(アデイはもう書けないかもしれません…すみません。)

高校生~大学生くらい

しょうはチャラかった時代。バンビ。金髪。最高。

じゅんは沢田慎~耕二のイメージ。最高。

時代はそのまま彼らの年齢の時代で。あのころ。あのころじゃないと私が書けない笑

2日に1回ペースの更新目指します。

 

 

 


 

 

同級生になんか気になる人がいる。

 

こんなことを言ったもんなら周りから何を言われるかわかったもんじゃないから言わないけど、実は1年の時から気になる人がいる。

と言っても別に恋愛の意味での「気になる」ではない。そもそもの話そいつは男だ。

本人が自覚しているかはわからないが、彼は俺の学年では有名人だった。

 

ほぼ毎日遅刻してくる。休むことも多い。毎年ギリギリで進級しているという噂。

学校で誰かとしゃべっている姿は見たことがない。誰ともつるまない。いつもひとりでいる。

遅刻してくるからか彼の席はいつも一番後ろの窓側で、休み時間は大体寝てるか窓の外を眺めてる。そして耳にはイヤホン。

行事は大体不参加。修学旅行すら欠席。体育祭なんかは練習から来てなかった。

たぶんここまでだったら大概の学校に何人かいるちょっと変わったタイプに当て嵌まるんだろう。

でも、彼はびっくりするくらいの美形だった。学校で一番とかいうレベルではなくて、それこそ芸能人でも通用するんじゃないかってくらいの美形だった。

そのせいか彼にはいろんな噂があった。実は昔子役だったらしい。外でバンドをやっているらしい。女をとっかえひっかえしているらしい、などなどその類いのものは山ほどあった。

 

俺は一度もクラスメートになったことはないから、もちろん一度もしゃべったことはない。

無遅刻無欠席を自分の至上命題と課し、学校生活を青春の場として謳歌する立場の自分には彼の生き方はまったく理解できなかった。

でも、たまに廊下から見る彼の横顔はどこか寂しそうに思えた。

遠くからでもわかるくらい大きくて印象的な彼の瞳が何を見ているのか知りたかった。

でも、高校生活もあと半年で、いまだに接点はゼロで、登下校もかぶることはなくて、もちろん話しに行くきっかけもなくて、このまま彼はただの気になる存在で終わるんだろうなと思っていた。

卒業したらきっと彼のことも忘れていくんだろうと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっかけとやらは突然やってくるもので、俺は本当にびっくりした。

受験勉強の息抜きに出かけようと乗った電車に彼がいたのだ。

車内は座席の半分くらいが埋まっている状態で、すぐに降りる予定だった俺はそのままドア付近の角におさまり何気なく顔を上げると、反対側に彼がいた。

彼は黒の私服姿だったけれど、やっぱり耳にはイヤホンがはまっていた。

俺は思わず「あ」と言ってしまったけれど、その声は届いていないようで、彼はずっと窓の外を眺めていた。

この場所を離れるか少し迷って俺はこのまま彼の方を見続けることに決めた。

彼が気付けば話しかければいいし、気付かなかったら気付かなかっただ。

はたして彼が俺を見てどういうリアクションをするのか、俺はわくわくしていた。

 

乗った電車は急行で次の駅まで少し時間はあるのに、彼はなかなかこちらを向かなかった。

こんなにも視線を送っているというのに何も気付かないとは。

どうしたもんかなと思っていた時に、電車に急ブレーキがかかった。

思わず車内を見回すと、車内にも動揺した雰囲気が漂っていた。

「危険を知らせる信号を受信した」という緊急停止のアナウンスが流れて、この電車自体に何かあったわけではなさそうだと思い、ほっとして身体を元の位置に戻すと、向かいにいた彼と目が合った。

 

もし目が合ったら何と話しかけようかずっと考えていたのに、全部吹っ飛んだ。

目が離せなかった。

こんな感覚は初めてで、硬直したように動けなかった。

どれくらいそうしていたかはわからなかったけど、とにかく何かしゃべらなきゃと思った。

そうでもしないと、彼がもうこっちを見てくれることはないような気がした。

 

「あの、大丈夫だった?」

「……え?」

 

眉間に少し皺が寄って険しそうな表情になった。

美形が眉をしかめるな。怖いだろ。

そう思っていたら、彼がイヤホンを片方外した。

あ、聞き取れなかっただけなのかな。

わざわざ外してくれた?

