毎年夢を見る。

夏の夜の夢だ。
昼間の暑さを嘘みたいに和らげてくれる夜風と、なんてことはないいつもの帰り道と、ずっと黙り込んだままだった彼が絞り出すように零した言葉が繰り返し再生される。



『翔くん、ホント悪いんだけど、俺やっぱり翔くんのことが好きなんだ。もうどうしたって無理だから、だから翔くんも諦めて、俺のものになって……?』



彼の甘やかで柔らかい声が心の一番奥に辿り着いた瞬間から、俺の人生はやっと俺のスピードで動き出した。

何年経っても、そう思えるんだ。


















俺と潤は新興住宅地の同じ区画で育ったいわゆる幼なじみだった。
周りには同じくらいの年頃の子どもも多く、家の前や近所の公園でみんなでよく遊んでいた。
2個下の潤は小さい頃は女の子に間違えられることもあるくらいかわいくて、それが少し年上の子どもたちには時にからかいの対象になっていた。
弟妹ができる前から兄貴気質だった俺はそんな彼を放っておけずに助けてやったり面倒を見てやることが増えていき、一緒にいることが自然と増えていった。
いちいち言わなくていいと言っても「翔くん、ありがとう」とにっこり笑って感謝の気持ちを伝えてくれる彼は本当にかわいくて、俺の中では友達というよりも守るべき存在になっていた。

小学校に上がっても時間が合えば外で遊んだり、お互いの家を行き来したり、時には晩御飯をご馳走になることもあるくらい学年が違っても一緒にいた。
それが変わっていったのは俺が中学に入学してからだろう。
新しい仲間たちに出会い、部活動に勤しみ、学習面でもトップクラスをキープし続けるくらい勉強する日々には潤との時間の入れる隙間はほとんどなかった。
初恋らしい初恋を経験する前に女子からモテるようになった俺は仲の良かった子と付き合うようになり、部活のない日に一緒に帰ったり遊んだりするようになった。
彼のことを忘れていたわけでも蔑ろにしていたわけでもない。
でも、あの頃の俺たちにとっての2学年差というのは結構大きくて、それこそ住んでいる世界が違うと言ってもいいくらい断絶された世界にいて会わないことが当たり前になっていった。
だからこそ、中学の入学式で潤を久々に見た時に俺は息が止まるほどの衝撃を受けた。
今ならそれが恋愛感情からきたものだということが分析できる。
でもその時の俺には自分の感情がわかるはずもなく、ただ彼を遠くから見つめて煩いくらいに鳴る心臓の音が早く鳴り止まないか必死に祈ることしかできなかった。

彼は俺と同じ部活に入り、俺たちの生活圏は再び重なるようになった。
それでも、結局2学年差の壁が立ち塞がり、俺は同学年の仲間と登下校を続けたし練習中に新入りの1年生と3年生が話すなんてシチュエーションはそもそも存在しなかった。
だから、いつだったか家に入る前に遠くから名前を呼ばれて本当にびっくりした。
潤が俺の名前を呼んでくれたことが久しぶりすぎて信じがたくて、急いで門の外に出た。
小さい身体に大きなバッグを背負って息を切らせて走ってくる彼の姿はただ眩しかった。

「どうしてもわかんない課題があって……後で聞きに行ってもいい?」
「うん、いいよ。飯食ったら来いよ」
「ありがとう翔くん」

その日から、潤は部活のない土日に家に来るようになった。
最初は課題を手伝っていたけれど、勉強しないで映画を見たりゲームをやるだけの日も増えていった。
潤から向けられる好意と憧れと尊敬の眼差しは昔と変わらず擽ったくて嬉しかったけれど、内心戸惑いもあった。
彼が俺にくれるようなプラスの感情と同じ熱量のプラスの感情を自分も彼に注ぎたいという気持ちと、そんなことをしたらどうなるんだろうという漠然とした不安が綯い交ぜになって、いつしか彼といても気持ちが落ち着かなくなっていった。
そうして受験を迎えることになる。

潤と離れたくない気持ちも、離れてしまいたい気持ちも、同じくらいあった。
不安定だった気持ちに蓋をして受験勉強にエネルギーを全注入した俺は、全国屈指の名門校に合格したのだった。















こそこそと戻ってまいりました。
お話も放置のまま、なかなか書く気持ちになれないままだったんですが、じゅんくんごとはちゃんと追っかけております。
正三角関係も運がいいことに観に行けました。
ごくせんの配信で久々に沢田慎を浴び、そのままモモちゃんを見に行き、ネトフリで最強にカッコいい演出家松本潤に倒され、最近はVoyageもちょこちょこ見たりと時間がいくらあっても足りなくて…
これで翔潤がもっと供給されれば最高なんですけどね…😌
じゅんくんのお誕生日に合わせて短編upします。
お暇潰しになれば…😆

ソユ