているように見えますが,これはダンス(いわゆる死の舞踏)をしている情景を描いているようです。

 大鎌を持ちクルクル回転することで,あらゆる地上の者たちが死に再生するように祈願するダンスです。

 

 このカードはもともとタイトルがつけられていませんでしたが,それは『名を口にするのも恐れ多い神ヤハウェ』をカードにしたため,タイトルがない名無しのカードになっていたという説が,「タロットの歴史」に掲載されています。

 だから,このカードは,単純に「死」を意味するだけでなく,そこからの「再生」をも意味するものと受け取る必要があります。

 

 

【ウェイト版の死神】

 

 ウェイト版の死神は,黒い甲冑に身を包み,白馬にまたがり,旗をたなびかせ威風堂々としていますね。

 そして,白馬の足元には,既に死んだもの,素直に首を差し出す女性,両手を合わせて何かを懇願する聖職者が描かれています。

 

 旗に描かれた五弁花は,キリスト教文化では「完成した人間」を意味し,また聖母マリアのシンボル(神秘の薔薇)でもあります。

 つまり,命を刈り取る死神も,生命を生み出す聖母マリアも,同様の存在・表裏一体であることをの暗示となっています。

 

 ヨーロッパの古層文化(北欧かケルト人のものと思われますが)には,死者が馬にまたがりこの世をさまよう民間伝承が数多く残されています。

 荒野の狩人とか,死者の軍勢などと言われ,冥界の王であるオーディンに率いられていると伝えられています。

 ヨーロッパの古層文化における死者は,このように生き生きと描かれ,それは生者の領域に踏み込み命をとっていく恐ろしい存在でした。

 

 これが,キリスト教が伝わると,死者は寒さに震え,空腹に苛まれ,地獄の業火に焼かれ苦しむ哀れな存在になっていきます。

 死者に対するイメージ・死生観の変化も,日本における仏教伝来の前後と事情はそっくりです。

 

 非常に興味深いテーマだと感じます。