首都ブエノスアイレスから高速バスで10時間、距離にすると700km以上離れたその村に着いた時、外はまだ真っ暗で月明かりの中、道いっぱいの虫の上をビーチサンダルで歩きながら、映画「インディージョーンズ」の一場面を思い浮かべていました。(魔宮の伝説、ね。)


サクサクとクッキーの上を歩いているような感覚を足に感じながら、気持ち悪さと同時に「遠くまできたなぁ」と謎にしみじみしてしまったのは私なりの海外マジックだと思っています。






2010年2月、私はアルゼンチン北部の小さな村、ベラ・イ・ピンタードにいました。



当時、私は大学1年生で、春休みの一か月弱の間、かの地でボランティアをしていました。ボランティアといっても、学校をつくるとか、井戸を掘るとか“それっぽいもの”ではなく、キリスト教の布教活動の一環で「ミッション」と呼ばれる活動(神父が不在の田舎の村でミサをしたり、家々を回って話をきいたり、一緒に歌って踊ったり)をすることでした。




私は特にクリスチャンというわけではないのだけれど、大学でたまたまインド人宣教師が教鞭をとるクラスを受けていて、その教授から誘われる形で縁あって念願の南米の地を踏むことになったのでした。

小さなころから南米に対して強い憧れがあった私はボランティア募集の告知があったとき、真っ先に学生センターに駆け込み即応募。数か月後には冒頭の通り地球の裏側で大量の虫の上を歩くことになったのでした。



日本からは私を含め日本人5人と日本在住ベネズエラ人宣教師の計6人で渡航し、現地の「ミッショネア」と呼ばれるクリスチャン達40~50人と合流。かなり大きな集団となって村へと向いました。ブエノスアイレスやその近郊の都市から参加するミッショネアたちは老若男女様々で、学生や仕事をもつ社会人の他に家族で参加している人もいました。






そのミッショネアの中にカロリーナという名前の女の子がいました。




カロって呼んでねと笑う彼女はエマ・ワトソン似の美人で、比較的体格の良い人が多いアルゼンチーナの中で、そのすらりとした細身とブロンドのポニーテールはひときわ輝いて見えたのでした。

 


キリっとした表情とたたずまいから、とてもハツラツとした印象を彼女に対してもったのですが、意外や意外、カロはその美しい見た目とは裏腹に超ド級のネガディブでした。それはもう、筋金入りの。



私かその見た目や気配りのできる優しい性格をどんなにほめても、


「私は世界中で一番の不細工よ。わかってるんだから!」


と自嘲気味に笑い、聞く耳を持ちません。
「不細工」だったり「退屈なヤツ」だったりその表現は様々でしたが、とにかく自尊心の低さときたら千葉県の平均標高並みでした。(都道府県別で最下位。←絶対伝わらないw)


私も比較的(というかかなり)ネガティブ女子を自称していますが、それを更に越えてくるあたり、さすが南米スケール。笑


それはもう反射的な反応で、彼女を見ていると日本での自分を見ているようでなんだかとても悲しくなったのを覚えています。







あるとき、村の公園のベンチでカロはこんなことを言い出しました。



「私ね、女の子の“かわいい”に心底、うんざりしているの。」



彼女の言いたいことはなんとなくわかったのですが、適当な英語での返答が出てこなくて、うんうんと相槌をうつだけの私。



「本当に思ってんのかって思っちゃう。男の子の目線を気にして自分をつくってなにが楽しいのかしら。本当に美しいものなんて、そんなに毎日出てくるわけないのに。」


彼女は心底うんざりしたような悲しげな表情でしゃべり続けました。


カロは大学で心理学を専攻していてとても勉強熱心な学生でした。男の子との恋愛に夢中になったり、ファッションに情熱をささげるクラスメイトに対し、カロは自分との考え方の違いに戸惑うことが多いと悩んでいました。 



当時、私は20歳で、カロは19歳。お互い大学に入りたてで、新しい環境になんとなく馴染めず、なんとなく世の中に対して不満のようなものを感じていて、でもそれがなんなのか実のところよくわからなくて、自意識は高いんだけれど自尊心は恐ろしく低い、そんなこじらせ女子同士、言葉はうまく通じあえなくても理解できる部分が多くありました。



「私が不細工だから嫉妬しているだけなのはわかっているの。でも、私は“かわいい”は嫌い。」



嫉妬しているだけ。確かにそうだよなぁと、カロの話を聞きながら、自分に対して言われているようなドキっとする居心地の悪さを感じていた私。

まさか地球の裏側で自分と同じようなところでくずついてる女子に会えるなんて。

どこにいても、自分からは逃げられないんだなぁとその時、強く感じたのでした。







そんなカロですが高校生のときからお付き合いしている彼氏がいました。見た目はお世辞にもかっこいいとは言えないのですが、優しく誠実そうで笑顔が素敵な男の子でした。とてもカロらしいチョイスだと私は思いました。

「私にはもったいないくらいの人なの」と顔をほころばせて彼氏のことを話すときだけ、カロはすごくリラックスした女性の顔を見せるのでした。





ことあるごとに「りかこはいないの、彼氏?」と聞いてくるカロに対し、

「ノ テンゴ “アオラ”(今はいないの、“今”は)」

と「今は!」を強調しておどけながら、二人してケラケラ笑った日々を昨日のことのように思い出します。





あれからもう5年以上たちますが、カロとは今でもたまに連絡を取り合います。


引き続きこじらせ女子な部分もありますが、それなりに大人になれたなぁと確認しあう仲です。




2年前、彼氏と結婚したとメッセージが届きました。写真の中に映る、美貌はそのままのカロと少しふっくらした彼氏はとても幸せそうでした。


そして去年には、目のくりくりとしたどちらかと言うとパパ似のかわいい女の子のママになったそうです。やっぱり美貌はそのままに細い腕に赤ちゃんを抱くカロは少し大人のひきしまった表情をしていました。




メッセージの最後には、必ず「りかこはいないの、彼氏?」と聞いてきます。


そのたびに、私は「ノ テンゴ、“アオラ”‼︎」を繰り返しています。







私の「アオラ」は当分、続きそうです。笑







カイワレ。


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