さぁ。さー!!!
来ました!濡れ場が!!!こういうの恋バナで書くのはじめてなんだよなぁ・・・
恥ずかしい!!ぎゃー!
このお話は、私が中学生の時の恋のお話です。
目次はこちら→http://ameblo.jp/soyonoameblo/entry-10074623562.html
ちなみに高校時代の恋のお話は(完結済)はこちら
冬の海・天使のハシゴ
第十話「揺れる」
ベッドの上に腰を下ろす形になった私の太腿の上にまたがる格好で、先輩はキスを続けた。
されるまま唇を動かしたけれど、頭の隅では少し怖いと思っていた。
先輩は唇を離し。
「なぁ、俺汗臭くない?」
と聞いた。見ると、彼の額や首筋にはうっすらと汗がぽつぽつと吹き出ていた。
ぶんぶん私が首を振ると、
「そっか」
と、後ろ手についていた私の両腕をそっとすくい取った。アッと思う間もなく後ろへ倒れこむ形になった私は腹筋を使って体を起こそうとしたけれど、先輩はそんな私に少し体重をかけるようにして覆いかぶさった。筋肉でずっしりした彼の脚の重量感。
優しく続く行為の中にある、真逆の有無を言わせない荒さ。
彼の首筋越し。窓の向こうに見えた空は、もう日はなくなって紺の夏宵がはじまっていた。
「いやや」
彼の手が、私の肩から少しづつ胸の方に下りてきたのを感じ、私はその手から逃げ背中をくるっと丸めた。
「なんで?」
「いややねん。だっておっぱいないやん」
「そんなんわかってるやん」
言いながら彼は丸まった私の体をよいしょと割って、左手で私の両手首をベッドのスプリングに押し付け、右手は胸にそっと乗せた。
「いややいやや」
私は体を何度もねじった。
胸がないことも、女性の機能がないことも、私にとっては恥ずかしいことだった。きっと嫌われてしまう。やっぱり女の子ではないと嫌われてしまうと思った。
「胸がなくてもあっても、どんなんでも俺は安藤が好きやで?」
その言葉に私の抵抗は力を無くした。先輩に「好き」と言わされることはよくあったけれど、彼に言われることはそれまでほとんどなかったのだ。
「おっぱいなくても?」
「うん」
「女の子じゃなくても?」
「女の子や」
その言葉に私は先輩の首にぎゅっと手を回した。彼の手の動きにあまり意識を集中しないようしがみついた。
「性」のことについてはおぼろげには知っていたけれど、どこか後ろめたいものでもあると感じていた。大人が遠ざけるもの。
友達の間ではあれやこれやと具体的な話も出て来てはいたけれど、皆そういう単語を口にすることで嬉しがっているだけで、その本当のところを十二歳やそこらで知っているものはいなかった。
先輩は繰り返しキスをした。こってりと甘いアイスを何度も舐めるように。
その最中、目を開けると彼の閉じたまぶたと鼻筋、そしてまつげや眉毛が、近く近く見えた。それらも自分の一部分だと思ってしまうほどに近く。
彼を形作るどのパーツも「沢村一志」の細胞で出来ている不思議。何度も見てきたはずの彼の顔が、実はこんな風になっているのだと、唇が動くたびに彼のヒゲの感触を感じながら、ぼんやりと思っていた。
瞬間、先輩の手が私のシャツをまくりあげた。
え?え?と思っているうちに、私にバンザイをさせ、シャツをするりと抜こうとした。
「いやや!」
私はそれを阻止しようと脇を締め、ごろごろ転がり離れた。
わざわざ仮病まで使ってプールを見学するのも、自分の体を誰にも見せたくないからだった。
「俺も脱ぐから」
先輩はシャツを脱ぎ捨て、ただひとつ点いていたベッド脇のスタンドを消した。紺のカーテンをすっと下ろしたように、夜が部屋を包む。
「これで恥ずかしくないやろ?」
「まだ見えるもん」
「見えへんよ」
「見える!」
「じゃあ見いひんから」
