今回は,大アルカナの5番目,「ローマ教皇」を取り上げましょう。

 

 まずは,カードの意味から。

 

【正位置】

・ 慈悲,連帯・協調性,信頼,尊敬,優しさ,

 思いやり,自信,法令・規律の遵守,人徳

 

【逆位置】

・ 守旧性,束縛,躊躇,不信感,独りよがり,

 逃避,虚栄,怠惰,お節介,固着

 

 

 キリスト教は,392年にローマ帝国の国教となりましたが,その後帝国の東西分裂によりキリスト教も東西に分かれてしまいます。

 

 東ローマ帝国側のキリスト教は,コンスタンティノープルを中心とした正教会です。

 西側は,ローマに本拠地を置くローマ・カトリック教会で,そのトップがローマ教皇になります。

 

 もともと,キリスト教世界では5つの主要な教会があり,これを五本山と呼びます。

 ローマ,コンスタンティノープル,アレクサンドリア,イェルサレム,アンティオキアの5教会です。

 

 

 この中で(少なくとも自身では)首位がローマ教会となった理由は,当時の帝国首都にあっただけではなく,ローマ教皇が使徒ペテロの後継者とされているからです。

 

 聖ペテロは,キリスト12使徒の一人で,ローマでの布教に尽力しましたが,時のローマ皇帝ネロに捕縛され逆さ十字架にかけられ処刑されてしまいます。

 

 で,そのペテロの墓所の上に,教会を建ててキリスト教の中心としようとなりました。その教会は,バチカン市国にあるサンピエトロ大聖堂です。サンは「聖」で,ピエトロは「ペテロ」のことです。

 

 

 

【ヴィスコンティ版のローマ教皇】

(画像はこちらのサイト様から拝借)

 

 ヴィスコンティ版の特徴は,(マルセイユ版にも言えることですが)三重冠に人差し指と中指を伸ばすポーズです。

 

 三重冠は教皇の権能(司祭・司牧・教導の三権)を示すシンボルです。

 人差し指と中指を伸ばすポーズは魔除けや除霊の際に用いる手信号で,聖職者のお決まりのポーズになっています。 

 

 

 

【マルセイユ版のローマ教皇】

(画像はこちらのサイトから拝借)

 

 マルセイユ版では,ヴィスコンティ版の特徴に加え,左手に三重十字の大きな錫杖を持ち,手袋にはマルタ十字が描かれ,下位の信者を引き連れているといった構図になっています。

 

 三重十字は教皇十字ともいわれ,教皇が行列をなす際に用いられます。

 

 マルタ十字は聖ヨハネ騎士修道会のシンボルマークであり,彼らはマルタ島の病院で医療に従事したことからホスピタル騎士団とも言われているそうです。聖ヨハネ騎士修道会は非常に禁欲的・清廉で知られていたため,当時腐敗していたローマ教皇にこのシンボルマークを用いたのでしょう。

 

 わかりにくいかもしれませんが,下部には2人の信者(下位の僧侶)が描かれています。

 ドーナッツみたいに見えるのは頭で,当時の僧侶は神のお告げを聞くためにみんな頭頂部を剃っています。

 ザビエルは天然ハゲではありません(笑)。

 

 

 

【ウェイト版のローマ教皇】

(画像はこちらのサイト様から拝借)

 

 

 ウェイト版も,ヴィスコンティ版やマルセイユ版と同じ構図ですね。

 

 違いといえば,足元の2つの鍵でしょうか。

 2つの鍵はペテロのアトリビュートであり,イエスがペテロに天の国へと至る扉の鍵を授けると語ったというエピソードに由来するものです。現在のバチカン市国の国旗にも2つの鍵があしらわれています。

 

 赤いローブは,キリスト教会でも高位者しか身につけることが赦されていません。

 キリスト教において,赤色は「キリストの血」を意味し,教会のヴァージンロードや装飾の垂れ幕などに赤色が用いられるのは,キリストの受難を信者に思い起こさせることを目的にしています。