今日は,『タロットの歴史』から,第11のアルカナ「力(堅忍)」をご紹介しましょう。

 力,とありますが,どちらかといえば忍耐力・人生の不幸に耐える力,と捉えるのが正しいです。

 このカードも,四枢要徳の一つ「堅忍」を表します。

 

 カードの意味は以下の通りです。

 

【正位置】

・ 力量の大きさ,強固な意志,不撓不屈,理性,

 自制,実行力,知恵,勇気,冷静,持久戦,

 潜在能力の引き出し,成熟。

 

【逆位置】

・ 甘え,引っ込み思案,無気力,人任せ,

 優柔不断,権勢を振るう,卑下

 

 

 いずれのカードにも人間が獅子をやっつける(手懐ける)様子が描かれています。

 ヨーロッパ文化で,力と獅子が表すものとしては,2人の豪傑,サムソンとヘラクレスが思い起こされます。

 

 旧約聖書で,サムソンはペリシテ人支配に抵抗するイスラエル人の英雄で,ライオンを素手で引き裂いたエピソードが記載されています。ヘラクレスはギリシア神話の英雄で,ネメア峡谷に住む鉄のような獅子を3日間に渡り締め上げ殺したといった武勇伝が語られます。

 

 

【ヴィスコンティ版の力】

(画像はWikipediaから拝借)

 

 

 1400年代後半のヨーロッパ貴族の間では,庭園に動物園を完備することがステイタスで,ヴィスコンティ一族も世界中から珍しい動物を収集していたようです。

 なかでも,ライオンはイタリア中部の洞窟に多く生息していた,と『タロットの歴史』に記載されています。

 中世ヨーロッパにもライオンが住んでいたんですね,ちょっと驚き。

 

 

【マルセイユ版の力】

(画像はWikipediaから拝借)

 

 

 マルセイユ版の力は,女性が獅子の口を両手でこじ開けている様子が描かれています。

 

 この当時流行した錬金術においても,獅子は大作業の第一工程で取り組む素材を象徴し,その獅子との戦いは避けて通ることのできない関門であるとされていました。

 

 また,獅子は意識を食い尽くす「無意識」の象徴であり,意識の押さえが効かない無意識は人間の本能を表しています。

 それをうまく手懐けること,つまり理性が野生に打ち勝つことが大きな仕事を成し遂げる条件であることを示しています。

 

 

 

【ウェイト版の力】

(画像はWikipediaから拝借)

 

 

 ウェイト版の力では,女性が静かに微笑みながら獅子の口を閉じている様子が描かれています。

 これは,人間が自らの獣性を封じることに成功したことの暗示です。

 

 獣性を封じるためには,ヴィスコンティ版やマルセイユ版のように力で抑圧する必要はなく,理性と獣性とが自然と調和する中に人間の本質がある,そのように言っているように私には感じます。

 その証拠に,女性と獅子の間は花のリースで結ばれています。

 そして,その女性の頭には無限の可能性を表すインフィニティの文字が浮かび上がっています。