- 「行く所もなく、まさか実家の連田にも帰れないし、ほしこさんの家に・・・。ごめんなさい・・・」
「いいのよ、れんこんさん。うちでよかったら、落ち着くまでいてちょうだい」
「それにしても、あしたからどうしましょう。仕事もやめてしまったし」
「そういえば、結婚するからって巫女さんをおやめになったのよね」
「あの人が、おれが一生食わせてやるから、家の中をしっかりまもってくれって」
れんこんさんの目に涙がうかびました。
「・・・・頼れる人だと思っていたのに。あんな、横暴な人だったなんて」
おぱあさんは、あわてて話題を変えました。
「それにしても、れんこんさんは色白だねえ。目を見はるほどだよ」
「あら。まあ。うふ、そう言えば、逢ったばかりの頃、あの人がね、
おまえはなんでそんなに色が白いんだ、漂白してんのか、って聞かれまして。
まあ、これはもとからですよ、って話したことがあったんです・・・・」
大工の棟梁さんは、中国種で長楕円形の『備中』という種類。
れんこんさんは在来種で『天王』という種類で、外皮が白いのが特徴。
その上、巫女れんこんさんは梅雨過ぎ早堀の「新はす」。色が白いのは当然じゃった。
れんこんさんがしんみりしたので、おばあさんはまた、話題を変えた。
「お茶をいれますね。きのう、きのう、美味しいおせんべいをいただいたんですよ」
「まあ、わたし、おせんべい、大好き。あの人もね、お茶請けにはせんべいだ、って、そりゃもう好きで・・・」
何を言っても、れんこんさんの口から出てくるのは旦那さんのことばかり。
その時、急にガラリと戸が開き、頭領が飛び込んできたんじゃ。
「きりぼしさん、うちの女房が来てませんか」
ほうぼう探し回って、やっとのことで見つけたんじゃ。
おばあさんがいる前では、言いにくいことでしたが、
「俺が悪かった!帰ってきてくれ」
とれんこんさんに謝りました。
「いいんですね?わたしは、酢れんこんを捨てなくて、いいんですね?」
「ああ、いいとも、いいとも。おれを、ゆるしてくれるか」
「もちろんですとも!あなた・・・」
ふたりは仲良く帰っていったそうな。
今では、頭領は二日酔いの朝には酢れんこんが一番うまいと言っているそうじゃ。
全部、ほしこさんから聞いたお話じゃ。
はは、まったく夫婦げんかは犬もくわんな・・・。
●れんこんは明治以降に導入された中国種と日本にもとからあった在来種とに大別されます。
●中国種は、明治時代初期に中国から導入されたもので、地下茎が浅く、
ふっくらとしています。掘り出しやすく、病気にも強いので、現在は主流となっています。在来種より粘り気が少なく、シャキシャキとした歯ざわりがあり、肉厚なのが特徴です。
●在来種はスラリと細長く、茶色がかった肌色をしています。
地下茎が深く、収穫量が少なくて、現在は一部の地域でしか栽培されていません。
中国種より粘り気が強く、切り口から糸をひくのが特徴です。
●また、梅雨過ぎから出回る早掘りのものは「新ばす」と呼ばれ、細く色白で、
柔らかく歯ざわりも良いので珍重されます
●備中(びっちゅう)
中国種で根茎の形が整っていて長楕円形の粉質です。
主産地は岡山県で、半促成種。西日本を中心に栽培されます。
●支那(しな)
中国種で灰白色で根茎が太く、節の間が長めの大型種です。
晩生種で西南日本に多く栽培され、保存もきき、長期間出回ります。
●天王(てんのう)
在来種で外皮が白く、粘りがあって風味のある促成種です。
関東地方で多く栽培されています。
●上総(かずさ)
在来種で身が白く、粘質の中生種です。
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