今回は,第9のアルカナ,「隠者」をご紹介しましょう。

 カードの意味は以下の通り。

 

【正位置】

・ 経験則,高尚な助言,秘匿,精神,慎重,

 優等感,思慮深い,思いやり,単独行動,

 神出鬼没,変幻自在,難解

 

【逆位置】

・ 閉鎖性,陰湿,消極的,無計画,誤解,

 悲観的,邪推,劣等感,疎通。

 

 

 まさに私の二面性を表しているタロットだな,そんなに頭がいいわけではないが(苦笑)

 

 先の記事で,タロット「隠者」は四枢要徳のうち,『賢慮』を象徴すると申し上げました。

 ただし,キリスト教美術における賢慮の伝統的なモチーフは,書物,棒に巻き付いた蛇,鏡,二面(あるいは三面)の顔,コンパス,ふるい,棺,お金がこぼれ落ちる袋などで,タロット「隠者」にはいずれも描かれてはいません。

 

 「タロットの歴史」には,マンテーニャ・タロットの賢慮が掲載されていますが,隠者とは全く異なります。

 

 

(画像はこちらのサイトから拝借)

 

 

 この二面の顔や,他のアトリビュートを見ると,ヨーロッパの賢慮(ひいてはタロットの隠者)のイメージは,ギリシア神話のヘルメス由来なのではないかと思います。

 

 ヘルメスはギリシア神話のトリックスターで,神々の伝令使であり,旅人・商人などの守護神でもあります。

 

 また,足が速いということで体育技能を,ギリシア神話のエピソードから能弁・狡知・発明をそれぞれ象徴しています。

 

 さらには,旅というキーワードから,境界・夢と眠り・死出の旅路の案内者などとも言われ、多面的な性格をもっています。

 

 ギリシアでは,二面の顔と男根を持つヘルメス柱像(ヘルマ)が道祖神として道端に建てられています。

 日本でも地蔵菩薩が峠に建立されているのた見受けられますが,やはり地蔵菩薩も境界や死出の旅路をイメージさせるものですね。

 

 

【パナティナイコ・スタジアムのヘルメス柱像】

(画像はこちらのサイトから拝借)

 

 

 タロットの隠者は,「宗教的隠遁者(Hermit)」をモデルとしており,俗世から隔絶された森で隠棲する老人として描かれます。

 

 そのアトリビュートは,杖に砂時計かランプです。

 砂時計は,時間の経過,老いと寿命,使い果たされていく生命と蓄積された知性を想起させます。

 ランプの光は知性の輝きの象徴です。

 

 

【ヴィスコンティ版の隠者】

(画像はWikipediaから拝借)

 

 

 ヴィスコンティ版の隠者は,「星まわりと盲目的な必然を信じ,どんな神頼みも怠らない人物」だった第3代ミラノ公フィリッポ・マリア・ヴィスコンティの老年をモチーフにしたのではないかと,「タロットの歴史」では示唆されています。

 フィリッポ・マリア・ヴィスコンティは,身の安全を案じるあまり,ほとんど引きこもり状態だったようです。

 

 

【マルセイユ版の隠者】

(画像はこちらのサイト様より拝借)

 

 

 マルセイユ版は,砂時計の代わりにランプを持っていますね。

 その他は同じ構図です。

 

 欧州におけるマントは,修道会と修道士を象徴するもので,隠者というよりは修道院に住む修道士のイメージが色濃く出ているように思われます。

 

 

【ウェイト版の隠者】

(画像はWikipediaより拝借)

 

 

 ウェイト版の隠者は,すっかりキリスト教色が消え,もとの隠棲者としての老賢者のイメージを打ち出しています。

 

 ランタンに描かれた六芒星(ヘキサグラム)は,頂点が上向きの三角形が神の想像のエネルギーを,頂点が下向きの三角形は神の破壊のエネルギーを意味し,古代エジプトで生み出されたモチーフです。

 これが,やがてユダヤ社会に持ち込まれ,ダビデの星・ソロモン王の紋章,やがて悪魔召喚の魔法陣などに描かれるようになりました。

 

 このあたりもウェイト版のオカルティズムが反映されていますね。