Storm最後の学園祭ライブの日がやってきた。
その日はライブの前に翔が校内を案内してくれることになっていたので待ち合わせ場所で待っていたら、沢山の知り合いの相手をしながらこちらにやってくる姿が見えた。
合流した後に出店ゾーンを歩いている時も、本当に色んな人から声がかかっていた。
 
 
 
 
 
「……お前ってすごいな」
「なにが?」
「友達の数」
「ああ。まあみんなでワイワイってのが好きだからなー。あとはバンド効果だろ」
「なんか高校の頃思い出した。あの時もみんなの中心って感じだったもんな」
「お前が友達になってくれなかった時な」
「いや、なんでわざわざ俺に構うんだ?って思ってた。そっちでつるんどけよって」
「ははっ。なんか信じらんねーなー、今の状況が」
「バンドやってるからじゃないよ」
「ん?何が?」
「お前の周りに沢山人が集まるのは。昔からそうだろ。きっとこれからもそうだよ」
「……」
「コレうまいんだけど。もう1個食べていい?」
「……全部食べていいよ」
 
 
 
 
 
高校の時から、彼は本当に変わらない。
きっとこれからも変わらずに、逆境は全部跳ね返して、周りにはそんな素振りは見せずに明るく前向きに自分の道を進んでいくんだろう。
だからみんな彼のことを好きになるんだと思う。

 
 
 
 
 
「そろそろ時間だろ?頑張れよ」
「最前列で見てくれるならファンサするけど」
「いらねーよばーか。じゃあな」
 
 
 
 
 
あっという間に人混みの中に彼は消えていった。

俺はStormのライブはいつも後方で見ていた。
いつも後ろの観客まで気を配って盛り上げようとする彼らのパフォーマンスもあるけど、観客席が幸せなオーラに包まれていくのを見るのが好きだからだ。

後ろだってどこでだって、お前のこと見てるよ。
俺はお前のファンなんだから。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
Storm最後の学園祭ライブは、一言でいうと多幸感で溢れていた。
いつものライブとは違って、メンバーと観客が共有しているものの強さがいたるところで感じられた。
それは例えば『このキャンパスで出会った仲間』『愛校心』『キャンパスライフへの惜別』といった、“青春の共有”のようなものだったり、『“俺たちの”Storm』というファンからの愛なんだと思う。
そういったものをすべて受け止めた上で、彼らは彼ららしく音楽を思い切り楽しんでいた。
もう何ひとつ悔いはない、最高だという叫びが聞こえてくるようだった。
だから人を感動させられるんだ。

俺は、彼らのように全力を出し切って生ききる人生を送りたいと心の底から思った。
自分がそうしないと、誰かを感動させる音楽をつくるなんて絶対にできないはずだ。

……やっぱりアメリカに行こう。

大人になって現実を知って、余計なことを考えたり不安になって楽そうな道を無意識に選ぼうとしていた。
音楽の道に進みたいと思った過去の自分の気持ちを思い出して、最大限のチャレンジをせざるを得ない環境に身を置こう。
本気でやるって過去の自分に誓おう。

そしていつか夢を叶えたら、笑顔で彼に会える気がする。
お前のおかげでここまで頑張れたよって。
それで、お前のことが好きだったんだってもし言えたなら、俺にとってそれは最高のハッピーエンドだろう。

本気で好きになれた上に、人生を前向きに進もうとするきっかけまでくれた彼には感謝しかない。

これが、俺にとっては精一杯の恋愛の形だった。



















「今日、翔くんのライブ行ってたんだろ?どうだった?」
「……さすがStormってライブだった。あの人たち、ホントすごいんだよ」
「へえー。やっぱり解散前に一回見ときたいなあ。今度連れてってよ」
「うん。翔も喜ぶと思うよ」

彼はこの店でもよくリリックを書いていた。
ジャズも好きになったと言っていて、色々教えてほしいと聞いてきたりリクエストをしたり楽しんでいた。
こうやって俺の大切な場所で大切な人たちが繋がっていくのは嬉しかった。

「マスター。俺、やっぱりアメリカに行くことにした」
「……そうか。内定蹴るのか」
「うん。ずっと目標にしてたし、後悔したくなくて」
「お前らしいと思うよ。頑張れ」
「……ありがと」
「……翔くんには話したの?」
「……まだ」
「ちゃんと話しろよ?翔くんだって寂しいと思うし……」
「……どうだろ?アイツ友達いっぱいいるし、俺いなくなったところでって感じなんじゃないかな」

マスターからの返答がないので、聞こえなかったのかなと思って振り返ると、怒ったような表情をして俺を見つめていた。

「……今翔くんの1番近くにいるのは潤だろ?」
「……」
「翔くんが寂しくないわけないだろ。そんな風に言うんじゃないよ」
「……うん。そうだね。ごめん」
「……俺だって潤がいなくなるのは寂しいんだからな」





俺ははっとした。
ずっとひとりだった俺は、誰かに別れを告げるということを今までしたことがなかった。
でも今、さよならとありがとうを伝えたいと思う人が何人か思い浮かぶ。
自分にも大切な繋がりができたんだと思うと胸が熱くなった。





翔にも、別れを告げる時がくる。
彼にもきちんとありがとうとさよならを伝えなければならない。

その時のことはまだ想像できなくて、思いを振り払うようにホールに戻った。