エピローグ
ーー本日はインタビューのお時間をとっていただきありがとうございます。陛下にお話を伺えることを楽しみにしていました。よろしくお願い致します。
ああ。よろしく。
ーーますは和平締結おめでとうございます。ようやくの実現ですね。三代に渡っての念願が叶った今の率直なお気持ちをお聞かせください。
すべての国民に感謝している。長年多大な苦しみと負担と犠牲を強いてきたことを心からお詫びしたい。これからはこの和平を恒久のものとするため、統治者として努力していきたい。
……長い付き合いの君にだから聞くが、さっき、「三代に渡っての念願」と言っていたな。
ーーはい。先々代、先代、そして陛下の三代という意味で申しました。違いましたか?
いや、それで正しい。世間の認識もそうだろう。祖父、父、そして私だ。だが……
ーーどうぞ、お話しください。
話してもいいが、記事にはできない話になる。仕事にならないだろう?
ーー和平が相成り、ようやくお話しになれるとお思いなのでしょう?聞いたことは私の胸にしまっておきます。
……そうか。そうだな。私も誰かに話したかったのかもしれない。
君、私に兄がいたことを覚えているか?
ーーもちろん覚えています。あれは衝撃的な出来事でしたから……。王位継承権を自ら放棄し民間人になった方を私は他に知りません。
確かに兄が初めてだっただろう。兄は、世間では突然王位継承権を放棄して婚約を破棄し民間に下るという……好き勝手生きた人間だと認識されている。しかし彼にも事情があったのだ……。
ーーそれは、どのような……?
今から30年ほど前の話になる。兄は戦場で大切な人を亡くした。その人は兄が子どもの頃に引き取った戦災孤児で、城に住まわせ、兄弟のように一緒に育った人だった。私も小さい頃、彼に遊んでもらったことを覚えている。その人が、敵の子ども兵の自爆テロに巻き込まれて亡くなったのだ。
ーー子どもの自爆テロ、ですか?
昔はそのような酷いことが行われていた。彼は子どもの爆弾を外そうと助けに行ったが、間に合わなかった。それからしばらくして、兄は王位継承権の放棄と民間人になりたいと言い出した。自分は前線に身を置いて国民とともに闘いたい。そして孤児となった子どもたちの世話をしたい。王族の立場ではそれが思い切りできないと。もちろん父だけでなく皆が反対した。我々にしかできない役割がある。兄の使命は平和な世をつくることだと。兄は、それこそ自分でなくても良い、弟たちに託すと。知ってしまったからには、もう見て見ぬふりはできないと。そうしてここを去って行った。
ーーまったく知りませんでした……。あの頃、婚約破棄は国際問題にも発展したのではなかったでしょうか。
国交断絶寸前までいったようだが、父たちがそれこそ死力を尽くしたらしい。私は兄よりも10歳下だったから当時のことをすべて覚えているわけではないのだが、『お前にすべて押し付けることになってすまない』と苦しそうに謝られたことは忘れられない。
ーーその後、お兄様は本当に前線に身を投じられたのですか?そのような話は聞いたことがないので……。
国のトップシークレットになっていたからだろう。王室を離れた兄と会うことはできなくなったが動向は掴んでいたし、人を介して文を交わすこともあった。兄は15年ほど前に戦死するまで、強いリーダーシップで周りを鼓舞し続け、皆から慕われる存在だったらしい。そして孤児への支援をライフワークにしていた。兄は……私にとっては今でも自慢の兄だ。
ーーお兄様は、陰で陛下を支えていらっしゃったんですね。
兄だけではない。この和平の実現には国民一人ひとりの血の滲むような努力と犠牲があったのだ。国民に感謝しているとはそういうことだ。
……まだ兄について聞きたいことがありそうだな?
ーー陛下はすべてお見通しですね。いえ、やはり考えれば考えるほど、お兄様の行動が信じられず……。王の地位も、財産も、名誉も、信頼も、すべて捨ててしまえるほど、大切な人を失った、ということなのでしょうか……。
……川沿いに桜並木があるだろう?あの中の一本の根元に、兄は彼の遺品を埋めたんだ。兄は一度だけその木に私を連れて行ってくれた。そして言われたんだよ。いつか自分が死んだ時は、ここに骨を埋めてほしいと。
ーーでは、今は同じ木の下に?
きっと天国で今頃一緒にいるだろう。もしかしたらもう生まれ変わっているかもしれないな。今度こそ武器を持たずにいられる世界で、穏やかに共に生きていってほしい。
ーーおふたりは、本当に強い絆で結ばれていたのですね。
その絆のことを、愛と言うんじゃなかったか。
私が知っている限り、彼らに一番当てはまるのはその言葉だよ。
『翔くん、待ってたよ』
『潤、会いたかった』
『俺ね、ずっと翔くんに言いたかったことがあるんだ』
『俺もだよ。なに先に死んでんだよ』
『……ごめん。ごめんね』
『もういいよ。好きだよ、潤』
『え?俺のこと?』
『そうだよ。知らなかった?お前は俺のこと好きなんだろ?』
『え?!』
『ほら、行こうぜ』
『ちょっと……ちょっと待って!俺、ちゃんと言いたいから、ね、ちょっと待って』
『じゃあ、ハイ、どうぞ』
『……翔くん、大好きだよ。ずっと前から……翔くんだけだったんだよ……』
『……俺もだよ。もうずっと一緒だな』
『……うん』
『じゃあ行くか』
『うん!』
END
悲しい内容の話を書くつもりはなかったのに書いてしまいました。
いやな思いをさせてしまったかもしれません。
そんな中で、メッセージで感想をくださった方、どれだけ励みになったかわかりません
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ソユ