昨日、私の住むマンションから花火が小さく見えた。
夏の欠けた月の下で、花火が小花のように咲いた。
窓ガラスの枠の中で一枚の絵みたいだった。


淀川花火大会。


私は急いで冷蔵庫に走って、チューハイとたこわさびを出してきたんだ。
クーラーの効いた部屋を暗くして一人だけの花火鑑賞。


糸みたいにひゅるひゅる頼りなく空に駆け上ってパッと丸く咲いたりキラキラ残像を残したり、たくさん連続で弾けたり。大きいのや小さいの、色んな花火が街明かりを薄く抱いたグレーの夜空に、また幾筋もの光る糸になって吸い込まれてく。


そういえば。
浴衣を着て花火大会に行ったことあったなぁ。
お酒が弱い私はあっという間にぼうっとしてきた頭で、思う。


「背筋ピンとのばしてきれいに歩きや。でないと田舎娘みたいにみっともなくなるからな」
「うん」
真夏。じっとり汗がにじんでくる。
生まれてはじめて浴衣を着た日、
私は実家でお母さんに浴衣を着付けてもらった。
「手あげて」

「後ろ向いて」

てきぱき着付けてくれるお母さん。
なんだか子供の頃に戻ったみたいで恥ずかしかった。


何歳から自分で全部着替えをするようになったんだったっけ?

浴衣姿の私を見て、お母さんは私より嬉しそうだった。



チューハイをちびちびやりながら、たこわさびをつまむ。
たこわさびってすごい発明だと思う。
考えた人は天才だ。
夜空がオレンジの連続花火にバーっと一気に染まった。
「おーー!!」暗い部屋で歓声をあげる私は確実に怪しい。


今まで何度も花火は見たけど、どれもやっぱり綺麗だった。
大阪名物PLの花火大会も、

石垣島で見たビール祭りの花火も、

カウントダウンの花火も、

他色んなところで見た花火も。
違う年齢で・違う場所で・違う人とたくさん見てきた。
家族だったり友達だったり恋人だったり。
花火を一緒に見ると心がひとつになった。

あの友達はどうしてるかな?彼は元気でいるのかな?
色んな夏の夜空の下で同じ花火に頬染めた皆は、今誰と花火を見てるかな?



私は窓を大きく開けた。
湿気の粒が見えそうな、ぬるい夏夜の空気がのっそり部屋に入り込んでくる。
遅れて響く、ドンという音がダイレクトで心地いい。

この方がガラス越しに見るより、全然いいや。
チューハイの缶の水滴を無造作にはらって一息に飲む。


お腹に響く花火の音。手を濡らす水滴の、喉を通るチューハイの、冷たさ。
私は今、ここにいる。

色んな人・色んな事を経て、ここに。
誰かと見る花火もいいけど、一人で見るのも悪くない。

全然悪くない。


「ウワン」
花火の音に反応した隣の可愛いワンちゃんが、大きく吠えた。


お盆。実家に帰ったらまたお母さんに浴衣を着付けてもらおう。
そうしよう。
酔っ払いの潤んだ目に映る花火は今年も格別だ。


                    おしまい


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