飛田給駅南口を降りるとロータリーがあって、道の向かいへ渡ると線路と平行に路地が一本。武蔵野台方面へ少し歩けば、左手に美しい曲線のアプローチとくっきりした輪郭の一本の木が顔を見せる。
二〇一一年三月十二日、東日本大震災の翌日にオープンした「ふうの木」。店名は庭に植えた「タイワンフウ(楓)」からとった。
高い天井に梁がわたしてあって、東向きの窓から明るい光が差し込む。静かにクラシックが流れて、植物の緑が目に優しい。
チーズケーキとコーヒーを注文して窓から空にうかぶ白い雲をぼうっと眺めていたら、ふと軽井沢か安曇野にあるカフェにいるような気分になった。
「お店のメニューはどれも安心できるもの、うちの庭でとれるもの。みなさんのリビングになるようなお店がいいなと。秋にはふうの木が色づいてきれいよ」と、オーナーの橋本さん。
ふうの木とともに、ていねいに積み重ねた十年目の夏が静かに過ぎていく。
(『そよかぜ』2020年9月号/ひとやすみ)