今回は,第4のアルカナ『皇帝』を取り上げます。
タロットカード『皇帝』の意味は以下の通りです。
【正位置】
・ 支配,安定,成就・達成,男性的,権威,
行動力,意思,責任感の強さ,軸。
【逆位置】
・ 未熟,横暴,傲岸不遜,傲慢,身勝手,
独断的,意志薄弱,無責任
いずれの版の皇帝も,王笏と宝珠を持った構図で描かれております。
王笏は,魔術的なシンボルであるとともに男根の象徴でもあり,指揮権や正義を意味していると解説されていますね。
宝珠は,世界を表す球体に十字架がついたものであり,これを皇帝が持つことで「世界を手中に収めている」ことを表しています。
なお,皇帝は宝珠の十字架より下をもつことで,あくまでも神の僕として地上を支配するといった「世俗の王」ということを示しています。
ヨーロッパ世界で皇帝といえば「神聖ローマ帝国」の皇帝を指しますが,そのローマ帝国は5世紀には東西に分裂します。
キリスト教会も東西に分裂していきます。
西側ヨーロッパは,その後フランク王国のカール大帝の時代に統一されますが,死後また分裂を繰り返し,各地に諸侯が分立し始めます。
一方で,ローマ帝国滅亡後にフランク王国と結び付きを強めたキリスト教会も,独自の権力を持つようになってきます。
やがて,複数のカトリック系都市国家によって「神聖ローマ帝国」が結成され,王の中の王として皇帝が擁立されました。
ただし,フランスやイギリスなどは皇帝権威を認めず,また,皇帝もローマ教皇と対立を強めていきます。
ヨーロッパ中世史は,皇帝権力と教皇権力,国王権力の三つ巴の権力闘争による血塗られた戦争の歴史でもあります。
【ヴィスコンティ版の皇帝】
(画像はこちらのサイト様から拝借)
ヴィスコンティ版の特徴は,帽子に描かれた大きな黒鷲の紋章と,皇帝には似つかわしくない質素な服装で,王冠も描かれていません。
黒鷲の紋章は,以前にもふれましたが,ヴィスコンティ家が神聖ローマ皇帝より下賜されたものです。
つまり,このタロットに描かれた皇帝は,ヴィスコンティ家の当主であり,そのため本当の神聖ローマ皇帝に気を使って,服装は質素なものにとどめたのだと思われます。
【マルセイユ版の皇帝】
(画像はこちらのサイト様から拝借)
マルセイユ版からは,皇帝らしく王冠をかぶってますね。
マルセイユタロットは商業出版していたため,特定の貴族になぞらえたものではないから,皇帝に気を使う必要はなくなったのです。
マルセイユ版の皇帝は足を組んでおり,その形で「4」を表しているそうです。
4は,西洋占星術では木星を意味します。
木星は,拡大と発展を意味する吉星であり,物質的な恵みをもたらす絶対神と地上の絶対君主を重ね合わせているのです。
【ウェイト版の皇帝】
(画像はWikipediaから拝借)
ウェイト版の皇帝は,デューラーの描いたカール大帝の肖像をモデルに描かれております。
ただ,ヴィスコンティ版やマルセイユ版と異なり,宝珠からは十字架が消え,王笏も輪付き十字架に変わっています。
輪付き十字架の輪は,エジプトの太陽神ラーやギリシアのヘリオスを表すものと考えられ,のちにキリスト教社会では世界を照らす光としてイエスのシンボルにも採用されました。
また,ウェイト版では背景が宮廷から荒涼とした岩山に石の玉座となり,皇帝の出で立ちも甲冑と,だいぶこれまでの版とは趣が異なっています。赤いローブも血や闘争を想起させます。
これまでの版では,権力・秩序・防衛といったどちらかといえば男性の性的な側面にクローズしているように見えますが,ウェイト版では,男性性としての「闘争」,「暴力」,「破壊」といった男性の動的な側面が色濃く表されているように思われます。