今日はバイトの打ち上げの後、そのまま朝まで2次会、3次会と参加するつもりだった。
音楽仲間との飲み会は楽しいし俺はこういう場を大事にしてきたけど、今日は翔のことが気になってしまい大勢でいられる気分ではなかったので1次会で抜けることにした。
いくら自分の家とはいえさすがにルームシェアしている家に女を呼ぶことはしないだろうし、家に帰っても大丈夫だと思う。
……今どんな子といるんだろう。
かわいいタイプでも、綺麗な子でも、彼にはどんな女の子でも似合うだろうと思った。
俺にするように、楽しく会話して、優しく話を聞いて、キスしたり触れたりしてるんだろうか。
自分がそれを望んでるくせにモヤモヤしてしまう。
つくづく勝手だなと思い酒でも買って帰ろうとコンビニに入ると、さっきまでのモヤモヤの原因がいてびっくりした。
今日は別の誰かといると思っていた彼と同じ家に帰れることは素直に嬉しかった。
彼も今日のイベントは楽しかったみたいでテンションが高くて、帰り道の間ずっと話が尽きなかった。
久々にゆっくりの家飲みだから最高の状態で始めたくて、彼をシャワーに追いやってからBGMを流してツマミとグラスを用意する。交代でシャワーを浴びて乾杯した。
色々話しているうちに、今日の打ち上げでStormの話題が出たことを思い出した。解散はもったいないと皆口々に言っていて、俺は内心誇らしかった。
俺はStormの音楽もメンバーの皆も本当に大好きだったし、最後まで応援して見届けたいと思っていた。
解散は寂しいけれど、彼らが最後にどんなライブをして、それぞれがどんな次のステージに向かっていくのかを追っていけるのは楽しみでもあった。
できれば、これからも付き合いが続けば嬉しいなと思う。
こういう何気ない時間を、たまにでも作れたら、それで。
……満足、できるのか?
せっかく楽しく飲んでいたのに思考が後ろ向きになりそうだったのでストップをかけるためにグラスの酒を煽る。
テーブルにグラスを置いたついでに彼に目をやると、彼が俺を見ていたことがわかりドキッとした。
逸らしたくてもそうさせないような瞳の力強さに俺は怯んだ。
「……なんだよ」
「……別に?」
「見てんじゃねーよ」
「見てるだけだろ」
「用がないなら見んな」
「なんで?別にいいだろ」
「気になんだろ」
「気になるんだ」
「そういう意味じゃない」
「そういう意味って?」
彼がどんなつもりで会話をしているのか意図がわからなくて混乱する。
一緒に慎重に積み上げてきたものを崩そうとしている彼にやめるように目で訴えても跳ね返されて、いてもたってもいられず立ち上がろうとしたところにかぶせるように言葉を投げかけられる。
「意識してんだ?俺のこと」
「なんでそうなるんだよ」
「じゃあ、あの日のことでも思い出してた?」
「……なんだよあの日って」
「言っていいわけ?」
「言わなくていい」
「ヤったこと思い出してたんだろ?」
「ちげーよ!」
「俺とシタかったんだ?潤くんは」
「はあ?」
「忘れられなかったんだ?」
「それはお前だろ!」
もう、俺らの間にある空気は危うくてどうしようもなくなっていた。
壊されるのは嫌だったのに、壊して欲しいという気持ちが湧き上がってくるのを、俺はもう無視できなかった。
「じゃあ、そういうことでいいよ」
「……翔……」
「忘れられなかったってことで」
あの日以来のキスは、あの時よりも甘くてすぐに溶けていった。
俺はまたこうしたいとずっと思っていたことに気付かされて、そんな自分をごまかすように彼の名前を呼んだ。
俺の髪をいじっていた手をそっと離して身体を起こす。
「……どこ行くの?」
「……シャワー」
彼の視線を感じたけど、振り返らないようにしてベッドから滑り降り、そのまま部屋を出て洗面所に向かう。
熱いシャワーを頭から浴び続けても、彼の感触は残ったままだった。
鏡に映る自分の首筋には赤い痕がつけられていて、また俺はしばらく彼のことを忘れられないのだと思った。
彼は終わった後に、俺を抱きしめて離さなかった。
もしかしたら、彼は俺のことを友人以上で見ているんだろうか。
そうだとしたら、俺たちはどうなるんだろう。
思いを伝えたとして、向こうも同じ思いだったとして、付き合うってことになるんだろうか。
……ならないだろうな。
なったとしても、それはやっぱり一時的なものなんじゃないか。
彼が音楽の世界から離れて自分の世界で生きていくようになったら、きっと目が覚めて女の子のところに戻るに違いない。
彼の部屋のドアを少しだけ見つめて、自分の部屋に戻る。
彼が部屋を出てシャワーを浴びる音が聞こえて、布団の中に潜り込んで寝てしまおうと急いで目を閉じた。
洗面所を出た彼が自分の部屋に入っていく音が遠くで聞こえて、それでいいと思った。