もしかしたらこれは人生初の告白ってやつなのかもしれない。
しかも玉砕覚悟の告白ときてる。
告白したこと自体はある。でもそれは自分から言った方がいいだろうなと思ってやったことだったから潤への告白とは全然違う。
好きな人に好きな気持ちを伝えるということが、どれだけ勇気がいることか。
こんなにドキドキして、でも伝えられたことが嬉しくて、心があったかくなるようなことだったなんて知らなかった。
清々しい気持ちの俺とは違って、潤は固まっている。
目が点になるって、こういうことなのかな。
かわいいな、と思ったら彼の頬に手が触れていて我に返る。
キスをしようとしていた自分に気付き、さすがにそれはないだろうと思わず苦笑して手を離した。
夏の海にはそぐわないほどの白い肌は、想像以上に熱を持っていた。
「……ちょっと、確認してもいい?」
「……どうぞ」
「……好きっていうのは、友達として?」
「違うね。恋愛の方」
「……中学の時に、好きだったってこと?」
「そう。でも、あの時は自分の気持ちがわかってなくて、後から気付いたんだ」
「……」
「馬鹿だよな。最初から潤は他の友達とは全然違ったのにさ」
もし、あの頃、自分の気持ちにちゃんと気付いていたら、俺たちはどうなっていたんだろう。
両想いだったわけだし、付き合ったりとかしたんだろうか。
案外お互い恥ずかしくてそれまでと変わらなかったかもしれない。
離れることになって、遠距離になって、もしかしたらそのまま自然消滅とかしてたかもしれない。
それを考えたら、今の状況はそんなに悪くないのかな。
「……それじゃあ、あの時両想いだったんだね」
「そういうことだね」
「そうだったんだ……。俺の青春も悪くなかったのかも。初恋実ってたんだもんね」
「初恋だったんだ?」
「本気のやつはね」
「本気じゃないのって何だよ」
「ほら、幼稚園の先生とかそういうの」
「あー、じゃあ、俺もそうかも」
「青春してたんだ、俺たち」
明るいトーンで紡がれる台詞と笑い声。
でも、潤の視線は海に向けられたままで、俺の方は見てくれない。
「他には?」
「え?」
「確認したいこと」
「……もうないよ」
「今も好きなのかって、確認してくれないの?」
「……」
「こっち向いて」
また口を噤んでしまった潤を辛抱強く待っていると、身体ごと俺に向き合ってくれた。
こういう律儀なところも彼の長所のひとつだ。
「……今も、って、本気で言ってるの?」
「本気だよ」
「それは違うんじゃないの」
「なんで?」
「だって……何年経ったと思ってんの?翔くんが好きだったのは中学の俺でしょ?もうあの頃の俺じゃないよ」
「何が違うの?」
「えっ?えっと……見た目も違うし」
「見た目は最高にタイプだから問題ないけど」
「……なにいってんの……?」
「だから、見た目はタイプだって言ってる。他には?」
「……性格だって変わってると思うし」
「どこが?どういうふうに?」
「……よくわかんないけど、たぶん」
「わかんないんじゃん」
「やな奴だよ俺。ずるいこともしてきたし、嘘もつくし、悪口言ったりするし……」
「それは俺も同じだから。誰だってそういうところはあるだろ。あとは?まだある?」
「……」
確かに、何年ぶりかに再会した男友達に、いきなり好きとか言われても困るか。
本当に迷惑ならそれこそぶった切ってもいいところを、ひとつひとつちゃんと考えて話をしようとしているところが、潤らしいというか。
彼の優しさなのか、ただ単に俺の気持ちを信じてもらえてないだけなのか、もしかしたら希望があったりするのか。
潤の気持ちを考えてもわからないから、考えるのをやめることにした。
「あのさ、俺の気持ちなんて信じられないかもしれないけど、でも今のお前を好きだと思う気持ちは本当に本当なんだ」
「……」
「もっと一緒にいたいと思ってるし、馬鹿みたいにずっとドキドキしてるし、何なら下心もあったりするし」
「え?」
まさに絶句、という表情をしている潤に笑いが込み上げてくる。
「これが好きじゃなかったら何なの?逆に教えて欲しいんだけど」
「……」
「俺、お前が好きなんだよ。だからお前と付き合いたい」
「……翔くん」
「誰か付き合ってる人いる?いるなら別れてきて」
「……」
「引いてる?引くよな。大丈夫、俺も自分に引いてるから」
「……」
「正直、お前の気持ちとか考えてらんない。でも、俺と付き合ってくれたら大事にするよ。絶対後悔させない。お試しとかでもいいから付き合ってくれない?」
「お試し……」
「あ……」
もう顔もぼんやりとしか思い出せない同級生が、昔そんなことを言ってきたことを思い出す。
あの告白がきっかけになってあんなことになったんだった。
その時の俺は、相手の気持ちなんか考えもせずに自分の気持ちだけを押し付けてくることが理解できなくて、でも潤はその気持ちがわかると言っていたんじゃなかったか。
恋に必死な姿はみっともないくらいカッコ悪いのかもしれないけど、それだけ誰かを好きに思えるってことはなかなか尊いじゃないか。
ゆっくりいこう。
もう潤が俺の前からいなくなることはないだろうし、それなら俺は気持ちを伝え続けるだけだ。
いつの間にか空が夕焼け色に染まっていた。
「そろそろ帰る?」
「……うん」
「車置いたらさ、メシ食いに行かない?お祝いさせてよ」
「うん」
「……付き合うってことでいい?」
「……うん」
「キスしてもいい?」
「それはちょっと待って」
「ダメかあー」
「あはは」
潤の手を握ると、彼も握り返してくる。
温度がだんだん馴染んでいく感じが心地良い。
「俺も好きだよ。翔くん」
また来年の今日もここに来よう。
ここでまた、気持ちを伝えよう。
君が生まれた日に、君が好きだと伝えられるなんて、どれだけ幸せなことか。
これからもずっと続けていくんだ。
「好きだよ。潤」
END
あとエピローグ1話で終わります。