 

「いや、急ブレーキかかったから……」

「……ああ」

「……」

「……」

「……松本、だろ?」

 

俺から外されていた目線がゆっくりと戻ってきた。

表情は読めない。俺を認識しているかどうかは全くわからない。

 

「俺、同じ高校なんだけど……。3Bの櫻井。知らない?」

「……」

「知らないか。同じクラスになったことないし……」

「……知ってる」

「え?知ってんの俺のこと?」

「……声でけえな」

 

今度こそ本当に眉間に皺。

イヤホンを戻そうとして俺との会話を終わらせようとしたことがわかって、俺は急いで会話を続けた。

 

「ホントに俺のこと知ってんの?」

「……だってあんた有名人じゃん」

「は?」

「入学式の挨拶とか、応援団長とかもあんたじゃなかったっけ。うちの学年じゃ一番目立ってんじゃねえの?」

「まあ、そうなの、かな?目立ってるかどうかは謎だけど」

 

うちの学年で一番謎なヤツと、いま俺は会話をしている。

そしてソイツは俺のことを認識していた。

やばい。テンションあがる。電車が止まって良かった。マジでラッキー。

 

「なあ、これからどこ行くの?誰かと待ち合わせ?」

「……」

「もし予定ないならさ、メシでも食べ行かない?」

「……」

「俺はこれから渋谷に行くんだけどさあ、一緒に……」

「行かない。予定あんだよ」

「……予定……」

「……なんだよ」

「じゃあ、友達になろうぜ」

「は?」

「え?だめ?」

「無理」

 

そのまま立ち去ろうとする彼を必死に止めて、もう静かにしてるからごめんと謝ってなんとか戻ってきてもらった。

友達になるいい機会だと思ったのに仕方ない。

 

「あのさ、静かにしてるからさ」

「……」

「イヤホン、半分貸してよ。俺も聞きたい」

 

は?って顔で俺を見てる。

でも、少ししてイヤホンを貸してくれた。

たぶんここで貸さないとずっと話しかけられると思ったんだろう。

多少めんどくさい人だと思われるとしても、俺は距離を縮める方を選ぶ。

彼の嫌そうな表情は見てみないふりをしてありがたくイヤホンを装着した。

 

ずっと気になっていたことのひとつ。

彼はどんな音楽を聴くのか。

ロックとかパンク?バンプとかコブクロとかは聴かないだろう。椎名林檎とか聴いてそうだけど……。

 

『ミスチル?!』

 

自然と肩を並べる形になっていたので、思わず隣りに目をやると、彼も視線を寄越してきた。

 

「……なんだよ?」

「いや、ミスチルとか聴くんだと思って」

「なに?ヘビメタでも聴いてると思った?」

「否定はしない」

「……ミスチルは日本人みんな好きだろ」

「たしかに。俺も好きだわ」

「そうかよ」

 

でも、この曲の後はきっちりパンクロックだったから笑ってしまった。その後はマイケルジャクソンとビートルズと山下達郎と椎名林檎と続いた。

距離が近付いたような気がしたけど、電車が動き出すと彼はさっさと目的地で降りてしまった。

 

何の約束もしてない。番号だって交換してない。

たぶん明日学校で見かけても、彼がこっちを見てくれることはないんだと思う。

それでも俺は嬉しかった。

誰かに話したいけど話したくないような、ずっと秘密にしておきたいような、そんな不思議な感覚だった。