彼はヒョイと私の背中を浮かせシャツを抜き取り、長いその手で巻き付くように私をぎゅっと抱きしめた。
背中を反らせた格好になりながら、私は目を閉じた。
あたたかい。
先輩の生の肌はあたたかった。
肌と肌が重なること。薄い皮膚の下に巡る赤い・熱い血を感じること。三十六℃の塊。
「ヘッドロック」
私はふざけながら先輩の頭を自分の両腕で包み込んだ。私の頬や鼻に当たるつんつんした短い髪の感触と、性の香り。男性の。
空には星がちらつきはじめ、しわくちゃになったシーツが、宵の水色に染まって、寄せる波のように見える。
そんな風に私が抱いている間、じっと傷を癒す小動物のように先輩は固く目を閉じて私の鎖骨あたりに鼻をぐっと埋めていた。
ステレオからは優しいけれど、どこか寂しいバラードがふんわり流れる。
しばらく経ってから。彼はポツンとつぶやいた。
「いれたい」
お互い慣れないことに、四苦八苦しながらようやく先輩が動き出した。
私はそのたび押し寄せる痛みにギッと耐えていた。
室温を感知しては動いたり止まったりするエアコン。時々止まったり動いたりする私たち。
痛みから逃げるようにいつの間にかずり上がっていった私は、ベッドの木枠でゴツンゴツン頭を打ち付けていた。
「ちょっと下がろうか」
それに気づいた先輩が、私の背中に腕を差し入れてグッと体を下げ寄せた。
「痛」
その拍子に、痛みが体の真ん中から全身にズキンと駆け抜けた。
「大丈夫か?」
「うん」
「あのな、アーって声出してみ。力抜けるから」
「? ラー・・・・」
私は訳がわからず、言われるままに声を出した、つもりだった。
「なんでハミングやねん」
先輩は私の肩で、クックッ笑った。
「あれ?ラーって言うた?変になってもうた」
その言葉に彼は余計笑って、お前おもろいなーと私の髪を撫で、またキスをした。
緊張がほぐれたのか、私は少しずつ先輩のリズムに慣れていった。
揺れる
先輩が揺れる
私が揺れる
揺れる
ベッドのスプリングがギッギッ揺れる
星が、揺れる
揺れる
好きな人とひとつになりたいから、一緒に泣いたり怒ったり・喜んだりする。
それでもひとつにはなれないから、体を重ねる。ひとつのリズムになる。
揺れる
真ん中。身体の真ん中から来る刺さるような痛み。
躰。
躯。
からだ。
カラダ。
薄い皮膚の下には赤い血が巡っていて、休むことなく臓を動かしていること。凛と燃える青い魂を宿していること。
スプリングの軋む音と心臓の鼓動がシンクロしていく。
目を閉じた私の頬や唇にポタポタッと何かが落ちた。
ハッと目を開けると、それは先輩の汗だった。
じんわり満ち潮のように口内に広がってゆく潮の香り。海の記憶。躰は覚えている。ヒトがどこから来てどこに還るのかを。
だから早く。今がある内に。
「ごめんな」
浅い呼吸をつき、苦しそうな悲しそうな表情で先輩はつぶやいた。
何についてあやまっているのかわからなかったけれど、ううん、と私は首を起こし、彼の唇に自分のそれを合わせた。
私からキスをするのは、はじめてだった。
焦燥感がせめぎ合う瞬間瞬間の火花の中、汗でビシャビシャの彼の背中をぎゅっと抱きしめると、私もビシャビシャになった。合わせた胸も腕も。首筋、頬。
二人ともが泣いているようだった。大声で泣いているように・濡れた。
「泣きたい」と「抱きたい」は似ている。
十二歳と十四歳。たとえ、ふたりの行為が命の不思議の真似事だったとしても、私はふたりの間に生まれる何かを見た。はっきりと見たのだ。
私たちはひとつに限りなく近い塊になって、揺れ続けた。
第十一話「一瞬の光の中で」 へ続く
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