文豪だろうと駆け出しだろうと、原稿を書き上げるためなら平気で自らの生活を切り売りする。物書きというのは、いわば精神的竹の子生活の職業だ。と、開き直ったところに食欲の秋がやってきた。
今月は番外編として都内へ出たついでに食事でもしようか。というときに、おすすめの店をふたつご紹介。
一軒目は神田駅西口から徒歩二分の「ブラインドドンキー」。駅前のわい雑な空気の中に、サンフランシスコの風薫る自然派レストランが静かにたたずむ。ランチもディナーも料理の中心は力強い野菜たち。個性豊かなナチュラルワインとともにゆったりした時間を楽しもう。ちなみに、インパクトある店名は禅の言葉「瞎驢(盲目のロバ。未熟者の意)に由来する。
二軒目。神保町駅から白山通りを水道橋方面へ徒歩三分。あたりが暗くなるころ、路地裏に明かりを灯す「日な田」。若い店主がひとりでつくる割烹料理の店だ。 九州から届く旬の食材を大分県日田の民芸「小鹿田焼」の器で味わえる。カウンターのみ十席。心通う温かい店だけに、終電の時間を忘れずに。
コロナ騒動もはや半年を過ぎ、たまった心の疲れは胃袋から癒しましょ。
(『そよかぜ』2020年10月号/ひとやすみ)