「……翔くん……」
「……なんだよ」
俺が近付いても翔くんはそっぽを向いたままだ。
正面に回るとやっと俺のことを見てくれた。
俺はいままで悩んでいたいろんなことが思い出せなくなるくらいどうでもよくなっていた。
ただ、目の前にいるこの人に想いを告げたいと思った。
「俺、翔くんが好きなんだ」
言葉に出してみると、どうしてこれまで言わなかったのかと考えてしまうくらい自然なことのように思えた。
俺の気持ちは俺のもので、他の誰かが翔くんを好きだろうが、もっと言うと翔くんが誰を好きだろうが関係ないんだ。
「翔くんのことどうでもいいわけないだろ。誤解されるのだけはやだよ俺」
俺の決死の覚悟の告白を聞いても、肝心の翔くんは表情を変えずにじっと俺を見たままだ。
返事をもらおうと思っていたわけではないけどさすがにこの沈黙は気まずいし、リアクションがなさすぎるのも気になる。
……もしかして聞こえてなかったとか？
「……翔くん、あの、俺の話聞こえて……」
「聞こえてた。それはさすがに」
「……じゃあ、えーと……」
「……」
「まあいっか。帰ろ翔くん」
「いや帰れないだろ！ちがうごめん。お前が訳わかんないこと言うから……」
「え？好きって言ったのわかんなかった？」
「そういう意味じゃねーよ。だって信じらんないだろ、好きとか言われたって……。そもそも俺のこと好きならなんで女とくっつけようとしたんだよ」
「…………だって、そんな、女のコにはかなわないと思ったから……」
「お前さあ、俺からしたらお前がそんなことしてる時点で俺に気持ちなんてないんだなって思うだろ」
「……？そう、だね」
「なんなんだよほんとに」
「……ごめん」
……これって怒られてる？
なんか怒られてる気がする。
勢いで謝っちゃったけど、俺なんで謝ってんのこれ。
告白して怒られるって、さすがにかわいそうなんじゃないのか俺。
「……あのさ、そんな怒んなくてもよくない？」
「怒ってねーよ」
「怒ってんじゃん」
「怒ってない！びっくりしてリアクション間違っただけ。嬉しいに決まってんだろ」
「あ、そう……」
嬉しいって言ってくれるんだ、そこは。
嬉しいって思ってもらえたんなら、いいのかな。
これからも変わらず仲良くしてくれるってことかな。
「ありがと、翔くん」
「……うん」
「じゃ、帰ろっか。みんな待ってるし」
「ちょっと待て！話終わらせんな！俺まだなんも言ってないだろ！」
「え？なにが？」
「俺もお前が好きだとかそーゆーやつだよ！知りたくないわけ？」
「だって翔くん好きな人いるって言ってたじゃん」
「それお前のことだから！鈍感！どんだけ俺のこと振り回すんだよマジで」
「え？俺？好きな人って俺のことだったの？」
「デカい声出すなよ。つーかなんで気付かないんだよバカ」
「翔くんだっておんなじじゃん。俺の気持ち気付いてなかったくせに」
「お前は余計なことしてただろ！わかるか！」
「だってしょうがなかったんだよアレは」
「俺の立場になってみろよ！かわいそうなのは俺だろ」
どうやら俺たちは両想いだったってことらしい。
それは予想外に喜ばしいことなんだけど、この状況はちょっといただけない。
「……翔くん、もうやめよ」
「……うん。やめよう。なんかごめん」
「……じゃあ、今度こそ帰ろっか。手つなぐ？」
「つなぐか！」
「……嫌なんだ」
「……嫌とかじゃないけど」
「まあ、そうだよね。抵抗あるか」
ド深夜で人はいないとはいえ、ここは外だし俺たちは男同士だし、翔くんは意外と堅物だったりするからそこは無理なんだろうな。
俺は翔くんが嫌がることはしたくないし、付き合えるだけで（付き合うってことでいいんだと思うけど）満足だから、別にこんなことでいちいち傷付いたりしない。
ただ、少し寂しかっただけ。
なんか全くコイビトらしい雰囲気にならないし、帰ったら３人がいるわけだし……。
でも、もともと友達の俺たちなんだから、ゆっくりでもいいのかもしれない。
そのうち翔くんの堅物なとこも柔らかくなって、いずれ諦めて手もつないでくれるようになるかもしれないし。
まあそれはそれで楽しいかもしれないなと思って、帰ろうと再度促そうとしたら、いきなり翔くんにキスされて俺はひっくり返るかと思うくらいびっくりした。
「……え？」
「……マジで好きだから」
「…………あ、うん。俺も」
「行こーぜ」
まだ若干情報を処理しきれていない俺を置いて、翔くんはさっさと公園の出口に向かって歩いていく。
キスは一瞬だったけど、まだ翔くんの感触が残ってる。
気持ちが通じ合った実感が湧いてきて、身体中が嬉しさでいっぱいになっていく。
「待って翔くん」
置いていかれないように翔くんの隣めざして駆け出した。
「……あれ？」
翔くんちに帰ると３人の姿がなかった。
靴もないしおかしいなと思って部屋を見渡すと、テーブルの上に紙切れが置いてあった。
「『用事あるから先に帰るねー！鍵はポストに入れとくー』だって……」
「なんだそりゃ」
わけがわからないままとりあえず買ってきたものを冷蔵庫に入れていると、「潤、ちょっとこっち来て」と呼ばれた。
近付いて見せられたのはスマホのLINE画面。
「……え？ちょっと、これ……」
「……なんかアイツらに全部バレてたっぽい」
『うまくいったみたいでよかった♡』
『よくて告白までかなって思ってたけど』
『まさかね』
『公園でね』
『チューするとは』
『めでたい』
『おめでと』
『よかったよかった』
『お幸せに♡』
……つまり、アイツらには俺たちの気持ちはバレてて、俺はうまく動かされてて、おまけにあの現場まで見られてたってことなのか？
普段色恋沙汰には興味ないって感じなのに、一番よくわかってたのはあの３人だったっていうのか。
「……なんかくやしい……」
「まあ、とりあえずアイツらが戻ってこないってことはわかったからいいじゃん」
「なにが？」
「キスの続き、する？」
翔くんが悪い顔してニヤリと笑って、俺は動けなくなる。
ゆっくり進むのかなと思っていたのは俺だけだったのかもしれないと思い、俺は目を閉じた。
END
アオゾラペダルのPVで恋愛班にまったく絡んでこない３人の方が実はよくわかっていたっていう妄想でした笑
でも、あのPVで女の子に「行けって」って促す潤ちゃんがカッコ良すぎて今さら恋しそうになりました。
やっと潤くんの次の仕事が解禁になって、日々の彩りが戻ってきました！！
途中のままのStillもちょこちょこ書いていこうと思っているので、書きあがったらまた遊びにきてくださいね♡
ソユ