タロットの第12のアルカナ,「吊るされた男」の紹介になります。

 カードの意味は以下の通り

 

【正位置】

・ 修行,忍耐,奉仕,努力,試練,着実,抑制,

 妥協

 

【逆位置】

・ 徒労,痩せ我慢,投げやり,自暴自棄,

 欲望に負ける

 

 

 このカードの意味するところは,人生における『受難』であり,キリスト教社会に即して言うと殉教・自己犠牲ということになるでしょうか。

 

 

 

【ヴィスコンティ版の吊るされた男】

 

 中世ヨーロッパでは,罪人は片足で逆さ吊りにされる処刑方法が取られていたようです。

 画像はベルガモ・パックのものですが,キャリー・イェール・パックでは同じ構図で更に別足に錨が吊るされているという,更に痛々しい拷問を受けています。

 

 身なりから見るに,吊るされている男は高貴な身分だと考えられます。

 苦痛にゆがむというよりは,この試練を受け入れている冷静な(あるいは諦めの)表情をしています。

 

 

【マルセイユ版の吊るされた男】

 

 マルセイユ版の構図の特徴は,吊るされた足で形成される四の字です。

 これは,アルカナ『皇帝』でもふれた木星の惑星記号であり,幸福・喜び・寛容さ・恵みを意味するものと考えられています。

 つまり,この逆さ吊りは単なる拷問ではなく,私達に与えられた乗り越えるべき試練,新たな生まれ変わりのチャンスといった意味として捉える必要のあるカードだということです。

 

 その証拠,と言ってはなんですが,吊るされた男の肩には小さな羽が生えてきています。

 まさに,この試練によって,これまでの人生からさらなる高みへ登る第一歩を踏み出した様子を描いているのです。

 

 

 

【ウェイト版の吊るされた男】

 

 ウェイト版の吊るされた男で特徴的なのは頭の光輪ですね。

 これは,キリスト教画でニンブスと言われ,栄光と栄誉の印であり,自然的存在である人間に超越的な力を与えるものです。

 

 吊るされた木は,Tの形をした「タウ十字」と言われるもので,神(Theos)の頭文字を表し,またモーゼのシンボルとも言われています。

 この十字架はただの十字架ではなく,緑の葉が生い茂る生命の樹でもあります。

 よって,イエスの殉教・自己犠牲によって,十字架に生命が与えられ芽吹いた,といったモチーフとなっています。