フィリピンの夜は長い。
踊ることに飽きても、飲むことに飽きても、クラブを出て別の場所に移るという選択肢がない。だって、そこにはそのクラブ一軒しかないのだから。もちろん、移動の足もないのだから。





ジャパニーズ・ボーイズがフィリピーナとよろしくやっているあいだに、私は私でフィリピンの若者たちとフィリピンのパーリーナイトをこれでもかと楽しんでいた。こちらは日本のクラブと違って(といってもあまりサンプルは多くないんだけど)、みんなよく踊る。踊る、というか、踊り狂う。狂ってる。クレイジーに、踊り続けている。見た目はティーンでも、みな器用に腰をくねらせ、お尻をふって、腕を掲げて、セクシーに踊る。男性陣はそれに応えるように、彼女たちの動きに合わせて自分の動きをメイクしていく。点滅するライトのした、熱と汗と奇声と歓声の中にいて、私はクラクラとした目眩を覚えながら(年齢的に体力の限界を感じながら)、いっとき、彼女らとともに狂ったように踊っていた。




といっても、そう若くない私。ティーンたちに合わせて踊っていたらすぐに体力の限界がくる。汗もだくだくだし、喉も渇くし、もう満身創痍。私は曲が変わるごとに輪から外れ、少ししたらまた戻るということを繰り返すようになった。たまに席に戻ったりもしたのだけれど、そこはもう女子は飽和状態だったので(フィリピーナの人数もなぜか増えてたw)喉を潤すだけにして、また席を離れてふらふらとフロア内をさまよったりした。



その間に、何人かのフィリピーノにお酒をおごってもらったりもしたんだけれど、こちらのお酒は薄いのかとても酔えず、私は英語の勉強も兼ねて健全に彼らとの会話を楽しんでいた。個人的にはすごくそれが楽しかったのだけれど、会話が弾み出した頃合いを見計らってジャパニーズボーイズたちの席からフィリピーノの一人がとことっときて、「こんなとこで飲んでないで、こっちおいで!」と連れ戻された。


邪魔すんなよとも思わなくもなかったが、そこは親切心に感謝してすごすごと元の席にもどった。といっても、席に連れ戻されてもとくにすることがないので、またふらふらと踊りにいったり、飲みに行ったり、クラブの外に出て奥さんに逃げられたバンドマントの話をひたすら聞いていたりした。

(このバンドマンの話もおもしろかったんだけれど、それはまた別の物語。)




深夜も3時くらいになって、そろそろお開きにしますかという感じになった。気づかなかったけれど、大通にはジープニーも通っていて、どうやら乗り継いで帰れるらしい。正直、バンドのおっさんの身の上相談にも限界がきていたし、眠いし疲れていたので、帰れるときいて少し嬉しかった。



クラブの外に出て、街灯の下でフィリピーナたちと別れの挨拶をした。ジャパニーズ・ボーイズとフィリピーナたちは、それぞれいい感じのカップルが成立したらしく、さらにどこかへしけこむ相談をしていた。楽しそうでなにより!とおばさん心全開で彼らを祝福しながら、ジープニーに乗って帰ることにした。



そのとき、ふと横をみるとボーイズの一人がやけに落ち込んでいる。顔は白く、全身から負のオーラが出まくっていた。この数時間、お楽しみしたはずなのに、である。




「・・・だまされました。」


遠い目をしながら、かぼそい声で彼がそうつぶやいた。
ぼったくりかなにかにあったのかと思ったのだけれど、そうでもないらしい。



「彼らに、だまされました。」



私は最初なんのことかわからなかったのだけれど、ハグをしている「女の子」たちを見渡してピンときた。なるほど。彼、ら。



そこにポニーテールの可愛らしい「女の子」が私に駆け寄ってきた。先ほどまでその落ち込んでいるボーイの膝の上にいた子である。


「Do you agree or disagree ??」
(あなたは、私たちのこと、認める?認めない?)


彼女、もとい女装した彼の笑顔はとてもくったくがなく、女性の私でもどきりとしてしまうようなチャーミングさがあった。


「Of cource, AGREE !!」

私は彼女たちと大きなハグをしながらこれまでの数時間を振り返った。4、5歳離れた大学生たちとパーティーピーポーでもない私が慣れないフィリピンのクラブに来て、キャバクラとかした席を拠点に踊り狂い、現地人と戯れながらこの空間を楽しみ倒したこと。そして、最後に綺麗にこの素晴らしいオチ。もう、AGREE以外のなにものでもない。Thanks GOD!! Thanks HALLOWEEN!!



「Thank you FRIEND !!!!!」

そう言って華奢な腕を私の首に回しながら、“彼女”は力強いハグを返してくれた。その距離でさえ私は彼女の本当の性を感じ取れなかった。彼女はしっかりと「女の子」だった。




「認識が客体に従うのではなく、客体が認識に従うだけだ。」

昔大好きだった人が教えてくれた言葉が思い浮かんだ。この世の中に絶対的普遍的な客体は存在しない。見る側の認識によって客体はいかようにも変容しうる。



言うまでもないけれどフィリピーナたちの半分はゲイだった。見た目には一切わからなかったし、仕草もすべて女の子のそれだった。ボーイズたちは意気揚々と彼女(彼)らを膝の上に乗せて、ハグをし、キスをした。彼女、もとい彼らと。



「脚を見ればわかります。おしりも固いし、手もゴツいし・・・。」


苦し紛れの言い訳というか、後の祭りというか、苦々しそうにジャパニーズが語る。気付かず楽しんでたやんか!と心の中でつっこみつつ、私はお腹を抱えて笑うしかなかった。

客体は認識に従うだけ。
そこにあるのは、今も昔も、綺麗におめかしした“彼ら”だけ。



「それとこれとは違うんです。。。」

かわいかったからいいじゃんという私に対し、ボーイズはうなだれながら答えてくれた。

人間て本当に面白いなとしみじみ思った。「カレー味のうんことうんこ味のカレーどっちがいい?」なんて小学生のときによく出た命題があるけれど、「すごいかわいい女の子の見た目をした男の子と、すっごくぶっさいくな女の子とどちらとヤりたいか」ってカレー味のうんこ論争と同じなのかなと彼らを見ながらそんなバカなことを考えていた。(例えがまずくてすみません。)




そんなこんなで、フィリピンのパーティーナイトは終了。
汗と酒とタバコにまみれてファームに帰ってきた私たちは言葉少なにそれぞれの部屋に帰っていった。私は明け行く空を見上げながら、楽しかったなーと伸びをしてまたひとしきり思い出し笑いをした。



フィリピンのサタデーナイト、のハロウィーン。

お見それしました。





カイワレ