柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
 正岡子規

 この句を「鐘が鳴る鳴る」だと思い込んでいた、とだれかが言っていた。それはそれでヨーロッパの街の教会の鐘がいっせいに鳴り渡る景色が浮かんできて、ずいぶんにぎやかな秋である。おそらく法隆寺の鐘は一度きり、余韻を長くたなびかせてのひと突きだろう。日本の秋はしずかに更ける。
 先月号で柿のことを書いたら、どこで売っているのかと問い合わせをもらった。
 近くの農家はどこか、そこでは柿を生産しているのか、軒先で買えるのか。そういうことまで伝えないと、かえって不親切な気がして、悩んだ末にスーパー型の産直品販売所を紹介した。
 したのだが、それから数日経って、いやまてよ、農家の軒先で買ってこそ、地元の柿を味わう醍醐味なのかもしれない、と思い返して、我が家の近くにある農家の軒先をのぞいてみる。
 こちらは玄関脇に自動販売機を据えたタイプ。お代を入れるとロッカーの鍵が開いて、中にある柿とご対面。これはこれで便利だけれど、やっぱり人と人のやりとりは必要だよなあと、だれとも話さずに手に入れた柿を抱えて秋の夕暮れの道をひとり歩くのでした。
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 今回立ち寄ったのは三鷹市中原の農家さん。みなさんの地域にも軒先販売所はきっとあるはず。秋の味を探して散歩してみませんか。

(『そよかぜ』2021年11月号/ひとやすみ)